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後日譚375.事なかれ主義者は夜遅くまで付き合った

 商人がオクタビアさんのもとに持ってきた物の話をしている間に体が洗い終わったので、お風呂に浸かる事にした。

 普段オクタビアさんが入っている湯船に入ろうと思ったので質問したら「最近は泡風呂に入ってます」との事だったので肩を並べて泡風呂に入った。もこもこの泡がお互いの首から下を隠す子のお風呂はぬるめのお湯なのでのんびりと長風呂しても問題ない。


「シズト様は今日は何をされていたんですか?」

「いつも通りの日々だったよ。午前中はオールダムに行っていい感じの天気が続くようにお祈りをして回ったんだけど、オールダムから護衛として派遣された陽太の惚気話が鬱陶しくてねぇ」

「シズト様はしなかったんですか? 惚気話」

「うーん……そういう事を話すような間柄とは思えないというか……」


 勇者三人組の中で陽太は他の二人と違って接点が本当に少ない。

 明のように向こうからこっちと関わろうとする努力もないので関係性はこっちの世界に来てから薄くなるばかりだ。

 陽太は姫花や明に話をしたいんだろうけど、タルガリア大陸には転移門が通じてないから気軽にも会えないだろうしなぁ。


「そうなんですね。……惚気話はどの様な話だったんですか?」

「んー……女性相手にいうのは憚られる内容だったかな」


 顔も知らない陽太のお嫁さんと彼の夜に限らない営みについて延々と聞かされるのは苦痛だったので途中から話を聞くのをやめて子どもたちのプレゼントについて思案する方向にシフトしたけど問題ないだろう。大事な話だったら同行していたジュリウスが覚えているはずだし。


「…………オールダムはどういう状況でしたか? 邪神騒動で国が滅んだとお聞きしていますが……」

「いい感じに復興が進んでいたよ。周辺諸国との関係性もある程度落ち着いて来たからエルフからの軍事援助も数年したらやる必要もなくなるんじゃないかな。特産品と呼べるような物はまだできていないみたいだけど、中継ぎ貿易で十分経済も回るだろうからそっちの方は支援はもうしていないみたい」

「そうなんですね。……エンジェリアも特産品と呼べるような物がないので参考にしたかったんですけど、中継ぎ貿易はあまり期待できないですね」


 ああ、転移門のせいですね、分かります。

 以前までは南の商人たちがドラゴニアやユグドラシルを目指すためにエンジェリアを縦断していたようだけど、転移門の影響で途中の街に寄る事がなくなってしまった。

 それは他の国でも同様で、経済に大きな影響が出ていると言ってた気がする。リヴァイさんは「ダンジョンがあるから問題ない」って言ってたけど、他の国は居住地の近くにダンジョンが必ずあるわけじゃないし。

 責任を感じる必要はないと何度も言われているけれど、こうして話に出る度に申し訳ない事をしたな、という気持ちもむくむくと湧いて来る。

 やっぱり何かしらの補填やら対応を考えた方が良いのかな、なんて事を腕組しながら考えているとオクタビアさんが「泡で何を作りますか?」と聞いてきた。

 彼女の小さな両手の中には泡がこんもりとしている。


「……え?」

「ですから、泡で何を作りますか?」

「いや、別に何も作るつもりはなかったけど……」

「ドーラやパメラから教えてもらったのでいろいろと作れますよ。この後入ってくるドーラのためにも何かしら作っておいておきましょう」

「…………分かったよ。じゃあ、作ろうか」


 唐突だなぁ、なんて事を思いつつも気持ちが萎えるような事を考えていたのでオクタビアさんの提案に乗る事にした。

 作るのであれば何であれしっかりとしたものを作りたい。

 オクタビアさんとは夜は別々で寝るし、時間はたっぷりとある。

 そんな事を思いながら一先ず泡を増産するために魔法陣に魔力を込めるのだった。




「あと少しだったのに、残念です」

「残ってても良かったんだよ?」

「いえ、今日はシズト様と一緒に過ごせる日なので」

「……寝室は一緒じゃないからね?」

「分かってますよ」


 泡の傑作を作っていたらお風呂に入りたかった人たちに「流石に長すぎる」と怒られたので僕たちはそれぞれ寝間着に着替えて脱衣所を後にしていた。

 そのまま三階で分かれておしまいだと思っていたけれど、オクタビアさんが「もう少しお話しませんか?」と談話室の前で立ち止まったのでそこで話をしている状況だ。

 話題はもちろん、しっかりと時間を掛けて作った泡のアートの事ばかりだったけれど、ふとオクタビアさんが何かに気付いた様子で顔をあげた。

 彼女の視線を王都、窓に張り付いてこちらを見ている目と目が合った。

 真っ黒な肌は夜の闇に同化しそうだけど、部屋の明かりに照らされているから見えなくはないし、頭の上に咲いている花が良く目立つから見失う事もない。そんなドライアドたちが魔道具の明かりに集まってきているのか、髪の毛を器用に使って窓に張り付いてこちらを見ている。


「そういえば、今日、ドライアドがエンジェリアに来てました」

「そうなんだ。また探検でもしてたのかな」

「そうかもしれません。あんな風に窓から謁見の間様子を見ていて、ちょっと騒ぎになってしまいました」

「なんかごめん。お城にはいかないように言えば聞いてくれるだろうし明日にでも伝えておくよ」

「あ、いえ、大丈夫です。中に招き入れて『お澄ましでいてください』って言ったら大人しくしててくれたので」


 中に招き入れちゃったのか。……今後は入っても大丈夫な場所、って認識してそうだけど大丈夫なのかな心配だけど、オクタビアさんはドライアドに城内の菜園の手伝いをしてもらえないか悩んでいるし余計な指示は出さない方が良いか。

 そんな事を考えながらオクタビアさんの話を聞いたり、子どもたちのプレゼントの候補の話をしたりなどしていると夜が更けていき、結局今日も日が変わる頃に布団に入る事になるのだった。

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