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後日譚396.事なかれ主義者は慎重なだけと言い張る

 初日の出をお嫁さんたちと一緒に見て、世界樹の根元にある祠に初詣し、それからのんびりと家族で過ごした翌日からは親戚へあいさつ回りをする事になった。

 まず最初に会ったのは当然ドラゴニア王国のロイヤルファミリーである。

 僕がどれだけお嫁さんたちを平等に接していようと、外の人たちは正室であるレヴィさんが一番立場が上だと考えている。だからドラゴニア王家よりも先にエミリーの実家に挨拶しに行ったらちょっと面倒な事になるらしい。

 そのため、王侯貴族出身の人たちから順番に新年の挨拶をして回った。一日一親戚。三日ほどで終わった。

 セシリアさんやディアーヌさんの所にはわざわざ来てもらわなくてもいいとの事で後日会いに来るという手紙だけが届いた。

 モニカやランチェッタさん、オクタビアさんのように挨拶をすべき家族を失っている人もいれば、シンシーラのように未だに奴隷になった原因を家族に知られたくないからと里帰りをしない者もいる。パメラやノエルに至っては家族に追い出された過去があるから実家に帰省するという考えがない。

 転移陣や転移門の普及によってお嫁さん全員の義実家に顔を出すのは容易な事になってしまったから時間がかかるのも覚悟していたけれど、今年も三日だけで済んだのは喜ぶべきだろうか、一部の人間に対しては労わるべきかもしれない。

 年始の休み明けの『天気祈願』をサクッと終わらせた僕はそんな事を考えながらレモンちゃんを肩の上に乗っけて、さらに真っ白な服に数人のドライアドを引っ付けたまま歩いていた。現実逃避というやつである。


「れもも~。レモレモれももれも~?」

「そ~そ~。早く戻ってこいって言ってたよ~」

「れもれも」


 レモンちゃんの言葉は同種であれば何を言っているのか分かるらしい。肌が白いドライアドが僕を見上げながら言った言葉にレモンちゃんが同意するように体ごと頷いていた。

 褐色肌のドライアドも「そろそろ戻った方が良いんじゃない?」と話に入ってきたし、小柄で肌の色が僕と似ているドライアドも「覚悟を決めて早く行くでござるよ」とせっついてきた。


「覚悟はもう決めよ? 正式に結婚する事を申し込んだし。ただ、いざ話を詰めるってなると緊張するし、尻込みもしちゃうんだよ」

「れもも」

「人間さんが言ってた通りだね」

「上の子はヘタレって言ってるの?」

「そーだよ~」

「ヘタレでござる」

「慎重なだけですー」


 ただいろいろ悪い方に考えすぎちゃって億劫になりがちだけど、ヘタレではない。と思いたい。

 れもも、れもも言っている子をちょっと静かにさせるために両手で彼女の髪の毛をくしゃくしゃにした。「レモ~~~」という悲鳴のようなものが聞こえたけどスルーして進行方向を変える。


「あ、戻る気になったでござるか?」

「なったでござるよ。っていうか、なんでござる口調?」

「なんかうつったでござる」

「そうでござるか」




「お帰りなさいませ」

「あ、うん。ただいま」


 転移門と転移陣を使ってファマリーの根元に戻ってきたら、オクタビアさんが転移陣の前で待ち構えていた。いや、ドライアドたちが周りにわらわらいたからきっと「そろそろ帰ってくるよ」と言われてここにいたんだろうけど。


「打ち合わせはエンジェリアでするんだっけ?」

「はい。ご足労おかけいたしますが、よろしくお願いします」

「いいよいいよ。あんまり行った事がないからどういう所かも気になってたし。護衛は連れてっても大丈夫なんだよね?」

「もちろんです」

「よかった。それじゃあジュリウス、引き続きよろしくね」


 後ろに振り返って細マッチョのエルフに声を掛けると、彼は静かに「かしこまりました」とだけ言って軽く頭を下げた。


「こっちの準備はもう万端だけど、オクタビアさんも大丈夫?」

「はい、問題ありません」


 ドレスも王冠……帝国だから帝冠? をしっかりと身につけた彼女は自然と近づいて来て僕の腕に腕を絡ませようとした。が、ドライアドたちがわらわらとくっついていて邪魔なようだ。

 退く気がないドライアドと争うつもりがないようで、普通に手を握るだけに留めたオクタビアさんが僕の手を引っ張ってエンジェリアに繋がっている転移陣の方へと向かう。


「それじゃあすぐにエンジェリアに行こうか。急がないと他の子たちが引っ付いて来そうな勢いだからね」

「今日は正装だからですか?」

「だと思う。それにあんまり行った事がないエンジェリアに行くって伝わって興味持ってる子が多いんじゃないかな」


 飛びつく狙いを定めているドライアドたちに逃げるように僕たちは転移陣に乗ってエンジェリアへと移動した。

 移動した先は執務室に直結していたようで、オクタビアさんの侍女以外は誰もいなかった。


「お帰りなさいませ、オクタビア様。そして、ようこそお越しくださいました、シズト様。早速、エンジェリア帝国でのパレードの打ち合わせを行いたいのですが、よろしいでしょうか?」

「問題ないわ」

「よろしくね」


 打ち合わせは別の場所でするようだ。侍女の――確かセレスティナさん――の案内で部屋を後にする。

 ただ、その前に引っ付いているドライアドと、転移する際に紛れ込んだ子たちに「お澄ましでついて来てね」と釘を刺すのだった。

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