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後日譚440.龍姫士は勧められるがまま食べ続けた

 金網の上に高ランクの魔物の肉と、ファマリアで育てられた新鮮な野菜が所狭しと並べられている。それをジッと観察してはひっくり返しているのはこの地を治めているシズトだ。

 そんな偉い人物にさせて良いのかリリス・レビヤタンは疑問に感じたが、本人が率先して焼いているので止める訳にもいかない。そして、焼きあがった肉を皿に盛られれば断る事も出来ない。


「……これは何というドラゴンの肉ですか?」

「え、なんだろ? ジュリウス、分かる?」

「とあるダンジョンに出現するアースドラゴンの肉ですね」


 アースドラゴンはドラゴンの中では飛ばないのでまだ狩りやすい種類のドラゴンである。それゆえに市場に比較的出回りやすい肉だが、それでもドラゴンの肉だ。しっかりと味わって食べなければ、とリリスは与えられるがままに口に運んでは咀嚼する。

 咀嚼している間は喋るわけにもいかないのだが、せっせと焼きあがった物を盛り付けてくるシズトを止める事も出来ない。


「ちょっと陽太、僕が焼いてる肉を取らないでよ」

「いいだろ別にちょっとくらい」

「だったらそっちが焼いてる肉も取るけどいいんだね?」

「良いわけねぇだろ!」

「陽太、周りの目もあるので大人しくしててもらえませんか?」

「十分大人しくしてるだろ」


 明が深くため息を吐いた。リリスはその様子をジッと見ながら咀嚼していたのだが、何やら髪の毛のような物が伸びてきた事に気が付いて固まった。


「レモンちゃん、勝手にかけちゃだめだよ」

「れもれもも~。レモンれもももん?」

「えっと、少しだけなら」

「もーん」


 髪の毛の持ち主であるレモンちゃんと呼ばれているドライアドがリリスの足元にいた。彼女はリリスの了承を得ると、髪の毛を器用に操ってレモンを絞った。


「ありがとうございます。いただきますね」

「れも」


 見られながら食事をする事には慣れているのでリリスはそのまま気にせずにレモンがかけられたドラゴン肉を頬張る。

 そうこうしている間に陽太とシズトの間で話がついたのか、コンロの半分ずつお互い管理する事になっていた。


「そろそろ野菜もいい感じかな」

「いいかんじかも~」

「なまでもいけるけどねー」

「おいしいよねぇ」


 レモンちゃんと一緒に戻ってきたのだろう。ドライアドたちがシズトの足元にわらわらと集まっていた。その手にはそれぞれの好きな作物が握られていて、そのまま丸かじりをしている。

 リリスの視線に気が付いたドライアドたちは「あっちに置いたよー」と言った。その指先を見ると、たしかに先程までなかった机の上にこんもりといろいろな野菜がそのまま載せてある。ある程度払ってあるとはいえ、土がついているものもあったし、なにより丸ごとそのまま積まれていた。


「ジュリウス、洗っていい感じにカットしておいてくれる?」

「生でも行けるのに~」

「いや、カボチャとかは流石に無理でしょ。固いし」

「そうかなぁ」

「いけるいける~」

「身体強化ができない人間はそうなんです。そういう訳だから、ジュリウスよろしくね」

「かしこまりました」


 命じられたジュリウスはシズトから離れる様子はない。だが、どこからともなく現れたエルフたちが野菜を魔法を用いてテキパキと綺麗にしていた。


「随分と慣れている様子ですけど、シズト様はよく調理をされるんですか?」

「ん? んー、お肉とか野菜とか焼くだけならたまにしますよ。まあ、だいたいはエミリーとかジューンさんとか……お嫁さんたちがしてくれるんですけどね。そんな事より、お皿が空になってますね。冷めないうちにどんどん食べてください」


 焼く量を調節すればいいのでは、なんて言えるわけもなく、リリスは再びさらに盛り付けられた肉と一緒に野菜も口に含んだ。


「!?」

「おいしい? ねえ、おいしい?」

「おいしいよねー、わかるわかる」

「生でもいける~」

「これはあなたたちが育てた物なの?」

「そうだよー。とってもおいしいでしょー」

「生でもいけるほどだよねー」

「うまうま」

「リリス様、どんどん食べてくださいね。どんどん焼かないといっこうになくならないから」

「なくなったらまた取ってくるねー」

「リーちゃんの所にあるのも取ってくる?」

「じゃあリコちゃんの所もとってくる~」

「いやいやいや。それは流石に処理しきれないから。せめて一カ所だけにして」

「一カ所か~」

「リーちゃんの所が一番近いね」

「そこでとろっかー」

「みんなのがいろいろあるもんね~」


 話がついたのか再び姿を消すドライアド。その内の一部を招き寄せてアールテアとルカソンヌ王国の外交官が何か話をしているが、リリスは彼らの話を聞くよりもシズトと話をする事を優先した。

 結局、時間切れになるまでひたすら食べ続ける事になったのでシズトとあまり話す事は出来なかったのだが、一部のドライアドとは話をして多少仲を深める事が出来たのだった。

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