後日譚378.生育の神は活きが良い人を見つけたい
シズトに加護を授けた神の中でも最年長だったファマは、やっとの事で中級神になったのだが、前回の失敗から加護を授ける者を慎重に吟味していた。吟味しすぎていて加護を授ける神力が溜まっているのに未だ新しく加護を授けていないくらいだ。
「や、やっぱり『こすぱ』を考えるのなら長命種が良い気がするんだなぁ」
「じゃあエルフに加護を授けるんですか?」
大きなファマの体に纏わりついていた下級神の一人が問いかけた。するとファマは渋い顔をした。
「え、エルフには当分授けないんだなぁ。し、失敗から学ぶんだなぁ」
エルフに加護を授け続けた時の間違いをしっかりと認識していたファマはしばらくの間はエルフに加護を授けるつもりがなかった。たとえ、どの種族よりも熱心に祈りを捧げていたとしても、だ。
ファマたちの目の前には他の二柱よりも少し大きめの水晶玉がクッションの上に置かれていた。ファマは他の二柱よりもはるかに大きく、身長は二メートルに届きそうなほど大きくなっていた。横にも大きくなっているのでファマやプロスが使っている水晶玉だと小さく感じてしまうから少し大きめの物を使っていた。
ファマは問いかけてきた下級神から水晶玉に視線を戻す。映し出された場所は教会で、座り切れない数の信徒が神父の話を聞いていた。
『我々の先祖は大きな過ちを犯しました。その過ちは我らエルフという種族に対していつ神罰が下されていてもおかしくなかったものです。……いえ、実際神罰は下されていたのでしょう。加護の剝奪という罰が』
「べ、別に罰のつもりじゃなかったんだな」
ファマの真意はともあれ、彼の独白は神父の耳には当然届かない。
『それでも前任の世界樹の使徒たちは過ちを認めず、結果として滅ぶ国も出てくる事態になりました。それでも他者を呪う事しかしなかった愚か者はいましたが、そんな者たちにすら真の世界樹の使徒であるシズト様は手を差し伸べてくださったのです。そのおかげで私たちはこうして五体満足で贖罪の機会を頂けたのです』
「……話が長いから候補探しでもするんだな」
いつもと変わらない始まりだったので今後の話の展開も容易に想像できたファマは教会内で真剣に話を聞いている者たちを水晶で映して回った。
エルフ、エルフ、またエルフ。どこまでいってもエルフばかり。座って見ているのも、立ち見をしているのもエルフしかいない。窓から覗き込もうとしているのもエルフだけ――いや、ドライアドもいた。だがファマはドライアドを見る事もなく水晶玉を操作した。
どれだけ隈なく探してもエルフしかいない。ファマリアにある生育神の教会の課題点の一つだった。過去の過ちを自戒し、信仰心の篤いエルフが大量に押し寄せる事でいつの時間もエルフに占拠されているかのような有様だ。
この状況もその内改善しなければいけない、と思いつつファマは教会で探すのを諦めた。神力の消費が激しくなるが、以前と比べるとけちけちする必要もないので水晶玉を操作して教会の外を映した。
「いろんな人がいるね」
「どの人に加護を授けるんですか?」
「町の誰かとか?」
ファマの大きな体によじ登ったりくっついたりしていた子たちがあーでもないこーでもないと推測を話し始めた。
「この前もう一人の加護を授けた人を見てた時にシズトっていう人間に近しい人が良いって言ってたよ? ね、ファマ様?」
「た、確かに言ったんだなぁ。そ、それも考えているからこうして町を見ているんだなぁ」
シズトの身内だと近すぎるが、ギュスタンのように他国の人間だと加護を授けた人物が問題なくても周りが陰謀を企て始める事もある。それを目の当たりにしたファマは、四人目はシズトに近いが身内じゃない人物に授ける事にしていた。神力の消費量は痛いが、信者同士で争いを避けるためならば仕方がない。
通りを見れば長命種という条件を省けば至る所に候補者はいる。町で暮らしている者の半数ほどがシズトの奴隷なのだから当然だ。
「女性が良いんじゃない? 今までの三人は全員男なんでしょ?」
「どうなんだろうねー。シズトって人のお嫁さんとかにされるんじゃない?」
「それだと身内になっちゃうからやっぱ男性?」
「でも女性の方が長生きしやすいって最高神様が言ってたよー」
「子孫を残すのは男性の方が多いじゃん」
「「「たしかに~」」」
話を聞くだけにしていたファマも声には出さないがその通りだと思ったので最初からそのつもりだったと装いつつも町の様子を見る。候補者が半分以上減った。ファマリアの男女比の格差は深刻である。
だがそんな問題は神々には関係ない。
「ちょ、長命種が無理なら少しでも若い人を選ぶんだなぁ。で、でも若すぎても言う事を聞いてくれないからそこそこ育ってる者にするんだなぁ」
シズトの子どもで言う事を聞いてくれない事を十分すぎるほど学んだファマは、後半部分を思い出したかのようにいうと元気で長生きしそうな若い男を下級神たちと一緒に熱心に探すのだった。