後日譚502.事なかれ主義者は後回しにした
お酒をお昼から飲むってどうなんだろう、って思っていたけれどせっかく貰ったしすぐに飲む事にした。飲んでみると意外と楽しい。
酒の匂いに釣られてやって来たシンシーラや、いつの間にか近くにいたドーラさん、それから農作業が一段落したレヴィさんとセシリアさんも含めて酒盛りをした。
酒盛りと言っても、参加者の半数が酒を飲めないんだけど、それもあってか普段獣人組以外とは話をしている様子がないシンシーラが他の人に「匂いだけでも嗅がせるじゃん!」とダル絡みする様子を見るのはなんだか面白かった。
それでもやっぱりお酒を飲めない人たちの前でお酒を飲むのはどうなんだろう、なんて事を思いながらワイングラスを傾けると、ドライアドたちが収穫した果物を使って作ったジュースの飲み比べを楽しんでいたレヴィさんが「そういえば」とこっちに視線を向けた。
「シズトは誕生日パレードの事は何か考えてるのですわ?」
「当たり前のようにパレードをする事になっているのに物申したいけど今更だね。……別に例年通りぐるっと回っておしまいじゃない?」
「他の国々の貴族を町に受け入れたから多少はそっち方面にも気を使って何かをした方が良いと思うのですけれど……」
「あー………」
そういえば去年と違って町に他国の外交官が常駐しているんだよなぁ。
僕の誕生日が一ヵ月を切っているという事でファマリアの様子が変わっている事には彼らも気づいているだろう。……失念してました、って事でいつも通りサクッと終わっちゃダメかなぁ。
腕を組みながら考えていると、レヴィさんの隣に珍しく座って、レヴィさんの代わりにワインを飲んでいたセシリアさんが話に入ってきた。
「付け加えると、教会の方にも何かしらのアクションはした方が良いかもしれませんね」
「関係ない神様たちなのに?」
「一応ファマリアはシズト様が治めている町なので、そこに支部を立てた教会とは多少の繋がりはあると思いますよ。それに、子どもたちが加護を授かっている神々もいらっしゃいますし。無関係を装っているシンシーラも側室の一人として関係ありますからね」
ドーラさんが持っているお酒の匂いをクンクンと嗅いでいたシンシーラが驚いたのか、栗色の尻尾を逆立てた。
「子どもたちの事を引き合いに出されるとなぁ……。サクッと終わらせたかったんだけど、そうもいかないか。……でも、具体的に何をすればいいの?」
「迎賓館で誕生日パーティーを開けば貴族の方はそれで問題ないでしょう」
「そうですわね。そうすれば向こうから勝手にやってきて祝いの言葉を述べて贈り物を渡してくるはずですわ。その際に多少雑談に付き合えば、シズトだったらそれで問題ないと思うのですわ」
「あまり社交界に出る方ではないのが幸いしましたね」
レヴィさんとセシリアさんが二人だけで何やら納得しているけれど、その程度で済ませられるのならいいか。
「教会の方は何をするのが一般的なの?」
「教会に赴き、感謝の祈りを捧げる事ですね。シズト様と御婚約されてからはレヴィア様も誕生日の月には必ず教会に赴いて祈りを捧げるようになりました」
「そうなんだ?」
「毎日土いじりばかりしているわけではないのですわ!」
胸を張って言われても、正直いつ行ってるのか分からないくらいにはいつも農作業をしているからな。言われなかったら今後も気づかなかっただろう。
「じゃあ僕も来月中に教会を回って祈りを捧げればいいの?」
「そうですね、と言いたいところですがレヴィア様の場合はファマリアに教会がないからその様に対応しているだけです。加護を授けてくださった神様の教会が町にある場合は、誕生日に教会へ行って祈りを捧げる事になるのが普通ですね」
「なるほど。……それはラオさんたちも?」
「どうでしょう? 平民の間ではその様な事をしているかは分かりません」
「信心深い人だったらわざわざ大きな街に出る事もあるじゃん。ただ私の場合は周りが冒険者だったからそういう人が多かっただけかもしれないじゃん」
「多くの人、町から出ない。危険だから」
「そうなんだ?」
「ん。命がけ」
「冒険者を雇えば安全じゃん。ただ、護衛依頼はそこそこランクが上の冒険者しか受ける事が出来ないようになってるからお金がかかりすぎるじゃん」
「へー、そうなんだ」
僕の場合は魔道具を売ってお金を稼ぐという手段があったけど、加護も何もない人の場合だとそんな大金を一気に稼ぐ事も出来ないから成人を迎えるとか何かしら特別なタイミング以外は教会に行かず、家で祈りを捧げて終わりなのが多いらしい。
「……とりあえずアッシュとジュリウスに今度相談しようかな」
酔った状態で決めると後で後悔するかもしれないし、なんて事を考えながら、エミリーが持ってきてくれた新しいおつまみに手を伸ばすのだった。