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後日譚384.事なかれ主義者は実況した

 望愛の誕生日を迎えた。歌羽の時のように緊急の仕事は特に入る事もなく、ノエルも無事に今日の分のノルマまでしっかりとこなす事が出来たようだ。

 天気は程よく雲が青い空に浮かんでいるけれど、雨が降る気配はない。例の如く外で食事会を開くために『天気祈願』を使って気温も調整したので寒くもない。まあ、世界樹の周囲は世界樹の影響で程よい気温になるからしなくても良かったかもしれないけど。

 誕生日ケーキに差した蝋燭を息で吹き消した後は各々自由に食事をしながらおしゃべりに興じていた。

 主役の母親であるノエルも流石に魔道具は常に手に持つ事はせず、時折思い出したかのようにそれを手に取って眺めるだけで我慢している様だ。

 ノエルと僕の間に座っている望愛は眠たそうにうつらうつらしているが、それでももぐもぐと好物の果物を咀嚼している。

 望愛は眠るのが好きなのかと思うほど活発さとは程遠い男の子だけど、寝る子は育つというしあまり気にしないようにしている。……ご飯を食べている時ですらいきなり眠り始めるから病気かなにかかと思って、飲み物にポーションとかを時折混ぜ込んでいるけど特になんともないから病気ではないはずだ。


「ノアくんが本格的に眠っちゃう前にぃ、プレゼントを渡したらどうでしょうかぁ?」


 ノエルの隣で彼女に話を振っていたジューンさんが僕の視線に気づいた様子で問いかけてきた。

 確かにいつ机にごつんとおでこをぶつけてもおかしくない状況だ。早めにやるべき事を終わらせた方が良いだろう、と手近に置いてあったベルを鳴らした。


「みんな食事の途中だけど、一旦やめてプレゼントの受け渡しをしてもいいかな? 望愛が今にも眠りそうだから……」

「大丈夫ですわ~」

「問題ないわよ」

「喜んでもらえるか緊張しますね」


 レヴィさんとランチェッタさん、それからオクタビアさんは問題ないようだ。一緒の机を囲んでいるセシリアさんとディアーヌさん、それからモニカも静かに頷いた。オクタビアさんが馴染めているようで良かったけど、王侯貴族出身でグループが形成されつつあるのは気を付けておいた方が良いかな。


「早く渡して一緒に遊ぶデスよ!」

「眠気が勝って無理かもしれないじゃん」

「……眠りながらでも一緒に遊べるものの方が良かったデスかね?」

「そんなおもちゃ、ないんじゃないかしら?」


 呆れた表情でパメラを見るエミリーとシンシーラも問題なさそうだ。

 早食いのラオさん、ルウさんは当然問題なくて、早食いではないけど大食いのドーラさんは食事の途中だったけど片手でオッケーサインをしたので大丈夫だろう。

 最後にノエルを見ると、彼女も「いいんじゃないっすか?」と魔道具を机の上に置いた。 

 全員問題がないのなら、と今にも眠りそうな望愛を抱っこしてプレゼントを受け取る場所へと移動させる。

 ……立ったまま寝そうだったので抱っこしたままプレゼントの受け渡しをしたけど、なんとかお嫁さんたちの分は起きている間に渡す事が出来た。

 ドライアドたちの抗議の声が周りで聞こえても望愛は我関せず、と言った感じですやすやと眠り続けるのだった。




 望愛の誕生日から三日後、ファマリアに雪を降らせてみた。子どもたちに雪を見せたかったというのもあるけれど、例のごとく勇者が広めたクリスマスを雪仕様にしてみたかったのもある。いわゆるホワイトクリスマスだ。一日早いけど、イヴという事でまあいいだろう。

 雪が降っても世界樹には影響がないそうだけど、ドライアドやレヴィさんが丹精込めて育てている作物には影響が出てしまうから世界樹の根元周辺には降らせていない。局地的な雪を降らせるために結構な魔力を持って行かれた。

 ただ、そのおかげでファマリアは雪化粧されている。積雪も十分で、そこかしこに雪だるまが作られていた。

 雪景色を見たり、遊んだりするために子どもたちとお嫁さんたち全員を連れて外に出て見たけれど、子どもたちの反応は上々のようだ。

 特に真はふわふわと降ってくる雪を捕まえようと両手をパチンと何度も合わせているが、手を開く度に首を傾げていた。とてもかわいい。


「ほら、蘭加も見てごらん。雪だるまがたくさん並んでるよ」

「…………」

「ほらほら、お母さんがとっても大きな雪玉を作ってるよ」

「…………」


 他の子も各々楽しんでいる様だったけど、蘭加は僕の体に引っ付いて顔を胸に埋めて回りを見ようとしない。人見知りが激しい彼女にはたとえ町の子たちしかいない内壁の内側でもハードルが高いようだ。

 ラオさんたちの故郷では毎日連れ回したら慣れてきたそうだけど、ファマリアでもそうした方が良いのかな。


「今日は諦めるしかねぇな。それより、どこに向かってんだ?」


 隣でゴロゴロと大きな雪玉を転がしていたラオさんが尋ねてきた。いつものホットパンツにタンクトップの上からお揃いの魔道具『適温コート』を羽織っていた。ただ、手はしっかりと防寒していて手袋をつけている。


「遊具のない公園だよ。下見をしたけど、誰も通ってすらいなかったからそこで遊ぼうかなって」

「じゃあそこまでこれ転がしてりゃいいのか」

「そうなるね」


 めちゃくちゃ大きな雪だるまになりそうだけど、まあラオさんとルウさんならきっと大丈夫だろう。

 僕はとりあえず公園に着くまで蘭加に町の様子を語り掛け続けるのだった。

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