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後日譚475.事なかれ主義者は今後も使えると思った

 二人の侯爵と手紙のやり取りを数日続けた。あれ以来、髪の毛でぐるぐる巻きにされる事がない事を感謝する手紙がプランプトン侯爵から届いた事以外は進展がない。

 借りがある状態はあんまりよくないだろう、という話もあったので直接向こうに言って話をつける事にした。


「ご迷惑をおかけして申し訳ありません」


 申し訳なさそうに頭を下げたのは義妹のラピスさんだ。

 レヴィさんの妹という事もあり、髪と目の色はレヴィさんと一緒だ。ただ髪型は動きやすさを重視しているのか短く切り揃えられており、顔の横にツインドリルはない。目元もレヴィさんよりも少々きつい印象を与えるツリ目で、どちらかというとお母さん似なんだと思う。

 そんなラピスさんは制服を着て、とんがり帽子を被っている。ただ、記録をすぐに取れるようにするためかクリップボードに紐を通して首から提げていた。


「別にこのくらいは良いよ。ドライアドたちについての研究のためなんだからしょうがないし」

「人間さん、準備できたよ」


褐色肌のドライアドの数人が近くに集まってきて転移陣を指差した。

彼女たちに『精霊の道』を使って向こうに言ってもらって、転移陣を設置してもらう事になっていたけれど、事前にプランプトン侯爵に話を通していたので特に問題もなく設置出来たようだ。


「ありがと。それじゃあ行こうか、と言いたいところだけど……」


 今回はエルフの国をまとめる者として正式な訪問になる。そのため、真っ白な布地に金色の刺繍がされたエルフの正装を着ていた。つまり、ドライアドたちが引っ付いている。


「今回の訪問する場所を考えると、連れて行かない方が良い様な気がするんだけど……」

「今更な気がするし、シズトが気にしなければ誰も何も言わないと思うのですわ」


 僕の呟きに対して肩を竦めて答えたのはラピスさんの姉であるレヴィさんだ。

 今日もオーバーオールを当たり前のように着ている彼女はこれでも王女様である。彼女がこのままでいいというのならきっとそうなんだろう。たぶん。

 レヴィさんと一緒に見送りに来ていたランチェッタさんやオクタビアさんも何も言わないし、気にしないようにしよう。

 ……ただ、念のため引っ付いている子たちとレモンちゃんには「お澄まし」と言っておこう。




 転移陣で転移した先では小太りの中年男性と、武装した兵士が待っていた。

 なんだかちょっと胡散臭い笑顔を浮かべている中年男性が今回の手紙のやり取り相手の一人であるプランプトン侯爵だ。

 彼は一瞬驚いた様子で目を見開いていたけれど、それも一瞬だけだった。


「お久しぶりです、シズト様。素晴らしい魔道具ですな」

「そうですね。魔法が使えなくても一瞬で別の場所に行けるのはとても便利で重宝してます」

「そうですか。……そちらの魔道具は余っては――」

「ないですね」


 貸しがあるからこれを融通しろ、と言われても無理だからきっぱりと断らなければ、という気持ちが伝わったのかは定かではないけれど、プランプトン侯爵はただ「残念です」とだけ言って先導を始めた。どうやら屋敷の一室で話をするらしい。

 森の中に転移したのかと思っていたけれど、どうやら屋敷のすぐ近くだったようだ。映像で見た通り、ドライアドたちによって大変な事になっているのはよく分かった。

 彼女たちの怒りに触れないためだろうか。先程までたくさんいた兵士たちは一列になって時折蛇行しながら先を進んでいる。


「お手紙で伝えた通りの状況なんです。何とかなりませんかね?」

「自由を約束してしまったんですよね? それじゃあ僕にはどうしようもないです」


 再び「残念です」と言ったプランプトン侯爵はこちらを見る事はない。

 屋敷に到着すると正面玄関が開けられた。中に入ろうとすると、兵士が一瞬ざわついた。


「…………申し訳ございませんが、ドライアドたちを屋敷に入れない事になってるんです。話をする間、外で待たせるように伝えてもらえますか?」

「分かりました。……そういう訳だから、みんな離れてね」

「えー、真っ白な服なのに~?」

「うん」

「お澄ましするよ?」

「それでもだめだって」

「ケチでござる」

「あなたたちの縄張りでルールがあるように、プランプトン侯爵の縄張りではプランプトン侯爵のルールがあるんだよ。あ、レモンちゃんも離れてね」

「れも!?」

「僕に抗議されてもどうしようもないよ。縄張りの主にダメって言われたらダメだよ」

「れもも~……」


 大人しく髪の毛を解いてするすると地面に降り立ったレモンちゃんは、僕の体から離れたドライアドたちと集まって何やら話し始めたけれど、それどころではない。

 ラピスさんも同様の事を感じたのだろう。しきりにペンを走らせて何事かをメモしていた。


「…………ん? でも今までは何を言っても離れなかった時があったような……」

「要検証ですね」

「そうだね」


 そんな事を話していると、プランプトン侯爵がこちらを振り返って待っていた。

 護衛としてついて来ていたジュリウスに視線を向けても彼は何も反応しなかったので大丈夫だろう。

 ドライアドたちに今一度「お澄ましだよ」と言ってから僕は屋敷の中に入るのだった。

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