後日譚499.事なかれ主義者はするつもりはない
異常気象を発生させたけれど、特に神様からも何も言われず、他の国々の誰かから抗議がくるわけでもなく、普通に天気祈願の依頼がいつものように届いたので淡々とこなして一カ月ほどが経った。
今日も今日とて依頼が増えた事を依頼の管理を任せているホムラから朝食の席で報告されて何とも言えない気持ちになった。
「あんな事をしても変わらず依頼してくるんだねぇ」
「天候の操作がある程度できるなんて有用な加護、使わないなんてありえないでしょ」
「いや、ランチェッタさんとかは分かるけど、ラロク辺境伯たちが依頼してくるとは思わなかったからさぁ」
そう、僕に異常気象を起こすようにと臨時会議を開いてまで申し出てきた者たちの中でも依頼をしてくる者がいた。それもそこそこの数が。今まで依頼した場所なんて覚えてないけど、ムサシ曰く、今回が初めての依頼だったそうだ。
心境の変化があったのかなぁ、なんて事を思いながらも仕事をこなしたら引き留められるのをスルーしてさっさと帰り続けた。それでも今日みたいに定期的に依頼が来るんだよなぁ。
もしゃもしゃとレモンのマーマレードがたっぷりと塗られたパンを咀嚼していると、ランチェッタさんが「それはあわよくば神様との繋がりを持てたら、とか考えているんでしょ」と口の周りを布巾で拭ってから言った。
「シズトからお手付きしてもらえる、なんて思っていないでしょうけど、勇者と関わった者の中には加護を授かった者がいた、とかそういう話はクレストラ大陸の国々でもあるんでしょ?」
「ガレオールにもあるの?」
「当たり前じゃない」
「ドラゴニアにも同様の話は伝わっているのですわ。きっと、どこの国でも信者を獲得するために教会がそういう話を熱心に広めたんだと思うのですわ」
既に食事を済ませたレヴィさんが話に入ってきた。妊娠が発覚してから一カ月ほどだけど、お腹の中に別の魔力を感じる事以外は特に変化はないらしい。悪阻とかないようで今日もモリモリとご飯を食べていた。
新しくファマリアに建てられた大地の神様の教会に僕やセシリアさんが毎日足繁く通っている成果だろうか?
「…………まあ、確かにファマ様とか覗いている時に見たギュスタンさんに加護を授けてるしちょくちょくある事、なのかな? あー、でもチャム様はちょっとひねくれてるからそういう目的で近づいて来てるような人にはあえて加護をあげないとかしそうな気もする。それを喧伝したらワンチャン依頼が減ったりとか……?」
「しないでしょうね。さっきも言ったけど、天気をある程度操作できるなんて便利さを知ったら元には戻れないわよ。…………シズトが亡くなった後の事を考えると正直それに慣れすぎるのも問題だと思うけどね」
「チャム様の信仰が広がったら流石に加護を授けるんじゃない? いつまで経っても授けなかったら僕が大変だから僕から直訴するし」
「そんな気軽に神様に文句を言っちゃダメよ。あと、忘れているかもしれないけど同じ加護を授かってもこちらの世界の人じゃ勇者――異世界から来たあなたたちの加護よりも効果が落ちるのが普通なのよ。どのくらいの差があるか分からないけど、あんまり楽観視できないわ」
「聖女や剣聖の加護は? ぶっちゃけ、今の姫花よりもちょくちょく出産に同席してくれていた人の方がすごいとか言ってなかった?」
「聖女の加護のような有名で、多くの勇者がいるような者であれば加護の使い方のコツのような物が伝わっていて、それ相応に使えるようになっているという話なだけですわ。ヒメカやヨウタが加護を完璧に使いこなすほどの修練をすれば数年とたたずに追い抜かされるのですわ」
「貴方が授かったようなまだ知られていない加護とかはそういうノウハウとかもないから亡くなった後はしばらく大変でしょうね」
「…………あんまり安請け合いしない方が良いかなぁ」
「信仰を広めるためにはたくさん受けた方が良いのですわ。感謝されればされるほど信仰心が集まるのですわ!」
「そうしたら加護を授ける力が溜まるんでしょう?」
「そうだけど……」
次代の『天気祈願』を授かる人に頑張ってもらうしかないのか……。その可能性が高いのは僕の子どもたちになるんだけど…………チャム様に相談しようかなぁ。
「だから、そんな気軽にこっちの要望を伝えるものじゃないのですわ」
「ちょっと考えただけだよ。まだするつもりはないって」
食堂に残って、それぞれ雑談しながらもこっちの話を聞いていたであろう人たちから何とも言えない視線を向けられた。
形勢が不利っぽいし、喋っている間にレモンちゃんがどこからともなくレモンを取り出した気配がしたから急いで僕は食事を再開するのだった。