後日譚473.事なかれ主義者は連絡する事にした
謁見の合間に片手ですぐに食べられる昼ご飯を食べたけど、これを毎日続けるのは正直しんどい。
ただ、ご機嫌斜めなランチェッタさんから「今後もたまに顔を出すのよね?」と言われたら否定なんてできなかった。
「夕暮れ時になる前に帰る事ができるなんて……。これから毎日シズト様に同席してもらいましょうか」
「シズトが耐えられないでしょうからやめなさい」
「そんな事言って、仕事が進まないのが嫌なんじゃないですか?」
「最悪、持ち帰って仕事するから問題ないわよ」
向こうの世界でも持ち帰りの仕事、なんて聞いた事があったけどこっちでもあるんだなぁ、なんて現実逃避しながら実験農場を経由してファマリーの根元に戻ってきた。
いつもの如く出迎えてくれたレヴィさんと、転移陣の周りに集まっているたくさんのドライアドに加えて、制服姿のラピスさんがいた。
「こんにちは、ラピスさん。今日もフィールドワークかな?」
「こんにちは、シズト様。今日はフィールドワークではなく、シズト様にお話しなければならない事があってまいりました」
神妙な面持ちのラピスさん。これは只事ではないな、と判断して応接室へと通した。
何食わぬ顔で正面玄関から入ってこようとしていたドライアドたちは締め出しているけれど、窓からこちらの様子をジッとうかがっていて、肩の上のレモンちゃんに向けて何かを言っている。レモンちゃんはレモレモ答えていたけど、レヴィさんは指輪型の魔道具を嵌めているので誰もレモンちゃんが何を言っているのかは分からなかった。
「それで、話さなくちゃいけない事って何?」
僕がそう問いかけると、正面に座っていたラピスさんが少し考える素振りを見せたがすぐに話し始めた。
「お話の前に、以前ドライアドの研究をする際には出来る限り協力すると仰ったことは覚えていらっしゃいますか?」
「ん? んー、そんな事言ったような気がするね」
「それは今もお変わりないですか?」
「そうだね。彼女たちの事が分かれば、子どもたちが彼女たちと接する時にトラブルになるの避けられるだろうから」
「そうですか。そのお言葉が聞けて良かったです。早速ご助力願いたい事があります。お話するよりも記録を見てもらった方が状況などが分かりやすいと思いますので映像を流してもよろしいでしょうか?」
「うん、いいよ。ジュリウス、準備を手伝ってあげて」
「かしこまりました」
静かに部屋の隅に控えていたジュリウスがアイテムバッグを片手にラピスさんと一緒に映像を見るための準備を始めた。
ラピスさんの魔法で室内に置かれていた椅子やら机やらが宙に浮いて場所を開け、部屋の中央に映像を投影するための魔道具が置かれ、壁際には映像を映すための大きな白い布のような物が広げられた。皺ひとつなく伸ばされたそれに向かって投影機から光が伸び、記録した動画が流れ始めた。音もスピーカーをイメージして作った物から聞こえてくる。
そうして見る事になった映像はなんというか、ドライアドたちに自由を与えると大惨事になる事がよく分かる物だった。
映像が終わってもラピスさんは特に何も言わない。こちらの出方を窺っているのだろうか。
「えっと……とりあえず、状況はよく分かったよ。話の流れで僕の名前が出されたんだね」
「はい。以前協力してくださると言われていたので、何か言われたらシズト様に協力してもらおうと思っていたんですけどドライアドたちにはうまく伝わらなかったので、シズト様の名前を出すようにとだけ言ってたんです」
「面倒なのはどちらの研究対象にもシズトの名前が出されて借りが出来ている、という所かしら?」
「そういう事になります」
「んー……まあ、協力するって言ったのは間違いないし、許容できる範囲だったら対応するよ。そこの擦り合わせをする必要があるけど、どっちも自分の領地にいるんだよね?」
「はい」
「そうなると手紙でやり取りするのが普通なのかな? それとも借りが出来ているからこっちから足を運ぶべきかな?」
「距離を考えても手紙で対応するのが一般的ね」
「ご面倒をおかけして申し訳ありません」
「いいよいいよ。可愛い義妹の頼みだし、手紙のやり取りの練習もできるから。後は届ける方法だけど……。レモンちゃん、ちょっと古株の子を呼んでもらってもいいかな?」
「れも?」
「もうすぐ夕暮れ時だけど急ぎの案件だし、寝てたら起こしてね」
「れもも~」
レモレモ言っているけれど、僕が呼んでいると聞いたらその内、古株の子たちが集まってくるだろう。
その間に手紙でも書いておこうかな。
そんな事を考えたら机の上に紙と筆記具が用意された。
文字を綺麗に書く練習をアンジェラと一緒に時々している事もあり、スラスラと二通書く事が出来た。
「シズトの方が立場は上だからそこまでへりくだる必要ないわ。書き直し」
「……はい」
古株の子たちがやってくるまでに書けるかなって思ったけど無理かもしれない。
そんな事を思いながら、ランチェッタさんに指摘されながら手紙を書くのだった。