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後日譚397.事なかれ主義者は点呼した

 執務室から移動して案内されたのは煌びやかな調度品が飾られている部屋だった。どうやら個人的に親しい相手を招いてもてなすための部屋のようだ。

 ふかふかのソファーに腰を下ろした僕は、すぐ隣にオクタビアさんが座ったのに疑問を持ったけれど正面の椅子は先程まで服にくっついたり、後ろからついて来ていたおすまし顔のドライアドたちが占拠していた。行動も大人しくなってくれたらいいんだけど、他の人がいないから良しと判断したのかもしれない。


「こちらが披露宴を兼ねた社交パーティーの進行表です」


 目の前の机の上にスッと差し出された紙に目を通すと、当たり前の用にダンスという文字があった。……コツコツ練習はしているけど、人前で披露できるレベルには達していない気がする。流石に主役として踊らないわけにはいかないのかな、なんて事を考えながら侍女のセレスティナさんが読み上げている内容をそれとなく聞いた。


「――以上が当日の大まかな流れでございます。何か変更してほしい所などは御座いますか?」

「まだダンスはできれば避けたいんだけど何とかならない?」

「何ともなりません。こればかりは伝統なので」

「はい」

「大丈夫ですよ、シズト様。私、ダンスも得意なのでしっかりとフォローさせていただきます」

「助かります……」

「パーティーの出席者の中にはシズト様にダンスを申し込まれる方もいるかもしれませんが、シズト様よりも立場が上の方はいらっしゃらないので断って頂いても構いません」

「断るのはそれはそれで気力使いそうだねぇ」


 パーティーの出席者に目を通すとエンジェリア帝国の貴族の他に、優秀な商人や他国からの使者も多数いるようだ。特に多いのは小国家群からの使節団で、そのほとんどが統治者が直々に来ているようだ。


「……有難い事だけど、国のトップの方々がエンジェリア帝国に集まって大丈夫なの?」

「警備は万全です、と言いたいところですが少々懸念点が残るのでそこはエルフの都市国家に協力を要請したいです。小国家群の中には人族以外の王や女王もいますから」

「そうなんだ。警備や護衛に関してはジュリウスと話を詰めてもらってもいい?」

「かしこまりました」

「それじゃあ、ジュリウス後は適当にお願い」

「仰せのままに」

「……これで警備の面は多少は改善されるとして、小国家群の中には戦争を続けている所もそこそこいるんでしょ? 戦争をしている相手のトップと顔を合わせて何か問題は起きない?」

「起きる可能性は高いので誓文書でトラブルを起こさないように約束させるつもりです。ただ、それも万全ではないので気を付けた方が良いでしょう。せっかくパーティーの前後一ヵ月間、すべての場所で休戦状態にしていても今回の件が火種になったら意味がありませんから」

「……ジュリウス、極力問題が起きないような人数を派遣してもらってもいい?」

「仰せのままに」


 ジュリウスはただそれだけ言って頭を垂れた。これである程度大丈夫だ。それでも起きてしまったら……その時の僕に頑張ってもらうしかない。




 その後は結婚式のドレスに対する相談に乗ったり、ドライアドにセレスティナさんのような『お澄まし』をするように伝えてみたり、エンジェリア帝国の最大派閥のトップの人と顔合わせをしたり、いつの間にか一人探検に出ていた褐色肌の子を注意したりといろいろしていたらあっという間に時間が過ぎて日が暮れ始めていた。


「そろそろ帰ろうか」

「そうしましょう。セレスティナ、後の事は任せたわ。緊急の要件や重要度の高い案件はこっちに来て対応するからまた連絡をして頂戴」

「かしこまりました」

「点呼」

「「いち! に!」」

「「さーん、しー」」

「「ご~、ろ~く」」

「れも!」

「うん、全員いるね」


 同じ出身の子が仲良く声を揃えて点呼をしていたけどちゃんと全員いる。

 また勝手に抜け出してご迷惑をかける訳にはいかないからもう一度指差しで確認しつつひょいっと持ち上げて転移陣にのせていく。

 全員のせ、尚且つオクタビアさんと僕も乗り込んだら最終確認はセレスティナさんにお願いした。


「はい、全員います。それでは、またのお越しをお待ちしてます」


 転移陣が起動して一気に視界が変わった。

 目の前には金色のツインドリルがトレードマークのレヴィさんがいた。出迎えるためにわざわざやってきた、というよりは近くで草むしりをしていたら光ったから中断して近くに寄ってきたようだ。


「無事に終わったのですわ?」

「ちょっとトラブルあったけどね。……あと、ダンスの練習をちょっとしないといけなくなったんだよね」

「お付き合いします」

「よろしくお願いします」

「私も相手になるのですわ! いろんな相手と踊れると良いのですわ~」

「別にお嫁さん以外と踊る気なんてないんだけどねぇ」

「なくても踊らなくちゃいけない時も……シズトの立場ならまあ断れるのですわ。ああ、でもシズトの性格的に断り切れない事もあるかもしれないのですわ。だからやっぱりいろんな人と踊れた方が良いのですわ~」


 ……断る練習も含めて頑張ろう。

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