表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1236/1315

後日譚424.勇者は食って踊って楽しんだ

 タルガリア大陸の最南端にあるオールダムという国は生まれ変わりつつある。それまでは王が治める国だったが、勇者マナブが先導し、民主主義化を目指していた。

 そんな動きのあるオールダムでは問題がいくつかあったのだが、そのうちの一つが引継ぎが出来なかった事による文化の断絶だった。

 それまでしていた行事がどのような物だったのか知る者は少ない。

 だが、どういうものか分かりさえすれば行事を復活する気がマナブにはあったので、ガレオールからの情報や数少ない生き残りの貴族から仕入れた情報を元に『新年会』を開催した。

 出席する事になっていたオールダムの人々は大きく二つに分けられる。

 一つは滅ぶ前に貴族だった者たちだ。彼らは場慣れしているので何も問題ない。他国からの使者と共に会場の中央付近で楽団の演奏に合わせダンスをしている。

 もう一つは元々貴族階級ではなかった者たちだ。当然、社交パーティーの教養など持ち合わせている訳もない。過ちを犯さないようにと会場の端の方に並べられた料理を行儀よく食べている。

 金田陽太は後者だった。

 正室や側室の女性たちから「ダンスが踊れないのなら大人しくしていてください」とか「失礼な発言をしないように口を閉じててください」とか「視線を不快に思う方もいらっしゃるかもしれないので料理以外は何も見ないでください」とかいろいろと言われたからだ。

 ただ、ずっと食事するだけなのは当然飽きる。

 となると、話しやすい相手と駄弁るのが楽なのだが、陽太の視線の先には配偶者に囲まれたシズトの姿があった。

 真っ白な布地のスーツは金色の刺繍がズボンの裾から肩辺りまで蔦が伸びるようにされている。世界樹を擁する国々で正装とされている服装で、蔦がどこまで伸びているかで位が分かる物だ。

 世界樹がないタルガリア大陸では奇抜な服装だと捉えられがちだが、ちょくちょく『天気祈願』のためにシズトがやってきている事や、復興のために派遣された子どもたちから得た情報から、彼がやんごとなき御方である事はオールダムの者たちは知っていた。

 だからオールダムの者たちは気軽には近づいて行かないため、会場の一画が彼らのスペースと化しつつあった。


(シズトの女どもが離れたら近づいても問題ねぇんだろうけどなぁ)


 自分の視線がどこに行ってしまうのかよく分かっている陽太は遠目から規格外の大きさの胸を眺めつつワイングラスを傾けた。

 しばらくそうしていると会場の扉が開かれて続々と楽器を持ったエルフが入ってきた。

 演奏をしているオールダムの楽団の隣に並んだエルフの集団は、隣の楽団の演奏が止まったところで演奏をし始めた。

 その演奏は間に合わせで集めたオールダムの楽団よりも上手く、会場の端の方で歓談していた者たちの視線が集中した。


「……シズト様が躍るのは分かるけど、あの周りで動き回ってるのはなんだ?」

「シズト様がよく体に引っ付けている子たちじゃない? なんて種族だったかしら?」

「ドライアドだよ。っていうか、あんな自由に踊っていいんだったら俺たちも踊っていいんじゃね?」

「いやぁ、どうだろう。ランチェッタ様の伴侶が連れて来た者たちだから許されてるだけじゃないか?」

「大人しくしておく方が無難だよ。何かよく分かんない動きだし」


 ざわざわとそこかしこでドライアドたちのダンスに注目が集まる中、陽太はそのダンスを見て首を傾げていた。

 ただ、自分で考えても解決しなかったのか、周囲を見て目的の人物を見つけるとそっちに足早に移動した。

 陽太が向かった先にはタルガリア大陸の勇者である木下一護や神崎心、白鳥麗華が集まって食事をしていた。彼らは一曲踊った後は出席者と話をする事を優先していたようだったが、シズトと共にドライアドたちがダンスを始めていた事に気付いていた。


「なぁ、オッサン。あれって盆踊りじゃね?」

「ちょっと違う所もあるけど、盆踊りだと思うよ。シズトくんを囲むように輪になって踊ってるし一般的なやつかな」

「なんでドライアドが盆踊り踊ってんだよ」

「さぁ。シズトくんが教えたんじゃないか?」

「ロボットダンスを踊っている子もいるわね」

「え、どれですか?」

「ほら、あそこの端っこの方でかくかく動いている子」

「へー、あれがロボットダンスって言うんですねー。あの曲に全然あってないけどくるくる回ってるのはなんですか?」

「ブレイクダンスじゃないかしら?」

「レイカさんはダンスに詳しいんですね! 私はそういうのさせてもらえなかったから名前しか知らないんですよ」

「……でしょうね」

「レイカさんは踊りに加わらないんですか?」

「高校の頃にちょっと齧ってただけだからやめとくわ。踊りたかったらいってきたら?」

「行きたいのは山々ですけど、踊った事なんてほとんどないですし……さっきも失敗しちゃったので……」

「盆踊りなら同じ動きの繰り返しだから混ざれるんじゃないかしら?」

「まあ、難しくはないだろうからなぁ」

「うーん……イチゴさんもレイカさんも一緒に行ってくれませんか? 一人だと心配なので……」

「しょうがないわね」

「とか言いつつすごく乗り気じゃないか?」

「そんな事ないわよ。ココロのために仕方なくよ」

「そういう事にしておこう。……ヨウタも行くか? どうせ暇だろう?」

「あー……まあ、そうだな。見るだけより踊った方が良いか」

「そうそう。それにシズトくんとの関係をアピールできたらしておいてってヨウタも言われてるんだろう?」

「おっさんも言われてんのか」


 どこの国の嫁も考える事は同じなんだな、なんて事を考えながら陽太はタルガリア大陸の勇者たちと一緒に盆踊りの輪に加わるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ