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後日譚379.連れ戻されし神は運ばれがち

 邪神あらため、まじないの神チャムは今日も今日とて朝から最高神の手伝いをしていた。下界に勝手に降りて好き勝手振舞い、下界を混乱に陥れた罰というのもあるが、目の届くところに置いておいて、何かあった時にすぐに対処できるようにと最高神が考えているのだろう、とチャムは察していた。

 また下界に降りるつもりはないが、周りの神はそう思っていない者も一定数いるし、せっかく籠を授けた相手がチャムのせいでなくなった者も多くいたため恨みも買っていた。

 トラブルを避けるためにもチャムは大人しく最高神の言われたとおり最高神の手伝いをする時以外は引き籠っていようとしていた。

 だが、それを許さない者たちがいた。

 日課の手伝いが終わり、最高神と共に茶を啜っているチャムの元にその内の一人がやってきた。


「失礼するよ」

「失礼するなら帰って欲しいなぁ」

「何を言ってんだいアンタは。ここはアンタの場所じゃないだろ?」


 呆れた目をチャムに向けるのは占いの神ディヴィネ。黒いロングワンピースの上にフード付きのマントを羽織った女神で、古くから中級神として下界を見守っている女神だ。

 そんな女神を見るチャムは嫌そうな表情を隠そうともしない。


「最高神様、今日の分はもう終わってますか?」

「ああ、終わっているとも。ただのんびりとお茶していただけだから連れて行っても構わんよ」

「ありがとうございます」

「僕の意見は?」

「アンタの意見をなんでアタシが聞かなくちゃならないんだい。ほら、うだうだ言ってないで行くよ」


 むんずとチャムの尻尾を掴むと、その細腕からは想像もできない力でずるずると彼を引っ張っていく。

 抵抗するつもりはないが協力するつもりもないチャムが脱力した状態でずるずると引き摺られていくのを最高神は正面玄関まで見送るのだった。




 チャムが引き摺られていった先はディヴィネの領域にある建物の一室だった。

 その部屋は分厚いカーテンで閉め切られ、室内を照らすキャンドルの火がゆらゆらと照らすだけだ。

 キャンドルから発せられる独特の香りに顔をしかめつつ、ディヴィネの相手をしていたチャムは、盛大にため息を吐いた。


「いつも言ってんだけどさ、なんかあってから対応すればいいんじゃないの?」

「本当にそう思ってんのかい? 何かあってからじゃ手遅れな時があるってのはアンタが一番よく知ってると思ったけどねぇ」


 ディヴィネの視線がチャムの下半身に向かった。気づいた時には手遅れで異業の存在へと変わってしまった過去があるチャムはそれでも定期的に部屋に呼び出されては未来を視るために占いの相手をするのが嫌だった。

 それでも付き合っているのは自分に何かあった時に一番迷惑をかけるであろう神が彼女だからだ。


(それに、実況させられるよりかはましだしね)


 心の中で独白したチャムは肩を竦めた。


「まあ、そうだね。でも、視た通り問題ないのは分かったでしょ? 最近は夜になっても存在が薄くなるなんてことはないし。むしろ、神力が集まるペースが異常だから位が上がるのも時間の問題だよ」

「喜ばしい事じゃないか」

「どこが? 自分で言うのも何だけど、下界で好き勝手した奴がまたどんどん位をあげていったらどうなるのか、未来を見通す力がなく立って分かるよ」

「そうかい? アタシには見えないけどね」

「節穴なんじゃないの?」

「そんな事ないさ。ちょっかいをかけようとする輩はいるかもしれないけどね、今の生活を続けるのなら下手に手を出そうとする者はいないだろうさ。ただまあ、どっちがアンタにとって楽になるかは分からないけどね」

「どういう意味?」

「分かってるだろう? あの三柱がアンタの周りを固めているって事は。優しい子たちじゃないか。おや、噂をすれば影っていうやつだね」


 自分の領域に誰かが入ってきた事を感じ取ったディヴィネが扉の方を見た。

 チャムは今のうちに逃げようか、なんて視線を彷徨わせたがこの部屋の窓ははめ殺しになっている事を知っていた。逃走する場所は一つしかない出入口くらいだ。


「判断が遅かったねぇ」


 廊下に出れば開いている窓はいくつでもあっただろう。だが、ディヴィネがいう通り、遅かった。

 防音が施されている部屋のはずなのに、チャムは多数の足音が勢いよく部屋に向かっているような聞こえる気がした。そして思い切り開かれる扉。廊下からの光が室内を照らす。

 後ずさりしたチャムの腹部めがけて勢いよく突っ込んだのは焦げ茶色の髪の小柄な影。


「ぐえっ!」

「やっと見つけた! 最高神様の所から勝手に動いちゃダメってあれだけ言ってるでしょ!」


 チャムの体を逃がさないようにがっちりホールドしたのは加工の神プロスだ。頬を膨らませて不満を露わにしているプロスを宥めたのはエントではなくディヴィネだった。


「いつもの定期確認をしてたんだよ。申し訳ないね」

「そうなの? それならまあ、仕方ないか」

「ディヴィネ様と一緒なら安全だもんね……?」


 止めようと近づいてきていたエントも話に加わったが、ファマはボーッとキャンドルの火を眺めている。


「もう確認は終わったのかな……?」

「ああ。またしばらくの間は今のところ大丈夫そうだよ」

「それならよかったね……?」

「じゃあもう帰れるね! ほらほら、お家に帰るよ~」

「はぁ。面倒臭い」


 チャムは再び脱力してされるがままになった。

 プロスだけでも引っ張る事は可能だったが、プロス、エント、ファマの三柱は仲良く分担してチャムを引き摺らないように気を付けながら部屋を後にした。

 見送りについてきたディヴィネの視線に気づく事なく、賑やかにチャムたちは自分たちの領域へ帰っていくのだった。

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