表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1308/1311

後日譚496.魔法生物たちは集合した

 シズトが魔道具『安眠カバー』の影響でぐっすりと深い眠りについている真夜中に、彼らが暮らしている屋敷の正面玄関が開いた。

 屋敷から出てきたのはとんがり帽子に体をすっぽりと覆うローブを身に纏った二人の女性だった。

 一人は真っ黒な髪を地面につきそうになるほど伸ばしている女性で、紫色の瞳はきちんと扉の鍵が閉まっているか確認するためにドアノブに向けられていた。

 もう一人も女性で、真っ白な髪を短く切り揃えている。同じローブを身に纏っているがこちらの女性の方が女性らしい起伏に富んだ体つきをしているのか、ローブ越しでも胸元の膨らみが分かる。

 そんな彼女は黄色い目で周囲の闇に紛れ込むかのように点在しているドライアドたちを見ていた。

 真っ黒な肌のドライアドたちもまた女性をジッと見ていたのだが、興味を失ったようで暗闇の中に消えて行った。


「…………クーがでてきてないわねぇ」

「仕方ありませんね。迎えに行きましょう」


 屋敷のすぐ近くにある屋敷よりも小さな建物の方へと二人が向かうと、玄関に着いたところで扉が中から開かれた。出てきたのは寝間着姿の男性だった。室内の明かりによって照らされた頭が周囲に光を放っているせいか、二人の女性の後ろにはぞくぞくとドライアドたちが集まっていた。


「ホムラ様? ユキ様もですか。こんな夜更けにどうされたんですか?」

「クーと約束があるから迎えに来ました」

「彼女を回収したらすぐに出て行くからあなたはもう眠りなさい」

「お気遣いありがとうございます。外も異常はないようなのでそうさせていただきます」


 一瞬ドライアドたちに視線を向けたスキンヘッドの男性アンディーは、ホムラとユキを招き入れるとすぐに扉を閉め、鍵をかけた。

 それからしばらくして再び玄関が開いた時にはぐっすり眠っている小柄な少女を浮遊台車に乗せて二人が出てきた。


「やっぱり寝泊まりさせる場所をドランの屋敷に変えた方が良いんじゃないかねぇ。向こうの部屋、ほとんど使ってないんだろ?」

「そうですね。ただ、そんな場所に一人で放置したら余計に自堕落な生活をするでしょう。集まりの時は面倒でも、ある程度近くに置いておいた方が良いと思います」


 月明かりに照らされた二人がそんな話をしているのをやはりドライアドたちがジーッと興味深そうに見ていた。




 ドランの屋敷に転移した二人は、浮遊台車を押しながら目的の部屋へと向かった。


「お待ちしておりました。既に皆揃っています」


 そう言ったのはセバスチャンと名付けられたホムンクルスだった。

 見た目は端正な顔立ちの人族の青年で、黒い髪はオールバックにしており、切れ長な黒い目がよく見える。黒のロングテールコートを着こなし、首元には黒いネクタイを締め、白い手袋を嵌めている彼は浮遊台車を預かると、未だに眠りこけている小柄な少女クーを持ち上げて椅子に座らせた。

 クーが座らされた椅子は、部屋に置かれた円卓をぐるりと囲むように並べられた椅子の一つだった。

 空席になっているのは残り三つだけ。そこにセバスチャン、ホムラ、ユキが腰かけた。


「それでは定例会議を始めるでござるよ」


 そう言ったのは眠っているドライアドを体に引っ付けた大柄な男だった。彼の名はムサシ。クレストラ大陸にある世界樹フソーの根元付近の警備などを任されているホムンクルスだ。

 彼の隣に腰かけているライデンと同じぐらいの背丈だが、体つきは全く異なり、鍛え上げられた体は引き締まっている。

 対してライデンはというと、シズトのイメージに影響されたのか縦にも横にも大きな男だった。座っている椅子も彼の者だけ特注品である。


「共有すべき事は何かあるでござるかな?」

「まずは貴方の所から話した方が良いんじゃないかしら?」

「なにか話すべき事があったでござるかな?」

「マスターがわざわざ他国に出向き、異常気象を起こす事になった件についてです」

「ああ、あれでござるか。今回の騒動に加担した者たちには然るべき対応をお願いしておいたでござる。あまりこちらからとやかく言っても主殿が求めていない物が謝罪の品として渡されるだけなのが目に見えているでござるからな。誠意ある対応を望む、という事だけ念押ししておいたでござるよ」

「いささか対応が甘すぎるんじゃありませんか?」

「そうさねぇ。そういう態度だから今回の事をしでかす隙を与えてしまった、とも取れるねぇ」

「甘いかどうかはわからねぇけどよぉ。そのくらいの対応をシズト様は望むんじゃねぇか?」


 不快感をあらわにするホムラとユキの話に割って入ったライデンが「なぁ?」と他の者に同意を求めると、冷静に様子を見ていた初老の男性が「そうじゃなぁ」と頷いた。

 白髪交じりの黒髪に、優し気な笑みを浮かべたその男性はアッシュと呼ばれているホムンクルスだ。普段は神父として教会の管理を任されている彼はシズトとの接点は少ない。だが、それでもシズトの考えはある程度理解しているようだ。


「そのくらいの対応をシズト様が望む事はお主たちもよく知っておるだろう? 今回の騒動の、代表者にされた者にはそれ相応の天罰が下ったとも聞いておる。それを見たあの大陸の者はしばらくは大人しくしておるだろうさ」


 シズトの名前を出されたら二人ともそれ以上求める事はできない。

 結局、今回の一連の事については分からない所も多々あるが、一先ずムサシに一任するという事で話がまとまるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ