後日譚391.事なかれ主義者は小さい者に甘い
お年玉を賭けた麻雀大会は、案の定パメラが最下位になって幕を閉じた。幸いな事は最低金額は貰える事だろうか?
日が暮れ始めたところで麻雀を止めて片づけをしている所に、一足先に屋敷へと戻っていたエミリーが戻ってきた。
「シズト様、お蕎麦が出来ました。少し早いですが、お食べになられますか?」
「そうだね。今日は早く寝ないといけないからね」
「早く寝なくても起こしてあげますよ、マスター」
「なかなか起きなかったら運んであげるわ、ご主人様」
「気持ちだけ受け取っておくよ」
「シズト様ぁ、明日の朝からまた勝負するデスよぉ」
泣きべそをかいているパメラが僕の体に纏わりついてきた。
少ない元手で大きく稼がなければ、という必死さが伝わってくる。
「一文無しになっちゃうからやめておいた方が良いよ」
「そんな事ないデス! 今回も途中までは良い調子だったデス。だから明日はもっとよくなる気がするデス!」
「よく分からん理屈だなぁ」
「れもー」
「あ、レモンちゃん。今日はちょっと早いけどここで解散だからね」
「レモ!?」
「明日朝早いから全部前倒しで行動しなくちゃいけないんだよ」
「レモモ~~~」
わさわさと髪の毛を動かして抗議してくるレモンちゃんは放っておいて、シンシーラにベリッと剥がされたパメラが屋敷の方へと引き摺られていくのを見送った。地面の上で駄々を捏ねたから先に丸洗いするんだろう。可哀想だから皆のお年玉を増額して対応しようかな。
「……まあ、後で決めればいいか。年越し蕎麦はパメラがお風呂から上がってからにしようかな」
「かしこまりました」
そうと決まれば少し時間に余裕ができる。
荒ぶるレモンちゃんを鎮めるためにはもう少しだけ彼女を肩の上に乗っけて行動した方が良いだろう。
エミリーと別れて屋敷に戻り、トイレによって手を洗ってから二階へと向かう。
二階のほとんどの部屋が子どもたちに使われていて、乳母の方々が慌ただしく出入りしている部屋もあった。
その部屋の中をレモンちゃんと一緒に覗き込むと、乳母の方と目が合った。
「申し訳ありません。シア様がまた熱を出してしまいまして……」
「今回はだいぶ期間が空いたけど、症状はどう?」
「熱だけなので比較的マシだと思いますが、念のため各種ポーションも用意してあります」
「そっか。必要だったらエリクサーも使っていいからね」
「かしこまりました。ただ、自分の力で治せる範囲の物であれば使わない方が良いです。シア様にはお辛い思いをさせて心苦しいのですが、もう少し様子を見ようと思います」
「そこら辺の判断は任せるよ。健斗と大樹は?」
「念のため他の部屋に隔離してます。今は……どうやら和室で過ごされているようですね」
「そうなんだ。教えてくれてありがと」
今は寝苦しそうだけど、眠っている紫亜を起こすわけにはいかない。部屋には入らずにそのまま和室の方へと向かう。
「……あ、ほんとに二人ともいる。やっぱり。魔力探知って便利そうだよね。なんとかして使えないかなぁ」
「れも」
「今無理って言った?」
「…………」
被害妄想だろうか? それにしては返事がない。
ちゃんといつもよりも早くお別れする事は麻雀しながら伝えたんだけどなぁ。
……僕より熱中してたから耳に入ってなかったのかもしれない。事前にわかってる事は一番最初に伝えるようにしよう。
和室で時間つぶし兼レモンちゃんのご機嫌取りをしたけれどレモンちゃんは日が暮れるまでは退こうとはしなかった。まあ、今までもご飯を食べる時はだいたい一緒にいたので今更感はある。問題はご飯を食べてすぐにお風呂に入ろうと思っていたけど、レモンちゃんを引っ付けたまま脱衣所には行けない事だ。
「強硬手段を取りますか、マスター?」
「危ないからはさみはしまってね、ホムラ」
「れーもれーも!」
「切ってもすぐに伸びるから無駄よ。それよりも先に薬で眠らせろ、って言う事よね、ご主人様?」
「いや、全然違うからね。切るなって話をしてるんだよ」
「れ、れーもれーも!!」
「ほら、怖がらせるから髪の毛が複雑に絡み合っちゃったじゃん」
「根元から切れば問題ないです、マスター」
「その前に眠らせるのが先よ。薬がダメなら安眠カバーを使えばいいのかしら、ご主人様?」
「それはこういう時に使うための物じゃないから! モニカ、僕のお風呂は一番最後にするから皆に先に入っておくように伝えて貰える?」
「かしこまりました」
「それじゃあ日が暮れるまでだからね、レモンちゃん」
とりあえずこの場にとどまっていると本日のお世話係の二人にレモンちゃんが何をされるか分かった物じゃないから退散しよう。