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後日譚426.龍姫士は話したかった

 タルガリア大陸でも有数の多種族国家であるレビヤタンはタルガリア大陸の東に位置する国だ。東には海が広がり、西には『フォレスト・アビス』と呼ばれる大ダンジョンがある。北側は山々が連なり、そこには多くの魔物がひしめいている。南西にはクレティア王国と国境を接しているため争いが絶えないが、国境を接している南の国はルフラビアの従属国とは戦争になる事もないのでクレティア王国の侵略と東西からの魔物の襲撃にだけ備えておけばよかった。

 そんな国に王女として生を受けたリリス・レビヤタンは、濡れ羽色の髪に真っ黒な瞳と勇者の血を色濃く受け継いでいた。その影響もあってか、知識神から『意思疎通』という珍しい加護を授かっていた。

 直接戦闘に関係する加護ではなかったが、誰とでも『意思疎通』によって対話をする事ができるその加護によってドラゴンと心を通わし、『龍姫』と呼ばれるほどの乗り手となった彼女は今、王命によってタルガリア大陸の最南端にある国オールダムの首都に単身でやってきていた。

 オールダムとの約束もあったが、何よりも速く駆け付けるために大陸一の速さを誇るストームドラゴンに乗ってやってきた彼女は、普段なら周囲を固めている近衛兵もおらず、身の回りを世話をしてくれる侍女もいない状態だった。

 ただ、王女という立場だが戦場も駆け抜けた彼女には怖い物はない。

 身を固めるために着ていた鎧を脱ぎ捨て、護身用に身につけていた武具を預ける事になっても長年の加護の使用によって増大した魔力と、ドラゴンの世話のために日常的に身体強化の魔法を使っていた事から無手でも何とでもなると考えていた。


(社交の場は不慣れだけど、そこは度胸で何とかするしかないわよね)


 そんな事を考えながら大きな姿見で身だしなみの最終チェックを行った。

 一着だけ持ってきたパーティー用のドレスは、普段はさらしで抑え込んでいる大きな胸や引き締まった腰の引き立てていた。

 過度な装飾を好まない性格なのか、首飾りも指輪も身につける事無く、彼女は用意されていた部屋を後にした。

 扉の前では数人の兵士と共に黒髪の男が立っていた。

 オールダムの国会議員をまとめる立場である佐藤学である。

 彼の名は当然レビヤタンにまで轟いていたが、気負う事もなく自然体のまま学の前に立ったリリスは「お待たせしました」と言った。


「『新年会』はまだ続いておりますか?」

「夕暮れまでは続ける予定です。他国の方にはあまり関係はありませんが、去年一年間を振り返って功労者を表彰する事になっているので」

「そうなんですね。それは楽しみです」


 どの様な人物がどのような事で他の者たちの前で表彰されるのか。それを見れば誰が重要人物かは何となくわかるだろう。

 そう考えたリリスは学の後について歩いていたのだが、だんだんと音が大きくなっている事に気が付いた。

 耳をすませばあまり聞き覚えのないゆったりとした曲と共に人の喧騒が聞こえた。周囲の兵士が魔力の気配を敏感に察知してリリスを睨んだのでそれ以上は聞き耳を立てる事はしなかったが、あともう少しで会場に着くのでわざわざそんな事をする必要もないと判断したのもあった。

 廊下の角を曲がったところで会場となっている大きな部屋の扉が見えた。丁度そこから数人の人影が出てきて、周囲をきょろきょろとした後、そろりそろりと出てきてゆっくりと扉を閉めた。

 人族の子ども程の背丈の人影を見て、リリスは最初に貴族の子どもが部屋を抜け出したのかもしれない、と思っていたのだが違った。


「人間さんだ。こんにちは!」

「お澄ましでいなきゃいけないんじゃない?」

「お部屋の中でじゃなかったっけ?」

「建物の中だったような気もするー」


 頭の花を揺らしながらどうだったかなぁ、なんて事を話し始めたのはドライアド。

 邪神の加護によって呪われた土地に花が咲き誇る前に現れると噂になっている精霊のような存在だ。

 南の方から徐々に浄化がされつつあるタルガリア大陸だが、当然まだ呪われたままの土地もある。レビヤタンの事を考えるのならばここで接点を持っておきたいところだったが、彼女が話しかけるよりも前に学が彼女たちに話しかけた。


「シズトさんと一緒にいなくていいんですか?」

「いいのいいの~」

「気づかれてないからセーフなの!」

「内緒だよ、人間さん」

「……約束はできないです」

「……………これは人間さんにいう人間さんの顔だ」

「じゃあすぐに探検に出ないとだね」

「急がないとだね~」

「それじゃーね~」


 バイバ~イ、と声を揃えて別れの挨拶をした褐色肌のドライアドたちはバラバラの方に逃げて行った。

 それを見送った学は「とりあえずシズトさんには伝えておかないといけませんね」なんて事を言いながら扉を開ける。

 リリスは後ろ髪が引かれる思いだったが、ドライアドの事は一旦忘れる事にして会場に入るのだった。

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