後日譚429.事なかれ主義者は案内する事になった
レビヤタンから突然王族が参加する事になったタルガリア大陸での『新年会』は無事に終わった。
レモンちゃんや他のお嫁さんたちを交えつつリリスさんと話をしていると陽太がその輪に加わったり、なんか陽太が妙に馴れ馴れしくれしく関わってきたけど、それ以外は大きな混乱もなかった。……よくよく考えたら陽太が馴れ馴れしいのは元からだったかもしれない。
「シズト、そんなにのんびりと朝ご飯を食べてても大丈夫なのですわ?」
「大丈夫、大丈夫。今日は『天気祈願』の仕事ないし」
「でも、タルガリア大陸の方々がファマリーを見に来るのですわ」
「その対応はレヴィさんとランチェッタさん、オクタビアさんの三人で何とかなるでしょ」
「極力関わりたくないからってわたくしたちに押し付けないでちゃんと対応しなさい。その練習もしてきたでしょ」
「なにかあったらサポートするから安心して対応するのですわ~」
「頑張ってください」
何でこんな事になったのかなぁ。ああ、陽太が原因か。しばらく出禁にしてやろうか。
そんな事を考えながらレモンのマーマレードを薄くパンに塗って食べる。肩の上のレモンちゃんは満足そうだ。
「なにも翌日に町の見学に来なくてもいいのにね」
「翌日じゃなかったら十中八九王族も送り込まれてきたと思うけれど、それでもいいの?」
「どうせ外交官の方々を案内したら次は王族を、ってなるじゃん。しかも今回はリリスさんが参加するし。……少しでも接点持ちたいのは分かるけど、今回の案内は陽太は不参加にさせたろうかな。いや、後で文句言われると面倒だからやっぱり参加はさせておいて放置しておくか。リリスさんとくっつくかもしれないし」
「いやぁ、あの態度はないと思うのですわぁ」
「『読心』の加護がなくとも何となく気持ちを察する事ができる嫌そうな顔だったわよね、あれ」
「あそこまで拒絶されていてもグイグイ行けるのはある意味すごいですよね」
ああいう場では自分の感情を極力表に出さないのがいいと教わっていたからちょっとビックリしたけど、やっぱりアレはあえてやっていたのか。
僕がやると多方面に影響が出そうなのでひたすら張り付けた営業スマイルで対応するしかないけど、どうしても必要になったらやってみよう。
食後のティータイムまでしっかりと時間を使っても約束の時間よりも少し早く目的地に着いてしまった。こっちの世界の人は割と時間にルーズな人もいるのでまだ早かったかな、と思ったけれど全員揃っていた。
「シズトさん、おはようございます。今日はよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします。僕一人じゃ対応しきれないと思うのでマナブさんが来てくれて助かります」
「俺も助けてやるんだから感謝しろよ」
「余計なトラブル興しそうだから帰ってくれてもいいんだよ」
「起こさねぇって。俺がファマリアで問題起こした事なんてないだろ?」
「……どうだったかな」
あんまり興味が無さ過ぎて陽太に関する報告を聞き流してたような気もする。
チラッとジュリウスを見たら彼は何も反応しないので、ジュリウスの所に行くほどの大きなトラブルは起こしていないようだ。
勝ち誇った顔で「ほらな!」という陽太の事は予定通り放っておこう。
リリスさんは無理だったとしても、今回ファマリアを見学する予定の各国の外交官を通じてくるであろう縁談の申し込みが少しでも陽太の方に行ったら御の字だ。
「シズト、向こうの準備が整ったようですわ」
「分かった。それじゃあ魔道具を用いてファマリアへと転移します。転移後は周囲に武装した兵士がいますので変な行動は慎むようにお願いします」
今回連れて行くのはマナブさん、ココロさん、レイカさん、イチゴさんのタルガリア大陸側の勇者御一行に加えて陽太。各国の外交官それぞれについてもらって対応してもらう予定だ。
各国の外交官はアールテア、ルカソンヌ、ルフラビア、ジーランディーの四ヵ国だ。どの国も貴族は貴族なので対応は気を付ける必要があるけど、そこに王族であるリリス様も加わった。
それぞれ誰につくかが問題になるんだけど、そこら辺はマナブさんが配置を決めてくれた。陽太はリリス様に着く事になったけど、何かやらかしそうで不安だからもう一人助っ人を呼ぶ事にした。
「なんで明もいるんだよ」
「新年早々の挨拶がそれですか」
僕の後に続いて順番に転移してもらったんだけど、待っていた人物を見て開口一番に文句を言う陽太。それに呆れているのが今回助っ人として呼び寄せた黒川明だ。
僕と同い年のはずだけど、中性的な顔立ちだからか、それとも童顔だからかまだ学生のように見える彼は陽太たちと一緒に転移してきたシグニール大陸の勇者である。
以前と違うのは左手の薬指に指輪を嵌めている事だろうか。……いや、前もつけていたような気もする。どうだったかな。こっちの勇者三人組にはあまり興味が湧かないから見てなかったけど、前回会った時はもう結婚していたような気もする。いや、結婚する予定、だったかな。
なんてどうでもいい事を考えている間も陽太と明の言い合いというか、掛け合いというか……それが続いていた。
学さんが困ったような表情でこちらを見ていたし、畑の方ではレヴィさんがジト目でこちらを見ていたので意識を切り替える事にした。
「えっと、ここがファマリアです。あちらに見えるのが世界樹ファマリー。あ、くれぐれもそれ以上畑に近づかないようにしてください。ドライアドたちにはあなたたちの事を伝えていないので畑泥棒と思って捕まえようとするので」
タルガリア大陸には世界樹がない。それでも世界樹の何かに惹かれたのかフラフラと近づいて行く人がいたので釘を刺して置いた。
これで勝手に入ったら向こうの落ち度、という事にしよう。
「あちらに広がっているのがファマリアです。今日ですべてを回る事は難しいと思うので宿も準備してありますが、途中で帰りたい方は申し出てください。ただ、一度向こうに帰ったらもう一度来る事は許可しておりませんので予めご承知おきください」
事前の説明はこのくらいだろうか?
畑作業を中断していたレヴィさんに視線を向けると、彼女は既にこちらを見ておらず、せっせと雑草を抜いている様だった。