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後日譚417.用心棒は暇つぶしに付き合った

 シグニール大陸で行われた新年最初の国際交流会である『新年会』は、各地と転移門が繋がっているという事でガレオールの王城の一室で行われた。

 小国家群やニホン連合のそれぞれの国をすべて合わせると百を超える数があるため、参加できる枠には一定の制限が掛けられている。

 民族ごとに統治している者がいるため、複数の王がいる獣人の国アクスファースもそれは例外ではなかった。

 そうなると誰が行くのかが問題になる。獣人の国の中だけでの価値観であれば力が強い者が代表としていけばいいのだが、そうなると他国と国際問題になりかねない。

 強さだけではなく、他の者とトラブルを起こさない思慮深さも必要になる、という事で選ばれたのは盾にも横にも大きい黒髪の男だった。

 その名はライデン。見た目は人族の男性だが、実際はシズトによって作られた魔法生物である。

 異種族であるのにも拘らず武力を示し、それまで三大勢力だったアクスファースの勢力図を塗り替え、今の地位についていた。

 そんな地位を手に入れるつもりがなかったライデンだったが、今回の『新年会』に参加する事が出来た事を考えると、悪くなかったんじゃないか、と思い始めていた。


「えっと、紹介にあずかりました音無静人です。…………こうして皆様と顔を合わせ、新年の始まりを共に祝える事を何よりもうれしく思います。この会を開くために、各国が歩み寄り……えーっと、剣を収めたのは時代の転機です。集まってくださった皆様こそ、平和を築く礎だと思います。この一時の平和が、長く続くように尽力していく所存です。…………ご清聴ありがとうございました」


 ライデンの主であるシズトが乾杯の音頭を忘れてしまったのか、それとも元々そういう予定だったのか――ガレオールの女王であるランチェッタ・ディ・ガレオールが声を拡散する魔道具をシズトから受け取り、乾杯の音頭をとる事になった。

 手に持っていたグラスをそれぞれ飲み干す周囲の者たちと同様に、ライデンもグラスを煽った。大柄な彼が持つと玩具のような印象を受けるワイングラスを丁寧に侍女に渡すと、彼は周囲をそれとなく見た。

 シズトへの挨拶待ちをする統治者たちと、数少ない参加枠を勝ち取った貴族が別れて過ごしている。例え国力にどれだけ差があろうと、国の統治者に忠誠を誓い、使える貴族が他国の王においそれと話かけるような事はしないようだ。

 シズトへの挨拶の順番は事前に決まっているのだが、縦にも横にも大きなライデンを見つけるのはシズトには容易な事だったのだろう。再びライデンがシズトの方を見た時にバチッと目が合った。


「……シズト様に随分と気に入られているようですな」


 ライデンが手を振り返している最中に、彼は隣から声を掛けられた。そちらに視線を向けると、立派な白い髭が特長的な老人が立っていた。

 彼の名はフランシス・ドタウィッチ。老練な魔法使いであり、ドタウィッチの国王でもある。

 杖は携帯していなくとも魔法は使えるだろう、とライデンは表には出さないものの警戒心を高めた。


「まぁな」

「羨ましい限りですなぁ」

「ドタウィッチも関係性は悪くねぇんじゃねぇか?」

「悪くはない。が、良くもないのう。仲良くなる秘訣があるのなら教えてほしいんじゃが」


 ライデンが頑なに敬語を使わない所に合わせたのか、フランシスは慣れない敬語を使うのをやめた。だが、ライデンはそんな事を気にする様子もない。


「そんなもの、オイラも知らねぇなぁ」

「それは残念」


 全く残念そうな表情じゃないフランシスは、髭を弄っているだけで離れていく気配はない。


「なんかオイラに用か?」

「用、というほど大層な話はないんじゃが……そうじゃのう。待ち時間の時間つぶしに付き合ってくれんか?」

「オイラの番が来るまでだったら構わねぇぞ」


 言外にそれほど長く話をするつもりはない、と答えたライデンに気を悪くする事もなくフランシスは「それじゃあ何を話そうか」と考え始めた。少しの間が空いて、フランシスが口を再び開く。


「魔の森の開拓はどうじゃ? 順調かな?」

「それはオイラにはあまり関わりのない事だから知らねぇなぁ」

「ふむ。他の三派閥が主導している、ということかな?」

「そういう事だ。オイラの所に集まってる奴らは勝手に出かけてる奴もいるようだけど、オイラは別に指示してねぇし、報告も受けてねぇ。報告がねぇって事は、あんまりうまくいってないんじゃねぇか?」

「なるほど、聞いていた通りじゃな。他の長のようになぜライデン様は魔の森に行かないんじゃ? 要請はされておるじゃろう?」

「されてるが、別に必要性を感じねぇからな。成り行きで今の立場になったが、別に引っ張っていくつもりはねぇ。歯向かってくる奴らがいるんなら相手になるが、わざわ向こうの領域にまで出張って暴れるつもりはねぇよ」


 シズトから命じられれば別だが、という言葉は飲み込んでライデンは歩き始めた。そろそろライデンの番である。配偶者に獣人がいるとはいえ、彼女たちはアクスファースの王侯貴族とは無縁な者たちばかりだ。

 なぜアクスファースがドラゴニアやエンジェリアに次いで優先されるのか。その真意は各国の王の中でライデンくらいしか分からないだろう。


「話は此処までじゃな。また後で話そう」


 ライデンはそれに対して明確に答える事無く、シズトが待つ方へノッシノッシと歩みを進めるのだった。

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