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後日譚394.事なかれ主義者は常設しない事にした

 新年最初の行事と言えば何か。前の世界にいた僕だったら『初詣』と答えていただろう。

 ただ、こちらの世界に来て安定した生活を送るようになった僕は『初日の出を見る事』と答えるだろう。

 魔道具『安眠カバー』を使わずに早く起きるのはちょっと大変だけど、起きてしまえば後の行動は早い。

 精霊魔法を使って寝癖を直すのが上手なジューンさんにあちこち跳ねている黒い髪を整えてもらっているとみんなが本館からまばらに出てくる。

 最後にやってきたオクタビアさんは緊張した面持ちだったけど、ランチェッタさんとレヴィさんに任せておけばいいだろう。


「れもぉ」

「眠いんだったら降りたら? 寝ぼけて落ちたらシャレにならないよ?」

「れぇもぉ」


 まだ眠たそうなレモンちゃんの相手をしながらノエルの操縦に任せて上へ上へと僕たちは運ばれていく。

 城壁よりも高くなったところにもちらほらと枝はあるけれど、大きくてしっかりした枝はまだまだ上だ。


「のぼれのぼれ~」

「おいかけろ~」

「追いかけてどうするの?」

「飛び乗るの!」

「危ないんじゃないかなぁ」

「どうかなぁ」

「やって見たら分かるよ~」

「ほらほら手を動かして登って登って!」


 まだ日の出まで時間はあるので薄暗いが、世界樹の幹の方で何人もの声が聞こえてくる。その声の主は夜の闇に同化するような真っ黒な肌と髪の毛の色だけど、頭の上に咲いた花は色とりどりなのでそこにいるのはよく分かった。


「ノエル、飛び乗られると困るから少し離れて浮上してもらっていい?」

「……そうっすね」

「これはこれで楽しいからいいんだけど、今度からは簡易転移陣でも設置して移動するのも考えた方が良いかな?」

「その方が楽できるからボクはそれが良いっす。魔力を無駄に使わなくて済むのも嬉しいっす」

「何度も運んでもらう事になるのは申し訳なく思うけど……年末年始はノルマなしなんだから魔力は有り余るでしょ?」

「魔道具の解析やら実践やらしていたら魔力なんていくらあっても足りないっすよ」

「ふーん……。寝る前に魔力を使い切る生活をノエルも送ってみる?」

「そうっすね。『安眠カバー』はボク用の物があるからできなくはないような気がするっす。……ただ、魔力総量が増えると今度は一日に作ることができる魔道具の量が増えるからきっとノルマが増えるっす」

「あー…………まあ、そうなるだろうね」

「やっぱそうっすよね。それじゃあ意味がないからボクはこれ以上魔力量を増やすつもりはないっす。……これでも魔力量は平均よりも多い方なんっすけどねぇ」

「上には上がいるんだよ」

「シズト様よりも上の人はそうそういない気がするっすけどね」

「魔法が使えないから宝の持ち腐れだけどね」

「加護があるし、魔道具だって使いたい放題じゃないっすか」

「まぁそうなんだけどさぁ。やっぱり魔法が使えるなら使ってみたいんだよ。寝癖を直したり、瞬間移動して移動を楽にしたり」

「そういう事に使おうとするのがシズト様らしいっすね。あ、そろそろ到着するっすよ! 降りる準備をしておくっす」


 同乗者たちにそういうと、ノエルは魔法の絨毯を操作して大きな枝に近づけていつ。東を見るのに最適な方向へと伸びているその枝はとても太く、大きい。足を滑らせて落ちる事はそうそうないだろうけど気を付けないと。

 着陸予定の大きな枝にはずらりと花が並んでいる。先回りしたドライアドたちがこちらをジッとうかがっているようだ。


「飛び乗っちゃだめだよ!」


 釘を刺して見たけれど返事はない。聞こえてないふりだろうか。

 結局ノエルの判断で一度離れて大きな枝よりも高く上昇し、上から着陸する感じになった。


「それじゃあ残りの人たちを連れてくるっす」

「まだ時間があるから安全運転でよろしくね」

「分かってるっす~」


 来た時よりも速い速度で降下していくノエルを見送った後はのんびりといつもよりも近い雲を眺めて過ごした。

 僕の近くでは真っ黒な肌のドライアドたちが枝から身を乗り出すように下を眺めて何やら話をしている様だったけど、僕の目が合ったからか、再びノエルが操縦する魔法の絨毯が上がってくるまで飛び乗る子はいなかった。


「早かったね。急がなくてもよかったのに」

「時間に余裕を持って行動しろってホムラ様たちがうるさかったんすよ」

「…………ホムラ、ユキ、安全が優先だからね?」

「分かってるわ、ご主人様」

「安全を考えた上で出せる最高速度を出すように命じたまでです、マスター」

「エミリーがビビってシンシーラにくっついてたデス! 面白かったデス!」

「アンタと違って私は飛べないのよ!」

「落ちてもキャッチしてあげるデスよ?」

「信用できない気持ちは分かるじゃん」

「なぁ、ドライアドたちが勝手に使ってるけどいいのか?」

「まあ、大丈夫なんじゃない? ノエルにずっと往復してもらうのも大変だろうし、降りる時にも使って遊んでたら転移陣を置けばいいし」

「そうしたらいつでもここまで登って来れるようになっちゃうから取り扱いには気を付けないといけないわね。子どもたちの行動範囲はどんどん広くなってるし」


 なるほど、確かに子どもたちが勝手に使ってここに来たら危ないか。

 侵入者はドライアドたちが捕まえてくれるだろうけど、子どもたちには手を出さないように伝えてるし。

 もし使っても回収するようにしよう。

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