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後日譚399.道楽貴族は極力頑張る

 クレストラ大陸の中でも農業大国ファルニルの辺境伯ギュスタン・ド・ルモニエは『魔の山』と呼ばれる魔物たちの領域と化している場所のすぐ近くの領地貴族だ。

 辺境伯ともなると周辺の貴族との付き合いや、広大な領地の運営、そして何より『魔の山』の開拓と山から下りてくる魔物たちの脅威から守るという役目がある。

 だが、ギュスタン自身はそれほど忙しくない。出産を終えた妻たちが『聖女』とエリクサーをはじめとした貴重なポーションを活用し、早々に復帰したからだ。

 生まれた子どもたちの面倒は使用人に任せておけば問題ないので、年が明けても彼がする事は殆ど変わらなった。

 日の出と共に大きな屋敷から出てきた彼は、いつも通り広大な敷地の中にある一画へ移動すると、土いじりを始めた。加護を授かる前から趣味と実益を兼ねていた家庭菜園は規模が大きくなっていたが、庭師も手伝ってくれるので特に問題はなかった。


「旦那様、そろそろ朝食のお時間では?」

「もうそんな時間か。それじゃあ後の事はよろしく。あ、くれぐれもドライアドたちが来ても邪険に扱わないようにね。ただ、自由にもさせ過ぎないように」

「存じております。行ってらっしゃいませ」


 そんな主従の話を遠くの草むらから覗き見している者が数人いたのだが、ギュスタンは気づかずに屋敷の方へと戻る。

 実家よりも立派で大きな建物。そんな建物の主が自分だとは未だに実感が湧かないな、なんて事を考えながら侍女が開けてくれた扉をくぐる。

 大きなエントランスホールを通り過ぎ、長い廊下を歩いて向かった先は食事をするための部屋だ。

 部屋付きの侍女によって開けられた扉を再びくぐると、その部屋には既に三人の女性がいた。それぞれがギュスタンに対して朝の挨拶をした。

 丁寧に「おはようございます、ギュスタン様」と言ったのはクロトーネ王国出身の真面目そうな女性サブリナだ。室内でも大きなとんがり帽子を被っているのはそれがクロトーネでは普通で、被っていないと落ち着かないとの事だった。

 足をぷらぷらさせながら元気いっぱいに「おはよーございます!」と挨拶をしたのはルシールと呼ばれる少女だ。小柄な彼女はギュスタンの嫁の中でも最年少だが、王侯貴族や商人などの対応を一手に任されている。

 短い挨拶のついでに大きく欠伸をしたのはエーファという大柄な女性だ。魔物から人まで相手をする施設兵団を率いる彼女は顔にはないが、所々古傷がある。


「三人ともおはよう。体調はどうかな?」

「今日も特に問題ございませんよ。だからこれ以上回復薬を買い漁るのはやめてくださいね。シズト様のご厚意で安くして頂いた上に費用を半分他国が持ってくれているとはいえ、エリクサーをそんな気軽に常備されても困りますから」

「そうだね~。余っている分こっちに融通してくれって人が未だにやってきて面倒なんだよねぇ。無下にできない相手から言われる事もあるし」

「迷惑かけてごめんだけど、誰か一人でも欠けたらこの領地を維持できなくなるから……必要経費って事で」

「…………これ以上増やすのは駄目ですからね。あくまで使った分の補充だけでお願いします。エーファも回復薬があるからと無茶をしないように。まだ出産してそう経ってないんですから」

「それはサブリナもそうだろ?」

「お互い気をつけようねー」


 三人の女性が仲良く言い合いをしている間にギュスタンが席に座ると給仕が静かに進められていく。

 サブリナとルシールの前には少なめな物が、ギュスタンとエーファの前には大盛かつ多種多様な料理が並べられていく。

 用意が済んだところで食前の挨拶をするのだが、ルモニエ家では他国から嫁いできた二人の事も考えて簡潔に「いただきます」を唱和するだけになっていた。


「やっぱりドライアドと協力して作った野菜はおいしーね。今日の新年のパーティーでも絶対この話できるよ。贈答品として持って行きたいからいくつか加護を使って収穫してほしいな?」

「仕事が優先だからそれをした後にね」

「はーい。今回は何にしようかなぁ~」

「旦那様、あんまりルシールの我儘を聞いてばかりじゃ駄目ですよ」

「分かってるけど、ルシールが必要だって言うのならきっとそうなんだろうからね。ちょっとくらい頑張ればできる事だから大丈夫だよ」


 夜になるとこっそり魔力量を増やすために日々魔力を使い切る。そんな事が出来れば飛躍的に魔力が増えて行くのだが、翌日の事や緊急事態に備えるためにはそんな事ができない。

 そうなると限られた魔力をやりくりするしかないのだが、自分の代役としてそれぞれ頑張ってくれている嫁の頼み事はできるだけ叶えてあげたいギュスタンは、今日も魔力切れギリギリのラインまで魔力を使おうと秘かに決意するのだった。

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