後日譚451.事なかれ主義者はもっと関わりたい
レヴィさんと分かれ、カメラを手にした僕は屋敷に戻るとそのまま二階に上がった。
万が一の時のために『遮音結界』を切っているのだろう。遠くの方から賑やかな声が聞こえてくる。
そちらに向かって歩みを進めると、どんどんと声は大きくなっていく。どうやら和室で遊んでいるようだ。
和室の入り口の前まで行くと、扉が内側から開けられた。
「ありがとうございます」
開けてくれたであろう乳母の一人にお礼を言ってから中に入る。和室なので靴を脱がなければ、と腰を下ろしたら肩の上のレモンちゃんがまた威嚇をしている。
靴を脱ぎながら振り向くと、すぐ近くに褐色肌の男の子が立っていて、灰色の瞳でまっすぐに僕を見ていた。
「ぱぱ、かたぐるま!」
「肩車してほしいの? いいよ。すぐにレモンちゃんに退いてもらうから健斗はちょっと待っててね~」
「れも!?」
レモンちゃんが抗議をしてくるけど「以前何度も話し合いをしたでしょ? いつもレモンちゃんを肩車してるんだから他の子が優先だよ」と根気強く言い続けた。駄目だった。
「健斗、ごめんだけど抱っこでもいいかな」
「うん!」
元気に返事した健斗を抱っこする。二ヵ月ほど前に一歳になったけど、ちょっと軽い様な気もするけどまあこのくらいなら大丈夫だろう。大丈夫じゃない場合は乳母の人がきっと報告してくれるし。
それよりも、元々発語が早かった健斗だけど、二語文になるのも早かった。将来はとてもお喋りで元気な男の子になるかもしれない。
なんて、ちょっと思考が逸れている間にも健斗はレモンちゃんに対して何やら一生懸命言っていた。
「レモン、いらない」
「れも? レモンれもれもも?」
「あっち、ばいばい!」
「レモレモれもも! レモンもレモレモ!」
うーん、これは意志疎通できてないっすわ。レモンちゃんが子どもたちに合わせて話すようになってくれたらいいんだけど、基本的に喋らないもんな。いや、喋ってはいるのか。
子どもたちとお話をしていたらその内話さないかな、なんて事を思いながら僕は健斗を抱っこしたまま和室の奥へと進む。
和室の中では子どもたちが思い思いに遊んでいる様だった。
授かった加護である『付与』を使って動くようにした人形と協力して積み木遊びをしているのは製作者の千与と蘭加、静流に千恵子の四人だった。その近くには乳母の人ではなく、モニカがいて、様子を見守りながら積み木の手伝いをしているようだった。
「あ、蘭加! 隠れてないで出ておいで? ほら、他の三人はこっちを見てるよ~」
「…………」
「カメラも恥ずかしがるようになっちゃったなぁ」
蘭加は人見知りが激しいだけじゃなくてとても恥ずかしがり屋だ。
以前、どっちに似たんだろうね、とラオさんに聞いてみたけれど彼女は肩を竦めるだけだった。まあ、蘭加は蘭加だからどっちに似たとかはないのかもしれない。
蘭加と違ってカメラに自分から近づいて来てポーズまでしてくれるのは千恵子だ。目立ちたがり屋だとかそういうのじゃなくて、たぶん僕がすごく喜ぶからそうしてくれるんだろう。千恵子は他の人が喜ぶ事を率先してしてくれる優しい子だからきっとそうに違いない。
そんな事を思いながら千恵子にくっついてじゃれている静流と一緒にカメラに収めた。
その後は千与を撮る事にした。彼女を撮るのはとても簡単だ。人見知りはするけど、知っている相手だったら全く警戒しないので撮り放題だった。可愛い欠伸姿までちゃんとバッチリ撮れた。
「後は蘭加だけど…………無理かな」
「無理かもしれません」
「ちょっと健斗と一緒に積み木遊びに加わるから撮れそうだったら代わりに撮っておいてくれる? あ、それかモニカも一緒に遊ぶ? カメラは乳母の誰かにお願いすれば大丈夫だろうし……」
「そうですね、そうしましょうか」
カメラを一時、蘭加の乳母に任せて僕たちは積み木遊びに参加した。
僕が遊び始めると、レモンちゃんも肩の上から参加し、さらに肌が白いドライアドたちも加わって、最終的には部屋にいたドライアドたち全員が積み木遊びする事になった。
こうなってしまうと人見知りが激しい蘭加は積み木遊びしなくなっちゃうかな、なんて思ったけれど、後からカメラを見返したらドライアドたちに紛れて静流に引っ付かれた蘭加が積み木で遊んでいるのがちゃんと撮れていた。
ドライアドたちにもだいぶ慣れてきたようで良かったけど、裏を返せば慣れるくらいドライアドとよく関わる事になっているという事だろう。
僕が近づくとたまに固まるから、もうちょっと関わりを増やすべきなのかもしれない。