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後日譚503.龍姫士は移動手段を確保した

 タルガリア大陸の最大級のダンジョン『フォレスト・アビス』から見て東側にある他種族国家であるレビヤタンからファマリアに常駐する外交官として派遣されたのは、レビヤタンの王女リリス・レビヤタンである。

 ファマリアにいる間は龍に騎乗する事もないので普段着と化しつつある簡易的なドレスは今日は着ていない。迎賓館での情報交換を繰り返した事で、シグニール大陸の情勢については既に情報を集め終え、本国への手紙もガレオールから出ている定期便に託したのでわざわざ慣れないドレスに袖を通す必要もないだろう、と着ていると落ち着くからという理由で鎧を身につけた。

 一人で過ごすには大きすぎる屋敷はお手伝いとして派遣されている町の子たちに管理を任せ、玄関から外に出るとすぐに近づいて来る者たちがいた。


「人間さん、お寝坊さんだねー」

「そうかしら?」

「ちょっと前まではもっと早く出てきてたでしょ?」

「ああ。小難しいお話をする必要が無くなったからこの時間でも問題ないのよ」

「へー」


 リリスを見上げるのは肌が白いドライアドである。

 リリスが授かっている加護『意思疎通』によってレモンちゃんと呼ばれるドライアドが言っている事がしっかりと理解できるからか、それともシズトと一緒に行動している時は彼と同じようにドライアドが引っ付いても文句を言わなかったからか、良好な関係を築けていた。

 敷地内が多種多様な植物で埋め尽くされる事もない。遠くで褐色肌の小柄な人影が、庭師見習いの子に追いかけまわされているがリリスは見なかった事にした。

 彼女が歩き始めると、いそいそと肌が白いドライアドがリリスの体に引っ付いた。


「どこいくの?」

「街を見て回るのよ」

「何か見たい物があるでござるか?」

「シズト様のプレゼントに相応しいものが何かないかと思ってね」


 小柄なドライアドが体をよじ登りながら話に加わってもリリスは気にした様子もなく話を続けた。

 シズトの誕生日が近いという事は常駐している貴族の間では知っていて当たり前の情報となっていた。

 町の子たちが浮足立っているのもあるし、行商人たちが大勢押しかけて誕生祭の前に祭りのような雰囲気が出始めていたのもあったからだ。


「ただ問題はシズト様が好きな物が何か私が知らない事よね。なんとか他の貴族よりも良いものを用意したいところだけど……。シズト様の好きな物は何か知ってるかしら?」

「しずとさまってどの人だっけ?」

「なんか聞いた事がある気がするでござる」

「間に合った~。セーフ」

「セーフだねー」

「セーフでござる」

「別にアウトなんてないんだけど……」

「何の話をしてたの?」

「しずとさまの話だよ」

「誰だっけって話してたでござる」

「あなたたち、良く引っ付いているじゃない」

「ああ。あの人間さんね。ほら、私たちの中でも小さい子が肩の上を陣地にしている人間さんだよ」

「あー、確かにそんな風に呼ばれていた気がするでござるなぁ」

「それぞれ呼び方が違うって大変だねぇ。それで? その人間さんの何の話をしてたの?」

「好物を聞かれたでござる」

「お水じゃない?」

「お日様の光も好きだと思うよ」

「きゅうりでござるな。きゅうりはよく丸かじりしているでござる」

「トマトだってしてるもん」

「私たちが育てたものもたまに丸かじりしてるよ! …………レモン以外」


 体に引っ付いた三人が好き勝手話始めたところでリリスは聞く相手を間違えたのを悟ったリリスは、諦めて自分で何か見繕う事にした。

 敷地外から出ると、奴隷の証である首輪をつけた子たちの視線が集中するのだが、リリスは気にした様子もなくドライアドを引っ付けたまま通りを歩いた。馬車を使う事も考えたが、このファマリアという街で小回りが利くのは魔道具『浮遊台車』を用いた移動である。

 通りをきょろきょろとしながら歩いているとその様子から意図を察した一人の奴隷が浮遊台車を押してスイーッと近づいて来た。


「お姉さん、乗る?」

「ええ、お願いするわ」


 思ったよりも早く話しかけられたことに内心驚きつつもリリスは笑顔で返事をして浮遊台車の上に座った。体に引っ付いていたドライアドたちも当然のように同乗するので狭いのだが、移動するには何も問題ないようだ。魔力が込められた浮遊台車が浮き上がった。


「どこに行くの?」

「そうね。色々な物が見たいからマーケットに向かってもらえるかしら?」

「はーい」


 スイスイと進み始める浮遊台車は、人を乗せているからか他の浮遊台車よりもスピードが少し遅い。ドライアドたちはそれでも楽しそうに騒いでいるが、なにも話をしないリリスに気を使ったのか、浮遊台車を押している女の子が話しかけた。


「お姉さんは冒険者さん?」

(なるほど、外見で貴族とは思わなかったのね)


 ファマリアにいる貴族は外交のために滞在しているのでドレスやらスーツやら身なりの良い服装である。

 騎士爵の貴族であれば鎧を身に纏っている者を見ても貴族かもしれない、と思うかもしれないが今のところファマリアにはいない。

 そういう訳で貴族と思われず、呼び止める前に話しかけられて浮遊台車を利用できたという事を理解したリリスは冒険者のフリをする事にして頷いた。実際、冒険者登録は幼い頃にしていたので嘘はついていない。


「どこから来たの?」

「随分と遠くの所よ」

「そうなんだ~。ファマリアには世界樹を見に来たの? それともシズト様?」

「どちらかというとシズト様ね。世界樹もとても珍しいものだから、この目で見れてよかったわ」

「そっか~。シズト様もパレードでお姿を見る事ができるし、お姉さんくるタイミングバッチリだね! ……あ、冒険者さんなら商業区の方が良いかな? それとも工業区?」

「できれば全部見て回りたいんだけど、協力してくれるかしら?」

「良いけど、一日で全部は厳しいんじゃないかなぁ」

「明日以降もお願いしたいんだけど予約とかはできないのかしら? できればどこを案内したか分かるあなたにお願いしたいんだけど」

「できるよー。ただ、その分追加料金とかあるけどね」

「それじゃあお願いするわ。お金は後でいいかしら?」

「うん、いいよ」

(しばらくドレスは着ない方が良いわね)


 明日の分の移動手段もしっかりと確保したリリスは、最初の目的地に到着した際に今日の分の料金をチップも含めて少し多めに支払うのだった。

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