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後日譚392.第一王子は覚悟を決めた

 統治者ともなると年末年始だろうと仕事はある。というよりも、異世界転移者たちが伝えた年末年始休暇という概念は一部でしか広がっておらず、冬の寒さが厳しい所でない限りは休暇はとらずにいつも通りの日常を過ごしていた。

 四季の変化が少なく、無数のダンジョンを抱えているドラゴニアであれば猶更だった。

 そんな国の統治者であれば当然、年末だろうと年始だろうと仕事は山のようにある。


「もう王位継承するからお前の好きなようにしていいんじゃないか?」

「父上、孫と関わりたいからとかいう理由で軽率に王位継承してもらっては困ります」


 王冠を被った中年男性の発言に眉をしかめたのはこの国の第一王子であるガント・フォン・ドラゴニアである。

 気の強そうな顔立ちのその青年は、顔立ちに反して両親のために頑張ろうという気持ちのある優しい青年だ。だがそれでも、年末年始に行われる『忘年会』やら『新年会』やらの準備が忙しいこの時期に急に任されても困るから父親であるリヴァイ・フォン・ドラゴニアに苦言を呈していた。


「全く持ってその通りだわ。それはそうとガント。私が対応する予定の人を少しそっちに任せてもいいかしら?」

「母上、孫を一目見たいからとこちらに面会希望者を押し付けようとするのはやめてください」

「今後何かと関わる機会が増えるし、丁度いいと思ったのだけれど」

「それはそうなのですが……。仮に母上の時間が空いたとしても本日は転移陣は閉じられているのでシズトの所へはいけませんよ。大晦日と元日は家族だけで過ごすと言っていたじゃないですか」

「そうだったかしら?」

「そうでしたよ。忘れたふりして竜騎士に頼んでファマリアへ向かってはいけませんからね。忠告しましたからね。ドライアドにぐるぐる巻きにされても助けませんから」

「……ああ、そういえば彼女たちがいたわね。じゃあ諦めるしかないか」

「シズトに言われた段階で諦めてください。あんまり向こうに行きすぎると出禁にされますよ」

「分かってるわよ。だから最近は一カ月に一回に抑えているじゃない。むしろ国王陛下なのに毎週向こうに行っている人を諫めるべきじゃないかしら?」

「諫めて止まるような人じゃないじゃないですか」

「……それもそうね」


 ガントとパールの視線が我関せずと書類に目を通している国王へと向けられる。

 四十を過ぎているとは思えない程逞しい体つきのその国王は、外側にカールしている金色の髪を弄りながら二人の視線をスルーしていた。それだけではなく「手が止まっているぞ」と二人を注意した。

 実際、手は止まっていたのだが、釈然としない気持ちになるガントだった。




 大晦日の夜まで王城内の一番広い部屋で行われる社交パーティーに出席していたガントだったが、いつも通り日が昇る前に目が覚めると着替えを手早く済ませた。

 自室から出るとその足は執務室へと向かう。朝から仕事をするためだ。


「鍛錬の時間をどこかで設けなければなまってしまうな」


 そんな事を独白しつつ、足を止めなかった彼だったが、執務室を開けたところで足を止めた。

 両親が既に執務室にいる事は常日頃から行っている魔力探知で知っていたが、仲睦まじい様子で窓に並んで外を見ているとは思わなかった。

 執務室の扉が開かれた事にも気づいた様子もなく、二人で何やら話をしている。


「もうすぐ日が昇る時間だな」

「そうね。二人で日の出を見るなんていつぶりかしら?」

「俺の記憶が確かであれば、各地のダンジョンから一斉に魔物があふれ出した時の事後処理に追われた時だった気がするな」

「あの時は各地の視察で書類が溜まってたから付き合わされたんだったかしら」

「あの時以来、書類仕事は殆ど付き合ってくれなくなったな」

「昼間は手伝ってるじゃない。寝不足は美容の大敵なのよ?」


 扉を閉めて見なかった事にするべきだろうか。

 父親が母親の腰を抱いている様子を何とも言えない表情でガントは見ていた。

 だが、扉を閉めた音で何かに気付くかもしれない。いや、開けた音で気づいていない時点で気づかれない可能性は高いのだが――。

 そんな事を考えている間にも時間は刻一刻と過ぎて行き、太陽が顔を出した。


「……今頃は育生も日の出を見ているのか。そう考えると見慣れた日の出もなにかこう、特別な物のように感じるな」

「そうですね。育生と一緒に見る事が出来たらもっと特別な物に感じられたんでしょうけど……」

「ドライアドたちにぐるぐる巻きにされる姿は見られたくないから諦めるしかないだろう。……ガントに子どもが生まれたら孫と一緒にいろんなことができるんじゃないか?」

「それよりもまずは結婚でしょう。お相手は見繕ったのかしら」

「まだだ。気にしなくてもいいと言っても外見は気になるみたいだからな。相手を選んで結婚したらそのまま即位させるつもりだったが、それを察してかなかなか選ばん」

「金色の髪で産んであげられたらそんな悩みとも無縁だったのに……」


 ガントはそっと音が鳴らないように気を付けつつ扉を閉めた。

 そして踵を返すと来た道を戻っていく。


「…………いい加減、相手を決めるべきか」


 母親をこれ以上不必要に悲しい思いをさせないためにもそうしなければ――。

 そんな事を考えながら、ガントは体を動かして思考を切り替えようと訓練場へと向かうのだった。

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