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後日譚484.侍大将は先を越された

 クレストラ大陸の国々が加盟する国際連合の本部は、世界樹フソーの根元に広がる元都市国家フソーにある。

 そこでは日々、他国の者同士が話し合いの場を設け、話し合いをしているのだが、定期的に全加盟国の代表者が参加する定例会が開催されていた。

 主にそこでは二ヵ国間では解決しそうにもない揉め事の話し合いや、クレストラ大陸内での役割分担についての相談など、議題にあげられたことが話し合われていたが、時折、異世界転移者であるシズトに対する要望も議案として出されていた。


(今回の議案もそれかと思ったでござるが、それならば次の定例会まで待てばいいだけの話でござるよなぁ)


 腕組をしながら議長席に座っているのは、シズトによって作り出されたホムンクルスの内の一人であるムサシだった。

 黒い髪に黒い瞳の彼はパッと見日本人っぽいが、日本人らしからぬ見事な体格をしていた。背丈は二メートルほどあり、筋肉質な体つきをしている。異世界の住人顔負けのガタイの良さだ。

 そんな彼をちらちらと見ている者が多いが、その者たちの視線がどこか不安そうだったことに気が付いていた。


(今回は参加者が極端に多いでござるなぁ。臨時集会が開かれた理由に関係あるのでござろうが……)


 考えていても仕方がない。空席がなく、立ってこちらの様子を見ている者たちをいつまでもそうさせておくわけにもいかないのでムサシは立ち上がった。


「それでは、加盟国の者が揃ったようなので臨時集会を開催するでござる。今回、開会を希望されたのはどこの誰か、名乗り出よ」


 魔道具を使わなくても会場中に響き渡ったムサシの声に気おされる者もいたが、席についていた者たちは慣れている様子で周囲の様子を見ていた。

 手を挙げたのはファルニルの貴族だった。ムサシが気になったのは、よく参加しているギュスタンではなく、見知らぬ貴族が代表として席についていた事だった。


「私が国王に直訴し、開会の申し出をさせていただきました。マドロン・ド・ラロクと申します。今回人事集会を開催させてもらったのはほかでもない。最近クレストラ大陸で確認されている異常気象についてです。各国の方々からもお聞きしましたが、ここ最近クレストラ大陸では異常気象が発生しています。それはムサシ様もご存知ですよね?」

「もちろん把握しているでござる。そのほとんどを、甚大な被害が出る前に我が主が加護を用いて抑え込んでいる事も」

「大変有難い事です。有難い事なのですが、いささか多すぎやしませんか?」

「…………どういう意味でござるかな?」


 ムサシは口元の笑みを消す事はなかったが目は笑っていなかった。

 普段と異なる雰囲気を察してか、ムサシに引っ付いてやってきていたドライアドたちがそわそわし始めたが、ムサシに一瞥されるとすぐに澄ました顔になった。


「我々としてもこのような可能性を考えたくはないのです。なにせあの御方は枯れかけた世界樹を真実を広めながら救い、過去一番の大戦となりかけていたものを押さえつけて止め、転移門による経済の活性化に貢献し、尚且つ邪神を神々の世界へと還した。その他にも生活に関する魔道具を開発するなど幅広く世界に貢献してきました。ですが――」

「前置きは良いからはっきりと手短に申してほしいでござる」

「――――かしこまりました。我々上の者は分かっているのですが、民の中には天候を操る事ができる加護を持つ者が、異常気象を引き起こしているのではないか、という噂が立っているのです。それはファルニルに限った話ではなく、他の異常気象にあった国々でも同様だと外交で確認しております」

(なるほど。この件を言うためにそんな事をするはずがないと主張するであろうギュスタン殿や普段参加している方々が欠席しているのでござるな)


 ファルニル以外にも代表者以外で複数人参加している国は多数あった。ファルニルと同様、普段参加している者の姿はない。ラロク辺境伯が手を回してこのような状況を作り出したのだろう、とムサシは考えた。


「仮に、シズト様がその様な事をなさったとして、目的は何でござろうな?」

「もちろん、布教活動のためですよ。被害に遭っていた地域の者が『まじないの神』のおかげで助かった、と思って入信しやすくするためです。シズト様は布教活動をする事を条件に手助けをしていると他の国々からの証言もあります」

「その程度の条件で助けられているのであれば安い物だとは思うでござるがなぁ。それに、複数の神を信仰する事を認めているから他の神々から信者を奪っているわけでもないでござる」

「信仰心は限りなかったとしても、時間も金銭も有限なのですよ?」


 ムサシとドライアドの様子が普段とは異なると普段から会議に参加している者は分かっていたが、ラロク辺境伯は気づいていないのか、気にしていないのか間髪入れずに答えた。

 ムサシは再び「吊るすでござる?」「捕まえるでござる?」と物騒な事を言い始めたドライアドたちに視線を向けて黙らせた。

 その動作によってできた間は、他の者が発言するには十分だった。

 ファルニルを筆頭に、サンペリエ、ハイランズ、ボルトナム、ノーブリー、ティエールの者たちが好き勝手話し始めた。いずれも、代表者以外の者を引き連れてやってきた国々だ。

 ムサシは一つため息をつき、魔力を練り上げようとした。だが、その途中で会場中に声が響き渡った。


「静まれ、小童共!」


 声の主は黒いとんがり帽子を被り、体をすっぽりと覆うローブに身を包んだ老女で、魔法の国クロトーネの女王ジュリア・ディ・クロトーネだった。

 普段は温厚で優し気な老女の雰囲気を漂わせている彼女だったが、その一喝には魔力がこもっており、場を静まり返らせるくらいの圧があった。


(滅多に怒らない相手が怒ると迫力があるでござるなぁ)


 そんな事を他人事のように思いながら、ムサシは練り上げようとした魔力を霧散させるのだった。

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