幕間の物語45.借金奴隷は暇になりたい
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ダンジョン都市ドランにある元愛妾屋敷の一つにシズトたちは住んでいる。その屋敷の一階にある部屋の一つで、借金奴隷であるハーフエルフのノエルは引き籠るかのように生活していた。
日がな一日、魔法生物であるホムラから課せられたノルマを黙々とこなしていく。その部屋から出るのは食事の時だけ。
同じ魔道具作りを繰り返し行っていた彼女の魔力は着々と増加していた。
一日中魔道具を作っていても魔力切れのだるさを感じなくなってしまったのを喜ぶべきなのか、それだけ扱き使われていると嘆くべきなのか彼女は分からない。
最近は大量発注が入りそうという事で、入浴魔石と沸騰魔石の廉価版を作ってばかりだった。時々体をほぐしながら取り組むが、どうしても飽きる。時々引き出しから魔道具を取り出してちょっとの時間魔法陣を眺めて気分転換をする。
そんな彼女に厄介事が舞い込んだ。
「絶対嫌っす! 断固拒否っす! シズト様、人体実験なんてひどい事ボクにしないっすよね?」
「いやー、僕も作る度にノエルにお願いするの面倒だから自分でしたいんだけど……」
「あら、シズトくんはまだ反省してないみたいね? もうちょっとお姉ちゃんが抱っこしてないと危ないわね」
ノエルが応接間に無理やり連れて来られて聞かされた話は、彼女の貴重な活動時間をさらに削る内容だった。
確かにノエルは魔道具作りに心血を注いでいる。注いではいるが、どのくらいの能力があるのかを実験するのをわざわざしたいとは思わなかった。彼女にとって、既に出来上がっている魔道具さえあればそれで充分だった。
「別にボク以外がしてもいいんじゃないっすか?」
「それはダメね。私たちはシズトくんの護衛だし、なんでもやってくれる王女様とはいっても、流石に魔道具の実験に使うわけにはいかないのは分かるでしょう? 屋敷の警備をしている面々も、屋敷内外の監視業務があるから何かあってはいけないし、何よりあなたは私たちの中で一番魔道具を使い慣れてるでしょう? もうこれは決定事項なの。ホムラちゃんにも私からも言っておくわ」
「せめて実験につきあった分だけノルマを減らしてほしいっす!」
「一応言ってみるけど、あんまり期待しないでね?」
膝に乗せたシズトをがっちりとホールドしながら座っていたルウが立ち上がり、シズトを抱っこし直すと応接室から出ていく。シズトは顔を真っ赤にしながら何とも言えない表情で無抵抗のまま連れ出されていく。
ノエルは自室に戻るともう随分慣れてしまった空間魔法が付与されている作業台に座って作業を再開する。
結局、彼女の願いが叶う事がなかったが、「まあ、ダメ元で言ったから別に気にしてないっす」としょんぼりしながら独白するだけだった。
そんな話があった翌朝。魔道具の実験をするからと、朝食の後にシズトに呼び出された彼女はしげしげと『空飛ぶほうき』を眺めていた。どこにでもあるほうきだったその魔道具をしばらく凝視していた彼女だったが、結局魔法陣を読み取る事はできずに諦めた。
「それで、魔力を一気に流し込んだら猛スピードでまっすぐ突っ込んだんすよね」
「うん。あれはさすがにびっくりした」
「びっくりで済んでよかったっすね。どれ、試しにやってみるっすか」
そう言ってノエルはほうきに跨り、ほんの少しずつ魔力を流していく。
ちょっとずつ彼女の体が浮いていき、ある一定量の魔力が流されると歩く速さくらいで前に進み始める。
ノエルがほうきの先端を上に向けるとそのまま上の方へと上昇していき、下に向けると地面に激突するまでまっすぐ降りていった。右に体を傾ければ右に旋回して、左に体を傾ければ左に曲がっていく。
「なるほど。杖の向きで方向を指定してるわけっすね。となると魔法陣で得てるのはその場で待機する浮遊と、推進力って感じっすか。シズト様は魔力の扱いがおおざっぱだからいきなりドバっと入れた感じっすね」
「魔力量の問題だったら、魔石を使うタイプにすればああいう事故は起きないかな?」
ぶつぶつと地面に叩きつけられたほうきを拾いつつ、自分の考えをまとめているノエルにシズトが眉を八の字にして困った様子で改善案を尋ねる。
ノエルは首を振って否定した。
「それだと魔石が切れてしまった時に真っ逆さまに落っこちるっすよ。魔石の中に残りどのくらいの魔力が残っているのか分からない人もいるから、絶対いつか事故が起きるっす。それならまだ、自分の魔力を使って飛んだ方が、どのくらい魔力が残っているか常に分かるから事故は起き辛くなると思うっすよ」
「そっかー。じゃあやっぱり、魔力調整できるようにならないと空飛べないのか。ほら、ノエル早く実験してそれ返してよ。練習するために待ってるんだから」
シズトが早く早く、と待ちきれない様子でノエルを急かすが、ノエルは自分が実験をしたとしても彼がこの魔道具を使う事はないんだろうなぁ、と腕組をしながらこちらを注視しているルウをみて思った。
「まあ、だいたいどんな感じか分かったっすし、ちょっと遊ぶ気分で頑張るっすよ。ちょっとやばそうだったらルウ様、助けてほしいっす」
「そんなに遠くまで飛んでいかない限りは大丈夫よ」
「それじゃ、ぱぱっと性能チェックしてみるっす」
そう言うとノエルはほうきに跨り、大地を蹴った。
彼女の込める魔力に比例してぐんぐんと飛行速度が上がっていく。危なげなく敷地を飛び回る彼女をシズトが羨ましそうに見ていた。ノエルが上空にぐんぐんと上がって行けば、シズトはそれを魔道具でしっかりと様子を見ている。
一通り飛び回った後、無事シズトの近くに着地した彼女は開口一番、こう言った。
「めちゃくちゃ寒かったっす……!」
精霊魔法がなければやばかったかもしれない。
そんな事を思いつつ、ノエルはシズトが新しく作り出した暖房器具で温まっていた。
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