後日譚492.事なかれ主義者はほどほどにやった
神様に相談しても丸投げされたのでムサシに相談する事にした。
レヴィさんを連れて行けば相手の思惑が分かるので楽ができるけど、神様に関する事はとても張り切って取り組む彼女の事だ。セシリアさんがブレーキを掛けようが行ける所まで行ってしまうだろう。余計な負担はかけたくないので魔道具を持ち出す事にした。
ムサシにはそれを持ってもらう事にしたんだけど、レヴィさんほどうまく使いこなせないからか、ラロク辺境伯が上手なのか上手く読み取れなかったそうだ。
結局、相手の思惑は分からないけれど、これ以上好き勝手噂話を流されたくないし、今までも僕なら異常気象を起こせるだろうと各国の王侯貴族には思われていた事がムサシを通じて分かったので、お望みどおりにやっちゃう事にした。
場所は誰の迷惑にもならない場所で不毛の大地を提案したけれど、それだと条件が変わってしまって普通の場所でどのくらいの魔力が必要になるのか今ひとつわからない、という事でクレストラ大陸のどこかでやる事になった。やる事になったんだけど、実際に行う場所が決まらずに数日が過ぎた。
それでも話が進まないのに苛立ったのか、クロトーネ王国の女王であるジュリア様が「臨時会議の開催を要望したファルニルのどこかで行えばいいんじゃないか」と言って今度はファルニルの貴族たちで押し付け合いが始めった。
そうして今回の贄――ではなく、協力者に選ばれたのがラロク辺境伯だった。
口は禍の元。真っ青な顔で事の成り行きを見守る事になったラロク辺境伯には強く生きて欲しい。
「それで、どんな天変地異をお望みですかね?」
「…………」
「ラロク辺境伯?」
「で、できれば街への影響が少ないものが良いです」
「それだと最近起きている異常気象よりもかなり小規模な物になりますけど……」
一定期間が経たないと証明にならないだろうからと数日観察する事になっている。
領民たちに伝え、疎開するなり対策するなりするための時間として一週間が設けられていたので人的被害は最小限に抑えられるだろう。……物に関してはどうなるか分からないけど。
異常気象の手っ取り早いのは嵐や水害、雪害の類だろう。ただ、今まで対応をお願いされてきたそれらはすべて街への影響は多大な物となる。
日照りなどであれば、と思ったけれどファルニルは農業が盛んな国だ。当然、辺境伯の領都の近くには畑が広がっている。全部だめになるんじゃないかな。いや、他の異常気象にしても多かれ少なかれ被害は受けるだろう。
「とりあえず、分かりやすい嵐でいいんじゃないか? もしくは日照りとか」
「他には雪害もあるでござるな。竜巻を起こすのもありかもしれぬでござるよ」
「こんな所に雪を降らす事もできるのかい?」
「まあ、やろうと思えばできますよ」
子どもたちのために雪を降らせた事もあるので造作もない事だ。その積雪の規模を増やせば立派な雪害になるだろう。
「お決めになられないのならこちらで勝手に決めますが、よろしいですか?」
「…………」
「マシなのが思いつかないのでござろう? 主殿が好きにすればいいみたいでござるよ」
心を読む魔道具を持ったムサシがそう言ったのなら間違いないんだろう。僕は空を見上げて考えた。
少しでもマシな異常気象って何だろうなぁ。急激な温度変化よりは雨風の方が良いんだろうけど、水害もあるだろうし……。
「農作物の被害はこの際目を瞑るしかないでござるよ。それよりも街の建物の被害が少ない方が良いと思うでござる」
「農作物も駄目、建物にも多大な被害が出た、となったら目も当てられないからねぇ」
ヒッヒッヒッと楽しそうに魔女っぽい笑い方をするジュリア様を各国から派遣された証人たちが何とも言えない目で見ていた。
数日後、ラロク辺境伯の所に再び集まると、信じられないほど暑かった。日照りの影響だろうけど、日本の夏よりましだと感じるのはカラッとしているからだろうか。
「早く何とかしてください」
「すぐに変えちゃいますねー。【天気祈願】!」
数日前は翌日から一気に気温が上がるようにとお願いしたんだけど、今回はすぐに変化が現れるようにと願ったので結構な魔力が追加分として持って行かれた。
そんな僕の様子を、クロトーネからやってきた魔法使いたちがジッと観察していて、終わる頃には何やら話し始めている。どうやら前回使った時の魔力量と、今回の魔力量のおおよその違いから分かる事について推測も交えて話しているようだ。
ラロク辺境伯は一気に涼しくなったのを感じたからか、ホッと一息ついているようだ。
この際に聞いてみたら答えてくれないかな、と思って単刀直入に「どうして今回僕が異常気象を使えるか試そうとしたんですか?」と聞いた。
ラロク辺境伯はこちらを見て、しばらくして口を開いた。
「何ができて、何ができないかをはっきりさせるためです」
「…………それだけのためにあんな大掛かりな事をしたんですか?」
「それだけと仰いますが、どこまでできるのかは多くの貴族が気にしていました。実際、私の考えに共感した者たちが協力してくれました。異常気象が『起こせるかもしれない』と異常気象が『起こせる』は全く違います。軍事的にも有用だと改めて証明されたので今後は見合い話がさらに増えるでしょうね」
おめでとうございます、とラロク辺境伯が言った。嫌味だろうか。嫌味な気がする。もうちょっと過激な物をしても良かったかもしれない、なんて事を思ったけどムサシがまだ彼女を見てた。
……あの程度の理由ではないという事だろうか?
ムサシがこっちを見て微かに首を振ったのでまた読めなかった、とかそんな感じかもしれない。
なんだかモヤモヤするけど、やるべき事はやったし、信仰が変な方向に行かないようにしっかりと制御しないと。
「それはそうと、異常気象が頻発している理由は共有しても良かったでござるかな?」
「いいんじゃない? チャム様に祈る際に聞いてみたけど呼び出しされなかったし」
「分かったでござる」
ムサシはそういうとこちらをギョッとした表情で見ていた面々に向き直って「会議を開くでござるよ」とだけ言って一時的に設置した転移陣の方へと向かうのだった。