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後日譚505.執事はお話をした

 付与の神エントから加護を授かったシズトによって生み出された魔法生物は起動していない者も含めれば十数人以上いるのだが、その中でも最高ランクの魔石を用いて生み出された特殊な個体の内の一人が常に執事のような恰好をしているセバスチャンという男だった。

 人族の男性のような見た目の彼が御者をすると注目が集まる。

 それは彼が有名だから、等ではなく、黒髪黒目で端正な顔立ちをしている事や、身なりの良い恰好に合わない古い荷馬車の御者をしているからだった。

 服をそれっぽい物にすれば多少は視線は薄まるかもしれないが、それだけは譲れないのか、それとも周りの反応を気にしていないのか着替える様子はない。

 そんな彼は、ニホン連合を回るのであれば端の方から言った方が効率的だ、という事で都市国家トネリコに転移陣を用いて移動した後は、用意させていた荷馬車を走らせていた。


「…………仕掛けてくるのは今日の夜くらいでしょうかね」


 誰に言うでもなくそう呟いた声に反応したのは荷馬車に紛れ込んでいたドライアドたちだったが、すぐに荷物の影に引っ込んだ。

 それから荷馬車は何事もなく進み、国境を越えてしばらくしたところで野営に適したところが見つかったのでそこでセバスチャンは荷馬車を止めた。他に野営をする者はいないようだ。

 カモフラージュ用に載せているだけの荷箱を端っこの方にどかすと微睡んでいたドライアドが支えを失い、こてんっと床板に倒れ込んだのでセバスチャンは起こさないように気を付けながら荷箱の方へと移動させた。


「…………こんなものでしょうか」


 魔法生物には睡眠が必要ない。必要ないが、無駄に夜を過ごすのも躊躇われるので寝具を持ち込んでいた。それを用意し終えた彼は、外で休ませている馬の様子を見に荷台から降りた。

 そうして誰もいなくなった荷台のなかで、コロコロと転がって移動したドライアドが布団の中に潜り込んだのだが、その様子を見ている者は誰もいなかった。





 馬の世話を終え、食事の必要はないが誰が見ているかもわからないので食事も軽くとったセバスチャンは、周囲に誰もいない事を再度確認してから荷台に戻った。

 それからしばらくの間、何も起きる事もなく静かに夜が更けて行った。

 月と星の光だけが草原を照らす中、夜行性の魔物が何度か近づいて来たが、馬車に辿り着く事も出来ず、音を立てる事もなく命を散らしていく。

 日が変わる頃には無数の魔物の死体が草原の中に放置されるような状況だったが、その魔物の死体に気付いていないのか、無視する事にしたのか、馬車を包囲するように広がっている集団が静かに輪を狭めていく。

 慣れた様子で遠距離攻撃の射程範囲に入った彼らは、前衛と後衛が入り混じっているのか、さらに輪を狭める者とその場に待機する者に分かれた。

 前衛と思われる十名ほどの人影が所定の位置に配置したところでタイミングを合わせて襲撃をしようとしたその瞬間、荷馬車の方で動きがあった。中から人が出てきたのだ。

 闇夜に紛れるほど黒いスーツに身を包んでいるが、身につけている白い手袋や肌の白さでそこに誰かがいる事は夜目が利く襲撃者たちには見えていた。


「こんな夜更けにお客さまとは珍しい……とは言い切れませんね。どこの手の者かお答えいただきたいのですが、どなたにお聞きすればよろしいですか?」


 静かに落ち着いた口調で問いかけるセバスチャン。だが、襲撃者たちに応える者はいない。

 同時に荷馬車に接近した襲撃者たちだったが、タイミングを合わせて後ろから飛んでくるはずの遠距離攻撃がない事に気が付いた。気が付いた時には時すでに遅かったのだが、最初の攻撃は全員が跳んで交わした。


「外れましたか、残念です」


 すこしも残念そうにないセバスチャンは地面に杖をついていた。加工され、見事な装飾がされたその杖は一目で高い物だと分かる物だった。

 護衛を一人もつける事もなく、荷馬車を走らせていた御者がその様な高価な物を持っているのはなぜか。

 すぐに理解した襲撃者たちだったが、よほど腕に自信があるのか、それとも後衛職と判断したのか――身体強化魔法を同時に使用し、一気に距離を詰めた。

 肉薄されたセバスチャン。だが、慌てる様子もなく、迫りくる凶刃に臆する事もなく、ただ一言「わざわざ近づいてきてくださってありがとうございます」と言うとどこからともなく取り出したナイフで応戦した。

 多勢に無勢のはずだが、一人、また一人と倒れていく襲撃者たち。

 半数ほどがやられたところで逃走を図ろうとしたようだが、彼らの足元から伸びた黒い影や、突如伸びた草が彼らを絡めとり、逃げる事も出来ずに昏倒させられた。

 少しの間、再び夜の静寂が周囲を支配したのだが、荷台からひょこっと顔を出した集団がセバスチャンに話しかけた。夜の闇に完全に溶け込むほどの真っ黒な肌が特長的なドライアドたちだ。彼女たちは夜行性のため、眠たそうな子は一人もおらず、爛々と黄色の瞳を輝かせていた。


「人間さん、捕まえた人間さんはどうするの?」

「私の方で対処するので大丈夫です。もしも手が空いているのなら死体を回収して荷台に乗せておいてもらえますか? もしかしたら指名手配されている者たちかもしれませんから」

「わかった~」

「集めるね~」

「どこにあるのかな?」

「わかんないけど、見て回れば見つかるんじゃない?」


 賑やかにお喋りをしながら荷台から離れていくドライアドたち。

 それを見送ったセバスチャンは、捕えられた一人の人物を手荒に意識を覚醒させると情報収集を始めるのだった。

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