後日譚466.事なかれ主義者はそんなつもりはなかった
タルガリア大陸の外交官さんと顔合わせ兼建物の視察を済ませてから一週間ほどが経った。この一週間だけでもファマリアは激変した。
まず、各国から「我が国も外交官を派遣したい」という要望が届いた。もう前例を作ってしまったので止められるわけもなく、タルガリア大陸の国々と同じような条件でファマリアの南の方にある行政区の中であれば建設の許可を出した。
足りていたはずの土地が足りなくなってきたという報告が上がったけれど僕にはどうしようもない。ただ、そのおかげで爵位の制限を設ける事が出来た。爵位が低ければ低いほど貸し出す土地の面積が小さくなるからそれで何とかしよう、という事らしい。
タルガリア大陸だけ優遇するのか、という異議がいくつかの国から出たらしいけど、そもそも転移門を設置している国々と、設置していない国々で比較するのがおかしい、とランチェッタさんが跳ね除けたそうだ。
「もしもこれ以上わたくしの夫の決めた事に異議申し立てがしたいのであれば、転移門を返上する事も考えたらいいんじゃないかしら」
という感じの内容をガレオールに抗議に来た面々に言ってくれたそうで、それ以降は文句は出なかった。男爵よりも上の爵位の人が来ないという事は、当然王族が来る事もないし、ファマリアに派遣されてきた貴族たちから求婚される事も今の所なかった。
「所帯持ちが多いって聞いてるけど、やっぱり子どもたちとの関係構築を狙ってるのかな」
「十中八九そうだと思うのですわ」
「シズトが無理ならその子どもを、って事でしょうね。シズトが政略結婚を否定し続けている限りは、あくまで自然な関係構築をしようと目論んでいるんじゃないかしら」
意図的に近くに引っ越してきて、街で偶然を装って会わせようとするのは偶然と言えるのだろうか、と思わなくもないけれど、貴族の子ども相手の関わり方を学ばせるという意味では必要な事だし、それがきっかけで恋が芽生えたりしたら否定するつもりはないのでとりあえず放っておくことにしよう。未だに届く縁談の申し込みは全て懇切丁寧にお断りするけれど。
おかわりした白米にお茶をかけてお茶漬けにしたものを食べ終わると、ホムラとユキがいつものように口周りを汚していた。仕方がないので近くに置いておいた布巾で彼女たちの口を拭う。
「建設の方は順調?」
「順調です、マスター。各国から派遣されている魔法建築士も不審な動きはしていません」
「各国から派遣されてきている者も約束は守って最低限の使用人しか連れてきていないわ、ご主人様。これで町の子たちの働き口がさらに増えるわね」
そう、約束事の一つとして入れてもらったのが、町の子たちを雇用する事。順次奴隷から解放しても仕事が無限にあるわけではない。丁度良かったので利用させてもらった。
町の子たちには必要になりそうな事しか教えてないつもりだったけど、その能力は身内じゃない王侯貴族からお墨付きをもらっているので問題ないだろう。
雇った者と雇われた者が双方納得すればそのまま奴隷から解放されても働き続ければいいし、国に帰る際に連れて帰ってもらっても構わない。
なにより、禁断の恋、みたいなことが始まったらこちらに縁談の話が来なくなるのでなお良い。
そんな考えはレヴィさんたちにはきっとお見通しなんだろうけど、案が通ってしまえば後は何とでもなる。
「これで向こうの思惑もより調べる事ができるのですわ~」
「まあ、こちらの紐がついた者が近くにいる状態で大事な話とかはしないでしょうけどね」
…………ん?
「いっその事、侍女や執事としての技術や考え方も教えて行くのもいいかもしれません」
「そうですわね。講師役が足りないのならお父様にお願いしてみるのですわ」
「必要ないわよ。ガレオールから出すから」
「あ、エンジェリアからも出したいです。国内だとどうしても思想が薄れない者がいるので荒療治にはなってしまいますが、比較的穏やかな方々や柔軟な若い人たちを選べばトラブルもあまり起きないですし」
「起きないとは言わないのね」
なんか気になる発言があったけど、僕が疑問を抱いている間にも話は王族組で進んでいく。
セシリアさんやディアーヌさんを派遣する事もそれぞれの主人から提案されていたけれど、二人とも固辞していた。
「自由にさせたら何をするか分かりませんから」
「全くです」
「心外なのですわ!」
「日頃の行動を改めてください」
「前々から思っていたけれど、あなたたち主に対する言動を見直した方が良いんじゃないかしら」
「今更じゃないですか」
口では文句を言いつつもレヴィさんもランチェッタさんも楽しそうだ。
僕と同じくその様子を見ていたオクタビアさんは少し寂しそうに見えたのは僕の気のせいじゃないと思う。