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後日譚416.事なかれ主義者は必要性を感じない

 夜遅くまで練習をしていても時間になったらすっきり目が覚める事ができる『安眠カバー』に今日もお世話になりつつ目を覚ました。

 正装として用意されている真っ白な布地の服に着替えて廊下に出ると、既にモニカが待っていた。僕と同じくらいまで起きていたはずなのに眠そうな様子もなく、スカート丈の長いメイド服は皺ひとつなかった。


「おはようございます、シズト様」

「おはよう、モニカ。みんなはまだ準備中かな?」

「ほとんどの方が既に準備を終えて外でお待ちです」

「ランチェッタさんたちは? もう向こうに行っちゃった?」

「そうですね。ランチェッタ様、オクタビア様、それからディアーヌの三人は既に向こうに移動されています」

「あ、オクタビアさんも結局先に行く事にしたんだ?」


 他の国との接点をどんどん作っていきたいって言ってたけど、それにしても早すぎじゃないかな。ランチェッタさんたちと一緒に過ごしているのかな?

 なんだか賑やかな部屋の前を通り過ぎ、階段を降りて正面玄関から外に出るとレヴィさんが豪華なドレス姿で土いじりをしようとしていてセシリアさんたちに止められていた。


「あ、ほら! シズトちゃんが来たわよ、レヴィちゃん」

「おはようなのですわ~」

「…………うん、おはよう」


 ツッコミを入れたところで今更なのでルウさんに持ち上げられている事には触れずにレヴィさんに挨拶を還すと、地面に下ろされた彼女はまっすぐにこちらにやってきた。


「人間さん、おはよ~」

「れもも~」

「はよはよー」

「みんなおはよう。あ、レモンちゃん。今日も駄目だよ」

「レモ!?」

「今日もなの、人間さん」

「お澄ましするの~?」

「そうだよ」

「踊るの~?」

「くるくる回るの~」

「ぴょんぴょんするんだよー」

「んー……そう、だね」

「探検しに行くの?」

「それはなし」


 今回こそしっかりと見張っておいてもらいたいところだけど、今日が一番の山場だからそんな余裕もないのかもしれない。

 他の新年会よりも参加国が圧倒的に多く、異なる人種や宗教に対して排他的な考えを持つ国も参加するシグニール大陸の新年会。

 ドライアドたちを連れて行かない事も考えたけれど、下手に禁止して勝手について来る方が面倒だという事で結局彼女たちはついて来てもらう事になっていた。

 一緒にダンスをすれば僕に向かう視線が多少減るような気がするから踊りは許せるけど、それ以外はしっかりと釘を刺しておかないと。……釘を刺したところで自由に過ごすのがドライアドだし、探検に関しては諦めた方が良いかもしれない。

 ノエルがホムラとユキに引っ張られるような形でやってきて全員揃ったので、四柱の祠の前でお祈りをしたら、ガレオールの実験農場に繋がっている転移陣に乗って移動した。


「「「ようこそ~」」」


 総出で出迎えてくれたのはここの手伝いを任されている褐色肌のドライアドたちだ。

 彼女たちも流れにのってついて来るかと思ったけど、畑の仕事を任されているという自覚があるのか、実験農場の敷地から出る事はなかった。

 用意された馬車には全員乗る事は出来ないので、予定通り三台に分かれて乗り込んだ。ドライアドたちは同じところの子が一塊になる事なく、それぞれ分かれて乗り込んだ。

 レモンちゃんがいるから僕の馬車だけドライアド四人もいたけれど大きな馬車だったので問題なかった。




 ガレオールの王城に用意されていた軽食を軽く摘まみながら雑談に興じていると扉がノックされた。


「皆様、そろそろお時間です。ご準備はよろしいでしょうか?」

「大丈夫です」

「それではご案内します」


 褐色の肌の宮廷侍女に案内されてぞろぞろと移動した先には大きな扉があり、その前にはやはり褐色肌の騎士たちがいて、周囲の警戒をしている様だった。

 扉が開くと曲が演奏され始めた。今回はエルフたちではなく、ガレオールの楽団の人のようだ。開催場所が都市国家じゃないからだろうか。

 お澄まし顔のレモンちゃんを先頭に、ドライアドたちが歩き始めた。僕たちもその後に続いて歩く。

 拍手で出迎えられる中、ランチェッタさんのもとへ行く。オクタビアさんは少し離れた場所にいた。周りにいるのはエンジェリア帝国の貴族たちだろう。何人か見覚えがある。


「ようこそ、シグニール大陸の『新年会』へ」

「お招きいただきありがとうございます、ランチェッタ様」


 今の僕はエルフたちのトップで、ランチェッタさんはガレオールの女王である。親しき中にも礼儀あり、という事でお堅い話し方で挨拶を交わしあった。

 背後で誰かが笑う気配がする。パメラだろうか。普段と違っておかしいって感じても釣られるから笑わないでほしい。

 ランチェッタさんはいつもかけている丸眼鏡をかけていないが、勤めて優しい微笑を浮かべようとしているのだろう。いつもの可愛い丸眼鏡をかけても問題ないと思うんだけどなぁ。

 そんな事を思いながら、ランチェッタさんに促されるまま彼女の隣に立った。

 最初にランチェッタさんが話し始める。ガレオールが主催しているのだから当然と言えば当然である。

 堂々とした姿で、魔道具を用いて会場中にその凛とした声を響かせていた。

 ランチェッタさんの後に話す必要なんてないんじゃないかな。

 そんな事を考えながら僕は大人しくランチェッタさんのスピーチが終わるのを待つのだった。

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