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後日譚504.連れ戻されし神は別に寂しくない

 下界で悪さをしたまじないの神チャムは今日も今日とて最高神の下で下界の様子を見張っていた。

 彼の前には多数の球体がふよふよと浮いていて、それらすべてを操作しながら異常がないか確認する様子は手慣れているようだった。

 彼の罰が少しでも減り、少しでもシズトの様子を実況させる時間が増えるようにと今日も一緒に下界の様子を見張っているとある神様たちがそれぞれ一つずつしか操作していないのを彼の異常性がよく分かる。


「ねー、チャム~」

「…………」

「チャムってば~。下界を見るコツを教えてよ~」

「…………」

「ねぇねぇねぇねぇ――」

「あ~~~、もう、鬱陶しい!」


 下半身の先端である尻尾の先をツンツンと突かれ続けたチャムは吠えた。だが、蛇の尻尾と化している彼の下半身を突きまくっていた人物は「やっとこっち見た。無視しちゃダメなんだよ!」と頬を膨らませている。

 部屋の中にいる神の中で一番小柄で、幼い体つきをしているその女神の名はプロス。加工を主に司る神で、シズトに加護を授けた事がある神の内の一柱である。

 そんな彼女は、操作していない水晶玉を両手で抱えてチャムの方にやってきた。その後を追うように操作をしている球体がふよふよとゆっくりとついて来ていた。移されているのほあどこかの海の中のようで大勢の魚人が魚を追いかけて漁をしているようだった。


「どうやったらそんなにいっぱい同時に動かせるの?」

「知らない」

「教えてくれたっていいじゃん、ケチ! 私たちがたくさん下界を見る事ができるようになったらチャムが罰を受ける期間が減るんだよ?」

「余計なお世話だよ。別に僕はずーっとここで下界の様子を見てるだけでもいいし」


 少なくともとある人間の観察をして実況をするよりはましだ、なんて言いながらチャムは下界が映っている球体の方に視線を向けた。


「それに、コツなんてほんとに知らないし」

「じゃあ、どうやってそれだけの数の『下界玉』を操る事ができるようになったのかな……?」


 おずおずと問いかけたのは黒髪が美しい女神エントだった。プロスと同時期にシズトに加護を授け、中級神へと成長したが、彼女はプロスとは異なり大人びた体つきになっている。

 その差をよく嘆いているプロスだったが、今はそんな事よりもコツを知りたいとチャムの周りをぐるぐる回ってちょっかいをかけるのに忙しいようだ。


「…………別に。何もする事がなかったから常に外の様子を見てただけだよ。要は慣れさ」

「慣れ、という言葉だけで片付けるには少々特異すぎる気がするのう」

「ジジイは黙ってて」


 辛辣な言葉を向けられてもホッホッホッと笑っているのは最高神と呼ばれる神である。創造神とも呼ばれる事もある最高神は長い髭を弄りながら孫を見るような優しい眼差しでチャムたちの様子を見ていた。

 その視線に気づいてさらに居心地が悪く感じたチャムは時間を確認した。まだ今日の作業の時間まで少々残っている。


「こういう時に限って時間が進むの遅く感じるんだよなぁ」

「なんか言った?」

「なんでもないよ」


 考えがすぐ口に出る悪癖をいい加減直す努力をした方が良いだろうか、なんて事を考えながら下界玉を操作していたチャムはふと一つの下界玉に映った景色が通常と異なる事に気が付いた。


「…………なんだ、異常気象か」

「ん~? ……お天気悪いだけでそれ以外は特に影響はなさそうだね」

「シズトくんがすぐに対応してくれるかな……?」

「すぐじゃなくてもその内呼ばれて対応するでしょ」

「でも、もうすぐシズトくんの誕生日だったよね……? 対応は難しいんじゃないかなぁ……?」

「じゃあ自然に収まるのを待つしかないね。近くに住んでる者たちはご愁傷様って感じだわ」

「そんなひどい事言っちゃダメなんだよ! シズトに呼びかけてすぐに対応してもらおーよ」

「ついでに誕生日おめでとうって伝言を伝えろって? やだよ、めんどくさい」

「じゃあいつ誕生日おめでとうって伝えるの!」

「今でしょ、だのう」

「ジジイ、古い」

「だってジジイじゃもん」

「キモ」

「い、つ、つ、た、え、る、の!」

「ちょっと尻尾突くなよ! 下界の監視に集中できないだろ!」

「それは困るのう。プロス、突くのはやめなさい」

「う~~~」

「唸ったって伝えないよ。なんでわざわざ僕があいつの誕生日を言わなくちゃいけないのさ」

「チャムが祝うんじゃなくて、私たちがおめでとうって言ってたって伝えてくれるだけでいいんだよ!」

「やだよ、めんどくさい。ギュスタンとか言うのに言わせたらいいんじゃない?」

「当日に言って欲しいの!」

「僕の知った事じゃないね、そんな事は。あいつの子どもにでも頼めばいいだろ。喋るようになってんだし」

「…………それも、そうだね……?」

「チャム、でかした!」

「お、お祝い言うように伝えてくるんだなぁ」


 最初に動いたのは部屋の中で一番大きな巨体の持ち主であるファマだった。どしんどしんと足音を響かせながら出口へと向かう彼を追い越してプロスが部屋を出て行き、そんな二人の後を追うために立ち上がったエントはぺこりと最高神に向けて頭を下げ「チャムくん、ばいばい……?」と言ってから部屋から出て、静かに扉を閉めた。

 放置された下界玉が力を失って床に転がる。それを近づく事もなく起動し、自分で操作するために引き寄せたチャムは「やっと静かになった」と呟いた。


「どこか寂しそうな雰囲気じゃのう」

「ハッ。そんなわけないだろ。……それより、これはしばらく放置でいいんだよね?」

「そうじゃのう。観察はし続けるが、今の所時空に影響はないから放置でいいじゃろう」


 大荒れの天気模様が写された下界玉を最高神の方へと向かわせたチャムは、その後も最高神と取りとめもない話をしながら下界の様子を見張るのだった。

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