後日譚388.事なかれ主義者は次は頼まない事にした
「こんな大役、あの人に話をする前にまずは私に声をかけるべきだったんじゃないかしら?」
袋一杯に入ったプレゼントを配り終えた偽物サンタ――じゃなくて、パールさんが眉間に皺を寄せて僕を見る。美人が怖い顔をすると余計に怖く感じるのはなぜだろう、なんて事を考えつつも「でも、サンタと言えば男性なので……」と反論を試みたけれど、過去の勇者がその反論を封じていた。
「勇者様たちの国ではこの格好をする女性も大勢いるんでしょ? だったら私が配っても問題ないはずだわ」
勇者たちめ。余計な事しか伝えてない。っていうか、それを伝えた勇者は願望が入ってたりしないか?
だが、ここでもう少市販論をしなければ来年以降も勝手に代わりのサンタとしてやってくる可能性が高い。それで困る事は思いつかないけれど、それでも言うべき事は言おう。
「大勢ではないと思うし、子どもにプレゼントを配るのはやっぱり男性が仮装したサンタなので……」
めげずに再度反論したらパールさんが眉をピクッと動かした。
「……それだとあの人ばかりサンタとしてここに来る事になるじゃない。不公平じゃないかしら?」
「そう言われても……。元々はそういう争いになる事も想定して動いていたんですよ? ガントさんに秘密裏にお願いしたんですけど『後が怖いから』と断られましたし、ラグナさんにお願いしたんです。ただ、リヴァイさんに自慢したらしくて、そこから王命によって役を代わる事になったと連絡があったんです」
「王命の無駄遣いね」
「全く持ってその通りだと思います。………? なにかあったのかな?」
それまでジーッとこちらの様子を窓に張り付いてみていたドライアドたちが一斉に動いて姿を消した。
不思議に思って外の様子を見ていると、少し後に来客を告げるベルが鳴り響いた。
夜遅くに来客なんて誰なんだろう、と普通だったら思う所だけど、今回は心当たりがある。
他の人に対応をお願いしても良かったんだけど、面倒事になりそうな予感がしたので僕が出る事にした。
「モニカは千与と一緒にいてあげたら?」
「いえ、新しく貰った人形で楽しく遊んでるようなので必要ないでしょう。それよりも、来客対応は私の仕事ですから、シズト様こそ残って子どもたちと交流してはいかがですか?」
「そうしたいのは山々なんだけどねぇ。今回の来客は多分あの人だから僕が対応した方が気楽でしょ?」
「…………」
沈黙は肯定、ってどこかで聞いた事があるような気がする。
そんなどうでもいい事を考えながらモニカと一緒に廊下を歩き、正面玄関に辿り着いた。再び来客を報せるベルが鳴る。随分とせっかちな来客のようだ。ナンデダロナー。
「シズト様、開けてもよろしいですか?」
「うん、まあ、いいんじゃない?」
どこかに潜んでいる世界樹の番人たちや夜間警備を任されている真っ黒な肌のドライアドたちが止めていないという事は知り合いという事だしな。
なんて事を考えながらモニカが開いてくれた扉を見ていると、扉の向こう側にいた人物たちと目が合った。
「遅くなってすまんな。服とプレゼントの手配を再度するのに時間がかかったんだ。……まだパーティーは続いているな?」
「続いてるけど――」
「人間さん、この人は入れて良いの?」
「さっきの人の偽物?」
「どうなんだろうねー」
「おんなじ目印だもんね―」
「でもこっちは乗り物に乗ってきてないよ?」
「「「確かに~」」」
「待て待て待て! 俺は正真正銘本物のサンタだ! どっちかっていうと、さっき来た方が偽物のサンタだ! わかったらじりじりと包囲を狭めるんじゃない!」
「でも乗り物に乗ってきてないしなぁ」
「小さなドラゴンも連れてないしぃ」
「やっぱり通しちゃダメだったんじゃないかなぁ」
「「「そうかも~」」」
「そのサンタは女だっただろ? 本物のサンタは男だ!」
「男とか女とかよく分かんないんだよねー」
「「「ね~~~」」」
じりじりと包囲を狭めるドライアドたちに囲まれたリヴァイさんに気付かれないように、モニカが僕の耳に口を近づけてきた。
「シズト様、助けなくてもよろしいんですか?」
「んー、悩む」
「悩むな! 助けろ!」
結局、サンタに仮装したリヴァイさんもパーティーに参加してもらう事にした。
リヴァイさんはちゃんとお腹に詰め物もして、真っ白なつけ髭も着けているのでサンタっぽい見た目をしていたので子どもたちの受けもよかった。
サンタが二人になる事に対して懸念事項だった蘭加は、パーティー会場が広かった事や、たくさんのぬいぐるみで視界が遮る事が出来た事、それから成れていない人物が二人しかいなかった事もあり、部屋の端っこの方で楽しく過ごせたようだ。今後の参考にしようと思う。
……ただ、今後は今回のような事が起きるのは面倒だから、サンタ役は改めて別の人にお願いしておこう。