後日譚427.事なかれ主義者は何も聞こえなかった事にした
どこの『新年会』でも僕が踊っていたら僕の周りで自由にドライアドたちが踊っていた。
他の所ではそういうものだから、と好き勝手踊っていてもスルーされていたドライアドたちだったけれど、タルガリア大陸では少し違った。
それは、前世からの転移者が多く参加していて、しかもその中に社交のマナーなどあまり気にしない人がいたからだろう。
陽太を筆頭に、マナブさんたち以外のタルガリアの異世界転移者が三人、ドライアドたちの輪に加わって盆踊りもどきを始めた。
なんでドライアドたちの一部が盆踊りを知っているのかはきっとニホン連合を旅した子がいて、どこかで見たとかそんな感じだろう。他のダンスもニホン連合のどこかで伝わっていたと言われても不思議じゃない。
エルフたちが演奏する曲のテンポに合わせて速くなったり遅くなったりするけど動作は一緒なので慣れてしまえばだれでも踊れる。
レイカさんやココロさんが加わった事で彼女たちと接点を持ちたいのであろうオールダムの男性陣たちがさらに輪に加わり、社交パーティー用のダンスをしている人が少数派になった。
僕が踊りを止めても周りの人が同じ踊りをしているからかドライアドたちはついてくる事なく踊り続けている。
「流石にこの状況で踊り続けてもね」
「とっても混沌としているのですわ」
「他の大陸の社交パーティーじゃあり得ない光景ね」
「こっちの方が面白そーデース!」
「パメラ! ちゃんと護衛をするじゃん!」
「ジュリウス一人いればだいたい大丈夫デスよ~」
言い訳として使われたジュリウスに視線を向けたら「そこまでの実力者はいないようですので問題ありません」と彼は同意した。
ただ、パメラ以外はちゃんと護衛として僕の周りで待機し続けるようだ。
大変だなぁ、なんて事を思いながらなんとなく視線を踊っている人たちの方に向けると、ふと先程まで盆踊りをしていた褐色肌の子たちがごっそりといなくなっていた。その代わりにロボットダンスっぽいのや、ブレイクダンスっぽいのを踊っていた肌が白い子や小柄な子が盆踊りの輪に加わっている。
「今回もいつの間にかいなくなってるし……」
「どうしてもつなぎとめておきたいのなら物理的につないでおくしかないと思うのですわ」
「流石に絵面がなぁ」
見た目が子どもだし。
「それか連れて来ないかだな」
「勝手に精霊の道を通ってやってきそうなんだよなぁ」
「……まあ、そうだな」
ラオさんが肩を竦めた。彼女もドライアドたちの自由さは理解しているようだ。
それに屋敷の中から別の場所に転移して置いてったらレモンちゃんが後で怒るしなぁ。
そんな事を思いながら僕の近くで遠くで踊っているドライアドたちと同じ動きをレモレモ言いながらしているレモンちゃんを見たらレモンちゃんも見返してきた。
「いや、指差されてもあの輪には入らないからね」
「れもも?」
「引っ張られても行きません。みんなの所に行きたいならレモンちゃん一人で行ってきな」
「れもも~……」
考え込んだ様子のレモンちゃんは結局盆踊りの輪に加わる事なく僕の近くで待機する事を選んだようだ。
なにやらレモレモ言いながら踊っているけど、さっきとは違って文句でも言っているんだろう。たぶん。
そんなレモンちゃんを放っておいて、会場の端の方に並べられている机の上に並んだ料理のどれを食べようかと見ていると、誰かが近づいて来た。
「シズトさん、今お時間よろしいでしょうか?」
「大丈夫ですよ」
その人物は学さんだった。彼の後ろには日本人っぽい見た目の女性が立っていた。
これは料理とか選びながら話を聞くわけにはいかないな、としっかりと二人の方を見ると、料理を物色していたラオさんやルウさんや談笑していたレヴィさんやランチェッタさんが戻ってきて、それとなく僕の近くを固めるように立った。
「こちら、レビヤタンからいらっしゃったリリス様です」
「レビヤタン第三王女リリス・レビヤタンです。シズト様がご出席されるとお聞きし、王命により馳せ参じました。よろしくお願いします」
綺麗なカーテシーをして挨拶をした女性は黒髪黒目だったけど、それ以外は日本人っぽくないので勇者ではないんだろうなと察していた。察していたけれど、王女様がわざわざ国を一つ越えてやってくるとは思っていなかった。
今回は王族は参加しないだろうって予想だったのに、なんて今思っても仕方がないので僕もマナブさんが紹介してくれたタイミングに合わせて自己紹介をする事にした。
「音無静人です。こっちの言い方では静人・音無ですね。こちらこそよろしくお願いします。それと、嫁をそれぞれ紹介しますね。こちらが正室のレヴィアです。他の女性は側室で近い人からランチェッタ、オクタビア、ジューン、セシリア、ディアーヌ、モニカ、エミリー、ホムラにユキ。それから護衛をしてくれているラオとルウ、ドーラ、シンシーラ。会場の隅っこの方で魔道具を弄ってるのがノエルで、あっちで踊ってるのがパメラです」
近くにいる人は黙礼したり、軽く「よろしくお願いします」と言ったりしていたけど、遠くで魔道具に集中しているノエルや戻ってくる気配のないパメラは聞こえてすらいないのだろう。
そんな事を思いながらもリリス様の様子を見る。パッと見て他種族だと分かるお嫁さんを紹介した際にも顔色一つ変えなかったし、十五人側室がいると伝えても眉一つ動かさないのは王族だからか、それともそのくらいいて当然と思っているのか……。
どちらにせよこれ以上増やす気はないぞ、とアピールしておかないとなんか増えそうな気がするんだよなぁ。
「場合によっては諦める必要があるかもしれないのですわ」
なんかこそっとレヴィさんが言ってきたけど、聞こえないふりをした。