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後日譚410.事なかれ主義者は想定通りに動いた

 クレストラ大陸で行われた『新年会』は何事もなく無事に終わる事が出来た。

 ちょっと褐色肌のドライアドたちがいつの間にかいなくなっていて、戻ってきたと思ったら人数が増えていたり、ドレスではなく冒険者用の装備を身につけたパメラが「パメラとも踊るデスよ!」と言った事で護衛や侍女としてついて来ていた人たちとも踊る事になるなどの予定外の事はあったけれど、戦争の火種になるような事はなかった。たぶん。

 日が沈むころにはドライアドたちを連れて帰るという名目でそそくさと抜け出す事も出来た。今後も使える手だな、なんて思っていたら心を読んだレヴィさんが「シグニール大陸での『新年会』では難しいかもしれないのですわ」と言ってきた。


「小国家群はオクタビアが睨みを利かせればきっと大人しいのですわ」

「が、頑張ります」

「ただ、ニホン連合はそうはいかないと思うのですわ」

「わたくしも見張るからそこまで強引な輩は出て来ないとは思うけれど…………引き留められる可能性は高いわよね」


 たとえ引き留められなかったとしても各国の王とは一言二言挨拶を交わす必要がある。シグニール大陸はクレストラの半分ほどの大きさしかないって言われているけど、国の数はクレストラ大陸の倍以上あるらしいし、その分時間がかかるだろう。

 ……挨拶の練習もできると前向きにとらえて頑張ろう。




 翌朝、朝食を軽く済ませた僕たちは転移陣を使って世界樹イルミンスールの根元にやってきていた。今日はイルミンスールにある迎賓館で『新年会』が行われる予定なのでそこに参加する事になっている。

 子どもたちは乳母の方々に任せているから大丈夫だとは思うけれど、挨拶をしたらさっさと帰りたい。


「ダンスもしなくちゃいけないから無理なのですわ~」

「……やっぱりするんだ」

「当然なのですわ~。緊張せずに踊れるくらいになるまでは練習を続けるのですわ」

「…………」

「大丈夫なのですわ。参加する度に踊っていたら慣れるのですわ」

「これも慣れか……」

「何事も慣れなのですわ」


 僕がため息を吐いたところで、遠くから慌てた様子で駆けてくる人の姿が見えた。タカノリさんだ。

 フォーマルな格好で茶色の髪もしっかりとセットしている。この大陸に召喚された勇者で、『神降ろし』について教えてくれた人物だ。


「ごめんごめん。こんなに早く来るとは思ってなくて、気づくのが遅れた」

「こっちが予定よりも早く来ただけだから気にしないで。パーティーは定刻に始められそう?」

「ああ。シズトくんが早めに来てくれたからもう少し急がせる事もできるけど、どうする?」

「予定は変えないで大丈夫だよ。空いた時間にご家族にご挨拶をしようかなって思ってたけど大丈夫かな?」

「…………パーティーに元々参加する予定だったから大丈夫だと思うよ。ちょっと魔法で聞いてみるね」


 タカノリさんが杖を片手に離れていく。その背を見送った僕は、聞こえてきたため息の方に視線を向けた。


「向こうの都合というものを考えなさい」

「え、考えてるよ? ちゃんと大丈夫か聞いたし」

「シズトは対等な友人のつもりで話をしているとしても、あくまでも彼はシズトに仕えているのよ? ちょっとの無理や無茶はなんとかしようとするのが当たり前じゃない。ジュリウスがそうでしょ」

「…………なるほど」

「パーティー前はバタバタしているはずですわ。家族同士の付き合いになりたいという気持ちは向こうにも伝わっているようですけれど、今後は別日に設けるのが良いと思うのですわ」

「…………はい」

「シズト様元気ないデスか? じゃあ遊びに行くデスよ。おっきなドラゴンの背中を探索するデス!」

「パメラ! 今日は遊びを禁止だって言ってるじゃん!」

「そうだったデスか? 忘れたデース」


 ああ、これはとぼけてるやつだ。

 僕でも分かる事はシンシーラには当然のように分かるのだろう。彼女がパメラを追いかけ始めた。この地のドライアドたちに迷惑を掛けなければいいんだけど……。

 そう思って日向ぼっこに興じている大柄なドライアドたちに視線を向けて見たけれど、彼女たちはピクリとも反応しなかった。


「こっちの私たちは日向ぼっこが好きなのかなぁ」

「ぜんぜんリーちゃんのところにもこないもんね」

「あんまり刺激しないように気を付けるでござる」


 僕たちについてきたドライアドたちはそんな彼女たちを見ながらムギュッと一塊になっていた。極力縄張りを侵さないように、という配慮の結果ああなったのだろう。真ん中にいる子は身動きとれなさそうだけど大丈夫かな。

 ぼんやりとそんな事を考えているとタカノリさんが戻ってきた。


「大丈夫だって。どうやらこうなるんじゃないかって予想してたみたいだよ」

「そっか。それじゃあ行こうか」


 タカノリさんと並んで歩こうとしたところで後ろから呼び止められた。


「少々お待ちを。手土産を選びますので……」


 呼び止めたセシリアさんはジュリウスが背負っていた魔道具『アイテムバッグ』の中に手を突っ込んでいる。


「なんかごめん」

「大丈夫ですよ。こうなるって予想できてたからある程度選定してたから」


 にっこりと微笑むのはセシリアさんの近くで様子を見ていたディアーヌさんだ。

 そこにモニカも加わって三人が手土産を選び終わるのを見守る。

 ドラゴンさんから貰えるフルーツでも渡しておけばいいんじゃないかな、とか思ったけれどラオさんがジト目で見てきたので口を噤み、飛び立とうとするパメラを捕まえ、普段よりも大人しいドライアドの近くで大人しく待つのだった。

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