後日譚436.事なかれ主義者はほっとした
案内をするためにファマリアに出て来たけれど、ちょっと見ない間にまたいろいろ変わってるなぁ。
案内する所は変わっていない所が中心だから僕でもなんとかなったけど、よく町を散歩――というか、飛び回っているパメラについて来てもらった方が良かったかな。ああ、でもリヴァイさんたちの対応の様子を見ていると、王侯貴族相手にもなんかやらかしそうだからやっぱり連れて来なくて正解だったか。
そんな事を考えながらも他の方々と同様に『浮遊台車』に乗って移動していると、後ろの方では何やら話が盛り上がっているようだ。楽しそうでいいなぁ、とは思うけれど賑やかさでは僕の所も負けてはいないだろう。
肩の上から一時的に降りてもらったレモンちゃんを含めて、多数のドライアドたちが僕が乗っている浮遊台車に同乗している。途中下車する子もいれば、走っている浮遊台車に飛び乗ってくる子もいる。飛びつかれるのはもう慣れたから僕は問題ないんだけど、運転している町の子が驚いているからやめるように注意した。
「じゃあどう乗ればいいの?」
「止まって~って言えばいい?」
「そもそも乗らないっていう選択肢はないのかな」
「「「な~い」」」
「れ~も」
「そっか。……じゃあとりあえず手を挙げて合図してくれれば止めるように言うよ。僕が気がつけば、だけど。……っていうか、意識は何となくつながっているんだったら乗ってる子たちが教えてくれればそれで済むんじゃない?」
「なるほど~」
「じゃあそうしよー」
「みんなに伝えなきゃ」
一瞬の静寂。次の瞬間には話し始めた所から恐らく伝達は終わったのだろう。
これで町の子がビックリする事もなくなればいいんだけど……なんて思っていたら教会に向かう道中でちょくちょく止まる事になった。これは効率が悪いかもしれない。
どうするべきかは教会に着いてから考えよう。きっと全体に向けた話をした後は時間があるだろう。
ファマ様の教会はエルフたちが管理している。普段はエルフたちが屯しているそうだけど、今は教会の敷地内にほとんど人がいない。
「こっちにあんまり来てなかったけど、随分と変わったね」
「頑張って育てたの~」
「みんなで協力したんだよ~」
「レモンもれもも!」
「なんて?」
「レモンも植えた、と仰ってますよ」
「あ、そうなんですね。教えてくださってありがとうございます」
「いえ、このくらいは大した事じゃないので」
にっこりと微笑んだリリス様は僕の隣に自然と並んだかと思うと、前を見て建物を見上げた。
「木造建築なんですね」
「はい。後で説明しますが、世界樹の素材で作った教会なんですよ」
「なるほど。だから世界樹特有の魔力を建物から感じるんですね」
「おい、二人で話してないで他の奴らに向けても話さなくていいのかよ」
「言われなくても今からするつもりだって」
陽太がジト目で僕を見てくるけど、きっと狙ってる女性が僕と笑顔で話をしているとかそういう理由で機嫌が悪いんだろう。僕もこれ以上お嫁さんは増やしたくはないので手助けはしないけど邪魔もするつもりはない。問題にならない程度に好きにやってほしい。
ドライアドたちも含めて全員『浮遊台車』を降りた事を確認できたので一度皆に集まってもらう。
「こちらが生育を司っている神ファマ様の教会です。どうやらここまで緑が広がっているようで、敷地内は畑になっています。ただ、どれがドライアドたちが育てているものなのか分からないので軽率に触れないように気を付けてください」
「……触れたらどうなるんですか?」
律儀に挙手をして質問をしてきたのはジーランディーの外交官さんだ。
他の人も何の法則性もなく好き放題育っている植物が気になるのかそちらを見ていた。
「畑を荒らす輩と間違われて簀巻きにされて吊るされます。それが貴族だろうが平民だろうが関係なくぐるぐる巻きにして吊るすのでくれぐれも植物に害を与えないように気を付けてくださいね」
「触るくらいなら捕まえないよ~」
「れーもれーも!」
「ジッと見るけどねー」
「れーもれーも!」
「ちょっと話が進まないから静かにしててもらえるかな」
「「「はーい」」」
「もん」
僕の体に引っ付いていた子だけではなく、教会の敷地内からこちらの様子を窺っていた多数のドライアドたちが一斉に静かになった。
「……それじゃあドライアドも静かになったので教会の中にご案内しますね。まあ、他の教会と似たような作りなので見るべき所なんてないかもしれませんが……」
「そんな事ありませんよ。ここは言わばファマ教の総本山。しっかりとこの目に焼き付けて参考にさせてもらいます」
鼻息荒く意気込んでいるのはルフラビアの外交官さんだ。ずっと大人しかったけど急に態度が変わったな。信心深い方なんだろうか?
信心深いと言えばアールテアの人の様子はどうかな、と視線をルフラビアの外交官さんから移すと、彼はアールテアの外交官さんと一緒に、畑から二人を見ているドライアドたちとジッと見合っていた。何をしているのか気になるところだけど、あの様子なら当初懸念していたトラブルは起きそうにないかな。
そんな事を考えながら僕は教会の敷地に一歩足を踏み入れるのだった。