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後日譚476.事なかれ主義者は慣れてない

 プランプトン侯爵の屋敷は三階建てだけど、通されたのは正面玄関から近いとある部屋だった。窓から入るはずの光は背の高い木々に遮られ、昼間なのに灯りがともされている。そんな部屋で、プランプトン侯爵と向かい合うように座った。僕の隣にはラピスさんが腰かけているが、彼の隣には誰もいなかった。

 元々ここで他所から来た人と話をするようにしていたのだろう。調度品も一目で『お高い品』と分かる物が多かった。ただまあ、なんというか――。


「シズト様の所にある品々と比べると見劣りする者ばかりでしょうが、どれもこれから伸びると言われている職人たちが作った品々です。何かお気に召す物はありますかな?」

「どれも素敵な作品ですが、我が家にはすでに十分すぎるほど芸術品や日用品はあるので……。それよりも、本題に入りたいのですがよろしいでしょうか? あんまり待たせると悪さをしそうなので」

「……そうですな。そうしましょう」


 僕の視線を追って窓を見たプランプトン侯爵が一瞬顔を強張らせたけど怒っていないようなので、窓からジーッとこちらを覗きこんでいるドライアドたちには何も合図は送らず、話に集中する事にした。


「今回、こちらに来たのは貸し借りを早めに解消したいという思いがあるからです。流石に僕がこの領地に来た事で借りがなくなるとは思っていませんが、パートナーの中ではそれで十分という者もいました。プランプトン侯爵はどうお考えですか? あ、正直に答えてくれると嬉しいです。そういう交渉は不慣れなので」

「…………かしこまりました。そうですな、タルガリア大陸にその名が広がりつつあるシズト殿が我が領地に来た事は他の者に自慢できる事でしょう。ただ、今後も研究に協力する見返りとしては少々物足りないと感じる、というのが本音ですな」

「なるほど。そういえば、ルカソンヌ王国のラムシエル侯爵にも協力をしてもらっているんだっけ?」


 ラピスさんに問いかけると、彼女は首を縦に振った。


「そうですね。話し合いがどのくらい続くか分からなかったので明日、お伺いするとお伝えしています」

「なるほどなるほど。ちなみに、今後の研究の協力をしなくてもいい場合は僕が来た事だけで借りはチャラになりますか? あ、相場とかよく分かんないので正直にお答えいただくと嬉しいです」


 にっこりと何度も練習した笑みを浮かべながらプランプトン侯爵を見ると、彼は表情を崩す事はなかったけど、返答に間があった。


「そうですな。ラムシエル侯爵とシズト様の関係性しだいですな」

「というと?」

「今後もラムシエル侯爵と関係を持つというのであれば、一度会った程度の私よりもラムシエル侯爵の方の価値が高まるでしょうな。そうなると相対的に一度お越しいただいた程度の私の価値は下がってしまうでしょう。そうなると物足りなくなると感じますな」

「なるほど」

「もしも双方との関係を今回の件で終わりにするのであれば十分かと思いますが、向こうがどのように言うかは私には分からないですな」


 プランプトン侯爵は真面目な顔で言い切ると、目の前に用意されていたお茶を飲んだ。

 やっぱりランチェッタさんとか連れてこればよかったなぁ。交渉とか僕には向いてないわ。

 まあ、今回の交渉は正直失敗しても困らないから練習としてやって来いって言われたし、もう少しいろいろ言ってみてもいいんだけど……。これ以上ダラダラと仮定の話をするのも面倒だから妥協点を探すために色々聞くか。


「ラピスさんはどう思う?」

「研究者としては比較対象があった方が良いので可能であればプランプトン侯爵とラムシエル侯爵には引き続き研究の協力をしてほしいです」

「そっかそっか。じゃあそういう方向で話を進めようか。……そうなると、どういう事を二人は望むのかな?」

「それは当人たちに聞いてみない事には分かりませんが…………記録映像を見る限り、相当ドライアドたちに手を焼いているようです。シズト様であればドライアドたちとの良好な関係を助言できるのでは?」

「どうだろうねぇ。上手くいくかは保障できないけど、これ以上街に侵食しないように釘を刺したり、領主の屋敷の現状を改善する方法は思いついているけど」


 チラッとプランプトン侯爵を見るけれど、こういう話し合いには慣れているのだろう。表情には変化はない。こちらの拙い交渉術なんて通用しないんだろうなぁ、なんて事を思いながら彼に何を望むのかド直球で聞いてみた。


「そうですな。先程仰っていたドライアドたちの問題がどこまで解消できるか次第ですが、何かしらの繋がりがあるとそれだけで十分すぎるほどですな」

「具体的にはどういう繋がりをお求めですか?」

「例えば婚姻関係とか――」

「そういうのは今は間に合ってるので」

「何人もいるお子さん全てにお相手が?」

「いないですが、子どもたちを道具にするつもりはないです。僕自身については状況によっては検討する事もありましたけど、少なくとも人族以外を下に見るような方々を家族に迎え入れるつもりは御座いません。婚姻関係などの要望はどの様な条件であれ一切合切お断りする所存です。時間を無駄にしたくないのでその他の希望はありますか?」


 きっぱりと言い切って真っすぐにプランプトン侯爵を見たけれど、彼は僕の返答は想定済みだったのか大きな反応を見せる事もない。

 ポーカーフェイスって大事なんだなぁ、と改めて思ったけど僕にはまだまだ難しそうだ。

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