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後日譚400.道楽貴族は急いで通過した

 朝食を終えたギュスタンはサブリナたちと一度分かれ、転移陣を使って世界樹フソーの根元にやってきた。

 世界樹フソーをぐるりと森が囲んでいるが、根元周辺は円形上に開けていて、森の代わりに畑が広がっている。その畑ではフソーの地で暮らしている小柄なドライアドたちが好きな植物を自由に育てていた。

 家庭でも育てられるような植物もあれば、エリクサーの材料にもなり得る貴重な薬草も生えている。クレストラ大陸にしか自生していない植物もあれば、どこかの大陸にお出かけした時に拾ってきた種が芽吹いている畑もあった。

 世界樹ファマリーの根元と比べると段違いの混沌さだった。


「領地の畑がこうならないようにしっかりと見張らないといけないな」


 この地で暮らすドライアドも含め、ギュスタンの領地の畑にはドライアドたちの目撃情報が相次いでいた。

 協力してもらっているのでギュスタンが管理している畑だけであればそれは当然の事なのだが、領都を中心にドライアドたちの活動範囲が広くなっているようだ。

 今のところはドライアドたちの怒りを買ってトラブルになる事はないのだが、シズトやその関係者からドライアドたちについて聞いたり、研究論文を読んだりしていると、いつそうなってもおかしくないとギュスタンは感じていた。

 そうならないためにも領民にはドライアドたちの事を伝えているのだが、人間側だけが気をつければいいという問題ではないので手が空いたら一度ドライアドと話をする機会を設けようと決意するギュスタンだった。




 世界樹ファマリーに対して『生育』の加護を使うとごっそりと魔力が持って行かれたのだが、休んでいる暇はない。

 元都市国家フソーの管理を任されているムサシと新年の挨拶を軽く済ませると、転移陣で屋敷へと戻った。

 屋敷では既に正装に着替え終わったサブリナたちが待っていた。エーファでさえなれないドレスを着ているのはこれからファルニルの首都で行われる『新年会』と呼ばれる行事に参加するためだった。


「本当に私たちが通っても大丈夫なんですか?」

「ムサシさんとドライアドには既に許可を取っているから大丈夫だよ。それよりもルシール。珍しい物が多いけど、今回は通らせてもらうだけだからね?」

「分かってるよ~」

「ギュスタン様。この服装はどう思う? 変じゃないだろうか?」

「とても似合ってるよ、エーファ」

「そうか? どうも落ち着かなくてな。……暗器の一つでも持ち込む事が出来れば多少落ちつけるんだが」

「戦いに行くわけじゃないのよ?」

「戦いみたいなものだよ~」

「貴女にとってはそうでしょうけど、『新年会』は本来そういうものじゃないの。そういう訳ですからギュスタン様もそんなに肩ひじ張らなくていいんです。まだ会場入りすらしてないんですから」

「どうにも慣れなくてね」

「それに、縁談の申し込みが殺到するのが目に見えてるから億劫なんだよね?」

「まあ、そうだね。有難い事だけど、君たち三人を養うだけで手一杯かな」


 話をしながらドレスに着替えた三人の嫁を連れて転移陣に乗ったギュスタン。緊張した面持ちの三人とは異なり、慣れた様子で魔力を流すと次の瞬間には見慣れた大樹と、見慣れないほど集まってきたドライアドが視界に移った。


「人間さんばかりでござる」

「この人たちはおっけーでござる?」

「わからないでござる~」

「大丈夫でござるよ」


 わらわらと小柄なドライアドたちが包囲していたが、ムサシの一声で「そうでござるか~」「解散でござる~」など口々に言い合い、そのほとんどが散り散りに分かれて行った。だが、中には残って四人の動向をジッと見ているドライアドが数人いる。


「変な事をしたら簀巻きにされるでござるからすぐに通り抜ける事をお勧めするでござるよ」

「か、仮にも私たちはギュスタン様の配偶者なのですが――」

「関係ないでござるなぁ。配偶者だから特例として通過は認めているでござるが、見学などは認めていないでござる。文句があるのなら国を通して抗議するといいでござるよ。最近、随分と主殿やエルフの国々に対して過激な考えを持っている方がファルニルに増えてきているみたいでござるから、喜んで協力してくれるんじゃないかと思うでござる」


 ルシールとサブリナは表情には出さなかったが、ギュスタンとエーファは明らかに動揺した。

 だが、ムサシはそれには触れずに「帰りは横着せずに馬車で帰るでござるよ」とだけ言って農作業に戻っていった。

 残されたギュスタンはしばし固まっていたのだが、ジーッと様子を見ながら「なかなか動かないね」「運んであげた方が良いんじゃないかな」なんて事を言いながらじりじりと近づいてきていたドライアドに気付くと、三人を促して禁足地として指定されている場所を抜けるために森の方へと歩き始めるのだった。

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