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後日譚412.元知の勇者もまだ早いと思う

 ミスティア大陸にはクレストラ大陸と同様に国際連合にすべての国が加盟している。同じ大陸同士の無益な争いを避けるため、というのもあるがなによりクレストラ大陸に後れを取るわけにはいかない、とウィズダム魔法王国などが声をあげ、他の国々が賛同した事によってその様な状況になっていた。

 その調整役を担っているのは都市国家イルミンスールを任されているキラリーという女エルフと、タカノリという元勇者だった。

 当然、今回の各国から王侯貴族を招いて行われる『新年会』も任されていた。

 予想していた通りシズトとタカノリの家族間の交流が行われた後、シズトと別れたタカノリと妻のアビゲイルが会場に先回りすると、既に多くの者たちが集まっていた。その中には親しい間柄の人物もいた。


「昨日ぶりですね、バンフィールド公爵」

「そうだな。今日は一段と綺麗だな、アビー。レイはどこだ?」

「今日はお留守番をしてもらっています」

「…………そうか」


 小さく呟いた厳つい顔つきの男性はライアス・バンフィールド。ウィズダム魔法王国のバンフィールド公爵家の当主であり、タカノリの義父でもある。

 今日は普段よりも煌びやかな装飾がされた服を着ていたが、本来はシンプルな物を好む事をタカノリは知っている。転移門の所有者が参加する『新年会』で行われるダンスのための服装だろう。


「いくつか見合いの話を持ってきたんだがな。本人がいないのなら帰る前によって見せるか。家に行くのは構わんだろう?」

「お父様。今の状況を考えてレイはしばらく誰とも婚約しないとお話したではありませんか」

「だが、もう数年したらレイも成人じゃないか。そのくらいの年齢で婚約者がいないのは――」

「貴族であれば何かしら問題があると判断されるかもしれまんね。でも、もう私たちは貴族ではありませんから」

「『新年会』に参加するのなら貴族のようなものだ」


 タカノリがシズトの下で働く際についてきたアビゲイルとレイは、タカノリと同じくウィズダムから出る際に爵位を手放し、平民という事になっていた。

 以前まで暮らしていた屋敷と比べるとはるかに小さい家で家族三人暮らしている。

 ただ、貰っている給料に関しては領地を持たない宮廷貴族と同じかそれ以上のためバンフィールド公爵の言う事を否定し辛いタカノリは、一先ずバンフィールド公爵の相手をアビゲイルに任せて三人の様子を見ていたキラリーに話しかけた。


「首尾は?」

「上々です。シズト様達には部屋で待機してもらっている間に各地からいらっしゃった方々に順次入場してもらう事になっています。爵位の低い方々から入場してもらっているのですが…………バンフィールド公爵。そろそろギリギリのお時間です」

「そうか、分かった。……この件についてはウィズダム魔法王国から何人か見繕っている事を忘れないでくれ。他国の者から申し込まれても私の名を出せば多少はマシになるだろう」

「そういう事ですか。分かりました。しかと覚えておきます。お気遣いありがとうございます、お父様」


 深々と頭を下げて見送るアビゲイルに合わせてタカノリも頭を下げて義父を見送るのだった。




 舞踏会が開けるほど大きな広間は先程までざわざわと騒がしかったが、大きな扉が開かれた後は楽団の演奏の音以外聞こえない程静かになっていた。

 澄ました顔で行進するドライアドの後に黒髪の男性とその配偶者である女性たちが入ってくる。

 仮面をつけたエルフ以外で武装を許された女性は周囲を厳しい目で見渡す者もいれば緊張した面持ちで歩いている者もいる。

 煌びやかなドレスを身に纏った女性たちはそれぞれ異なる魅力があるが、彼女たちに視線を向ける者は今はいない。

 一段高い所に置かれた椅子の近くまで背筋を伸ばしてゆっくりと歩いていた黒髪の男性が「顔をあげてください」と言ったのを合図にタカノリも顔をあげた。

 純白の生地に金色の糸で蔦のような刺繍が施された服を着ているのが今回の主役であるシズトだ。顔は緊張しているようだが、声を増幅する魔道具を使って話し始めた。


「明けましておめでとうございます。シズト・オトナシです。えっと……この度は『新年会』のために遠方からお集まりいただきありがとうございました。あー…………今年も天候が安定するように努めてまいりますので何かありましたらご連絡ください。……それでは、本年もどうぞよろしくお願い致します」


 ぺこりとシズトが頭を下げた一泊後にエルフたちと合わせてタカノリとアビゲイルも大きな拍手をした。

 近くにいた各国の貴族たちに視線を向けると、その表情は様々だ。取り繕ってエルフたちのように拍手をする者もいれば、期待はずれという気持ちが顔に出ている者もいる。

 爵位が高くなればなるほど取り繕うのは上手いな、なんて事を考えながらタカノリもまた顔に笑顔を張り付けたまま誰よりも長く拍手を続けるのだった。

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