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後日譚411.事なかれ主義者は再び踊った

 タカノリさんのお嫁さんであるアビゲイルさんや、子どものレイくんと新年の挨拶を交わした。

 アビゲイルさんには侍女三人衆が厳選した手土産を渡していたので、僕はレイくんにお年玉をあげた。ちゃんと僕の財布から出したので問題はないだろう。

 僕もお年玉をあげる側の年齢になったんだなぁ、なんて改めて実感しながらレイくんと一緒にパメラの遊び相手になってあげていると、アビゲイルさんたちと雑談をしていたお嫁さんたちによって現実に引き戻された。


「そろそろ会場に向かった方が良いのですわ」

「ちょっと早くない?」

「着いてから身だしなみの最終チェックがあるのですわ!」


 すぐ終わるじゃん、と言い返そうと思ったけれど女性陣はお化粧直しとか色々あるんだろう。口を噤んで正月遊びもそこそこにして迎賓館に向かう事になった。

 タカノリさんたちの家の前に何台もの馬車が止まっていて、僕たちはそれに別れて乗り込む。レヴィさん、ランチェッタさん、オクタビアさんの三人と一緒に馬車に乗り込むと、しばらくして馬車が動き出した。

 …………迎賓館が近づくにつれて緊張が高まってくる。


「入場する時は姿勢を意識して、座る前に皆に向けて挨拶をして……余裕があったらスピーチを、って原稿がない! これは仕方がないね」

「レモ!」


 髪の毛で器用に掴んでいる筒を差し出してきたのはドライアドのレモンちゃんだ。当たり前のように肩の上にいた彼女は、当然のように僕の隣に腰かけている。


「セシリアがレモンちゃんにちゃんと渡しておいたみたいですわ」

「残念だったわね。覚悟を決めなさい」

「慣れですよ、シズト様。頑張ってください」

「…………はい」




 緊張が限界突破して頭が真っ白になったけれど、歩き方と姿勢が体に身についてきたのか入場は特に問題なかったらしい。

 スピーチの方は重点的に練習をするように進言しておきます、とセシリアさんに言われたけれど、ちゃんと事前に考えていたものを言う事ができたようだ。

 その後の各国の王様との新年の挨拶も何とか終わらせて、一区切りついたところで一旦休憩を入れる事にした。休憩と言っても各国の色々な人たちに見られながらだから落ち着かないけど――。


「目立たずひっそりと生きていきたいなぁ」

「シズトがどうしてもというのなら、タルガリア大陸に一緒にいくのですわ?」

「アドヴァンの方がいいんじゃないかしら? どっちにしたってわたくしはついて行く事が難しいから定期的に通う形になるとは思うけど」

「私もです」


 すぐ近くのテーブルの上に用意されていた果物を食べていたレヴィさん、ランチェッタさん、オクタビアさんがすぐに反応した。はい、ただの叶わぬ願いなのでそんなに真剣に考えなくていいです。

 軽食を食べ、喉を潤したらダンスの時間である。イルミンスールの楽団が会場に入ってきて、先程まで演奏していた人たちと交代している。

 演奏が始まったら一番最初に踊るのは僕とレヴィさんだ。会場中の視線を一身に浴びながらレヴィさんと一緒に会場の中央に移動するとレヴィさんが僕の手を取り見上げてきた。海のように青い瞳が僕を真っすぐに見てきたかと思えば、彼女は上品に口元を綻ばせた。


「昨日と同じように、頭は真っ白でもいいのですわ。私がフォローするのですわ」

「よろしくお願いします」


 僕が彼女の腰を手を添えたところで曲調が変わった。レヴィさんと一緒にゆっくりと動き出す。

 レヴィさんとのダンスは基礎的な動きだけを繰り返すだけのものだけど、だからこそミスすればよく分かる。姿勢を意識しつつ踊っているとレヴィさんがさり気なくフォローしてくれるので特にミスをする事もなく無事に終わる事が出来た。

 曲調が再び変わる。様子を見ていた人たちが男女のペアを組んで一斉に中央に集まってくる。誰よりも早くかけてきたのはわらわらとついてきたドライアドたちだ。

 レヴィさんと入れ替わるように僕の方へやってきたランチェッタさんの手を取るとダンスが始まる。


「表情が硬いわよ」

「ちょっと同時にこなすのはきついっす」

「でしょうね」


 クスッと笑ったランチェッタさんはそれ以上話をしてくる事もなく、ダンスのフォローをしてくれた。小柄な彼女と踊るのはちょっと大変だけど昨日のパメラよりはマシだ。

 一通り踊ったところでランチェッタさんがジューンさんと入れ替わった。


「今日も皆と踊るんですかぁ?」

「たぶん、そうなるんじゃないかな?」

「じゃあパメラちゃんに無理をさせないように言わないとですねぇ」

「助かります」


 パメラは飛んだり跳ねたり激しいのでついて行くとかそういうレベルじゃなかった。昨日は他の国の人からその事について何か言われる事はなかったけど、今回もそうとは限らないのでしっかりと釘を刺しておいたんだけど、直前で伝えてくれるなら有難い。

 そんな事を考える事ができるくらいにはちょっと余裕が出てきたかもしれない。

 そんな事を考えながらジューンさんと一緒にゆっくりと踊った。


「次はオクタビアちゃんの予定ですねぇ。それが終わったら一度休憩ですからぁ、頑張ってくださぁい」

「はい」


 踊りの練習を半日間ずっとしていた時もあったので体力は何とかなる。

 問題は集中力だな。集中が切れていたのを自覚していたけれど、ジューンさんにも見透かされていたようだ。

 気を引き締めてオクタビアさんを迎えるのだった。

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