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後日譚500.事なかれ主義者は時々確認しようと思った

 朝食後のティータイムを過ごした後、僕は屋敷を後にして外に出た。

 今日の服を見ても引っ付いて来ようとしているのか、何でもないふりを装いながらついて来るドライアドたちに「駄目だよ」と釘を刺しながら転移陣の方へと向かう。

 今日の依頼人は義兄であるドラン公爵だ。例年よりも雨の量が少ないからという事なのでほどほどに雨を降らせてほしいらしい。

 最近エルフたちの正装であるあの真っ白で派手な服を着てばかりだったからか「いつもと違う!」と不満の声をあげているドライアドたちを放っておいて僕と肩の上に乗っけたレモンちゃん、それからジュリウスは転移陣を使ってドランへと移動した。


「やっぱりこっちの方が動きやすいし、しばらくはあの服着るのやめようかな」

「れも!?」

「シズト様がお望みであればそうなっても問題ないように取り計らいますが……」

「れもも!?」

「いや、冗談です。冗談だからレモンちゃん、髪の毛わさわさしないで。くすぐったいから。あとジュリウスも伝達用の魔道具を取り出さなくていいから」


 ジュリウスが「左様ですか」とだけ答えて魔道具をアイテムバッグの中にしまったので、僕たちは転移陣を設置している部屋を後にして正面玄関から屋敷の外に出た。

 正門まで続く長い道から少し外れると、以前作った家庭菜園用の畑がある。あるんだけど…………。


「…………久しぶりにこっちに来たけど、はみ出てない?」

「れも~?」

「ほら、こことかさ。育ててるやつじゃない?」

「れもも~?」

「心当たり内なら引っこ抜いてもいいよね」

「れも!? レモモモモモ!」

「だめだよ人間さん!」

「ちょっと広がりすぎただけでござる!」

「プランターに植え替えるから待って~」


 レモンちゃんの呼び声(?)に釣られたのか、どこかからこちらの様子を見ていたのか、慌てた様子で飛び出してきた白い肌の子が僕を止め、畑からだいぶはみ出て周囲を侵食していたミントっぽい草を小柄な子が庇い、慌てた様子で植木鉢やらプランターやらを取りに行く褐色肌のドライアドたち。

 こっちの屋敷は使ってないから放っておいてもいいような気もするけど、線引きはやっぱりしておくべきだろう。今後もチェックしよう。

 そんな事を考えながらせっせとプランターやら植木鉢やらを準備しているドライアドたちを監視していると後ろから声を掛けられた。


「シズト様、いかがなさいましたか?」

「何か問題でもございましたか?」


 振り返るとそこにはメイドさんと執事さんが揃って並んで僕の方を見ていた。

 メイドさん……っていうとミニスカのイメージだけどモニカはいつも通りスカート丈が長いメイド服を着ていた。露出もほとんどなく、汚れが目立たないようにするためか全体的に黒っぽい。

 だいぶ前に明るい色のメイド服をいくつか用意させ、魔道具化して汚れがすぐに消えるようにしたんだけどそれは昼間に使われている所を見た事がない。スカート丈が短かったり露出が少し多い者もせっかく用意したのに、という思いもあるけれどメイドとして譲れない何かがあるのかもしれない。

 モニカの後に続くように問いかけてきた執事の方はホムンクルス――魔法生物の内の一人であるセバスチャンだ。

 普段は荷物をほとんど持たない彼だったけど、片手で大きなリュックサックのような物を持っている。あれは僕が身内用に作ったアイテムバッグの予備、かな?


「ああ、畑からはみ出ていたミントをやっと片付ける気になられたのですね」

「あ、気が付いてたんだ?」

「もちろんです。屋敷内の管理だけではなく、敷地内の管理や町から派遣されてくる子たちの采配なども任されておりますから。畑から出ていると度々報告があったんです。その度に注意はするのですがなかなか私の言う事は聞いてくれないので……」

「そうなんだ。駄目だよ、ちゃんとこの場所を管理している人の言う事を聞かなくちゃ」

「そう言われても誰が管理してる人かわかんないし~」

「今回は勝手に伸びちゃっただけでござる」

「そーそー。この子たちは広がるのが早いから」

「そういうのもしっかりと管理しながらお世話できると思って僕たちの家庭菜園も任せようと思ったんだけど、出来ないならやっぱり別の人に頼むしかないかなぁ」

「その必要はないよ、人間さん」

「そーそー。私たちちゃんとできるよ」

「今回は気が付かない内に伸びちゃっただけでござる」


 …………今回はこれで押し通すつもりだな。

 まあ、釘は刺したし、やっぱり時々抜き打ちで確認しに来ればいいかな。

 そう思ってドライアドたちから視線を逸らしたところでセバスチャンが口を開いた。


「ドライアドたちに言う事を聞くようにと言い聞かせるのなら私じゃなくてモニカ様にお願いします」

「なんで? モニカは屋敷内の管理をしているんでしょ?」

「いえ、少々思う所がありまして、屋外の事や町の子たちの事についても引き継いだので、出産や育児などで大変な時以外はモニカ様だけでここを切り盛りする事になりますので」

「へー…………何でそうなったの?」

「モニカ様が出産後、復帰してからは十分すぎるほど手が空いてしまったから……というのもあるのですが、手が空いたのなら各地を回ってシズト様がお気に召すような物がないか見て回るのも面白そうだと思いまして」

「確かに面白そうだね。いいんじゃない? 魔動車使う? あれなら転移陣がついてるし、日帰りで戻って来れるじゃん?」

「いえ、流石にあれで行商の真似事をすると目立って仕方がないので普通に馬車で行こうかと」

「そっか~…………。アイテムバッグの中に予備の転移陣があったはずだから好きに使っていいよ」

「ありがとうございます」

「あ、でもバレるとまずいから扱いは慎重にね」

「心得てます」


 セバスチャンの方から僕に話しかけてくるのは珍しいと思ったけど、今回はそれが本題だったようで「馬車の確認をする必要があるので失礼します」と言って離れて行った。

 残された僕たちは、ドライアドたちの監視をしながらモニカの言う事を聞くようにとドライアドたちに時間ギリギリまで説得を試みるのだった。

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