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後日譚474.事なかれ主義者は夜だけにしてほしい

 古株の子たちへの事情聴取はすんなりと終わった。


「約束した事は守ってるよ!」


 そう主張するのは褐色肌のジャスミンちゃんだ。随分と久しぶりに会った気がするけれど、彼女からしてみると毎日会ってるので、先程「久しぶりだね」と言ったら首を傾げられた。それは青バラちゃんやお菊ちゃんも同様だった。


「私たちはなんで呼ばれたでござるか?」

「あっちにはあんまりいってないよ?」

「記録をとった時の対応が問題だから呼んだんだよ。とりあえずお菊ちゃん」

「なんでござるか?」

「人をぐるぐる巻きにして運んじゃ駄目です」

「なんででござるか?」

「ビックリするから」

「分かったでござる」

「畑泥棒はいいよね?」


 納得したお菊ちゃんの代わりに聞いてきたのは青バラちゃんだ。普段はドワーフの国で雇われ店長をしてくれている彼女はユグドラシルで暮らしていた肌が白いドライアドたちのまとめ役である。

 ドライアドたちの中でも一番ファマリー周辺の畑の警備をしていた子たちで、何度か侵入者を捕縛し、よく分からない植物で身動きを封じて木の枝から吊るす事があった。


「んー…………ちょっとそこは話し合う必要があると思う。とりあえず、ファマリーの根元の畑に侵入してきた不審者はぐるぐる巻きにしていいよ」

「海に近いとこの畑は~?」

「そこもぐるぐる巻きにしていい……よね?」


 事の成り行きを近くで黙って見守っていたお嫁さんたちの中にいたガレオールの女王様に確認をすると、彼女は静かに頷いた。


「フソーちゃんの所はどうでござるか」

「そこも問題ないよ。世界樹の根元は例外なくぐるぐる巻きオッケーのままにしよう。あ、侵入者だけにね! 今回みたいに、畑泥棒をした訳でもない人に髪の毛でぐるぐる巻きにして運ぶのは禁止。ついでに僕を持ち上げて運ぶのも禁止。分かった?」

「分かったでござる」

「「わかったー」」


 本当に分かったかは分からないけど、これで鬱蒼と生い茂る林の中を持ち上げられて運ばれて大変な思いをする貴族は減るはずだ。たぶん。

 どこかに禁止していない抜け道がないかしばし考えてみたけれど、特に思いつかなかった。時間も時間なので今回はとりあえず解散という事になったので彼女たちを窓から外に出して別れを告げた。


「…………これで街の中を運ばれるなんて事は亡くなると思うけど、根本的な解決に至ってないし手紙を書かないとなぁ」

「それよりもまずはご飯にするのですわ。ラオたちもそろそろ帰ってくるはずですし」

「それでは私はそろそろお暇します。明日もまた来ますので何か手が必要な時はお申し出ください」

「うん。気を付けて帰ってね」

「はい」


 口元を若干綻ばせたラピスさんがモニカの案内で部屋を出て行った。


「…………ラオさんたちにも状況は伝えておいた方が良いよね」

「言わなくても私たちの間で共有するのですわ」

「別に今回あなたが怒られるような事は何もないんじゃないかしら?」

「うーん…………どうなんだろうね?」


 今回は貴族への対応だから頭は小突かれないと思うけどため息はつかれるんじゃないかなぁ、なんて思いながら僕たちは食堂へと向かうのだった。




 ラオさんにため息をつかれる事もなく報告が終わった。今のところ常識的な対応をしていると判断されたのか、それともドライアド相手だからなのかは分からないけど、夜に手紙を書こうと思ったらオクタビアさんがおずおずとアピールしてきたのでそれどころではなかった。


「やっぱり日中にやるべき事をやる必要はあるよね」

「日中も私たちの相手をしてくれるのなら夜に仕事をしても問題はないんじゃないかしら」

「そうなると僕が干からびる気がするんだけど?」

「各地の霊薬やらを使えば何とでもなるんじゃないかしら」

「ならんよ」


 二日連続で正装に着替えさせられ、ランチェッタさんの執務室で僕は手紙をせっせと書いていた。

 ただ、修正された文章は昨日の夜の間にランチェッタさんが考えてくれていたので清書するだけだったのでそんなに時間はかからなかった。

 書き終わった物を確認したランチェッタさんから問題ないとお墨付きを貰えたので、それをアイテムバッグに入れておく。こまめにアイテムバッグの中を確認してくれているはずのモニカが屋敷の外に無数にいるドライアドの誰かに手紙を託す手はずになっているので、そのうち返事が来るだろう。


「……向こうの要求次第だけど、直接行く事も考えなくちゃいけないなぁ」

「わざわざ行くほどの事だとは思わないけど、借りは小さい内にサクッと返しておく方が楽なのは確かね。過剰とも思える対応をすれば逆に貸しを作る事だってできなくないし」


 小高く積み上げられた書類に目を通してはハンコを押したり、押さずに別の場所に置いたりしているランチェッタさんがこちらを見もせずに話を続けた。


「そう言った意味では王配であり、エルフの国々を束ねている貴方がわざわざ向こうに行くのはありね。迎える側の侯爵たちには同情するけど」

「なるほどなぁ」


 話ながらでも書類の内容を理解できるのすごいなぁ、なんてどうでもいい事を考えながら相槌を打つのだった。

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