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後日譚372.事なかれ主義者は急かされた

 ファマリアの様子を見て回ったり、ついでに十二月に誕生日を迎える子たちへのプレゼントを見繕ったりしていたら十二月になってしまった。今月からオクタビアさんの日が設けられる事になっている。

 婚約者であれば背中を流すくらいさせてもいいんじゃないか、というランチェッタさんの強い後押しもあり、彼女はお世話係に加わった。

 それが決まりかけた時に「我慢しきれなくて手を出したらどうするのさ」と僕が最後の抵抗を試みたけど無駄だった。


「どうもしないわよ。責任取って結婚すればいいだけよ」


 ランチェッタさんが当然のようにそういうと、ディアーヌさんは悪戯っぽ笑みを浮かべながらその後に続いた。


「大丈夫です。シズト様は手を出す事は一切しないという事を私たちの時に証明しているじゃないですか」

「…………まあ、そうだけどさ」

「待たせているんだからお風呂くらい一緒に入ってあげなさい」

「はい」


 それを言われてしまうと強く反対する事なんてできない。

 そういう訳で今日、一緒にオクタビアさんとお風呂に入る事になっている。

 セレスティナさんはそもそも本館に入る事が許可されていないので、二人っきりで入る事になっているけれど、オクタビアさんはいつもと変わらない様子だった。

 いや、いつもよりも早く食べ終わったのは違う所だろうか?

 エンジェリア帝国でやる事があるからと食事を早めに切り上げた彼女が立ち上がったところで見送りをしようかと思ったけれど彼女に断られた。

 大人しくランチェッタさんとディアーヌさんの三人で食堂を出て行くのを見送る。


「……ランチェッタさんって、僕以外には敬語を使うのをやめたんだね」

「お互い、立場は違えどシズトを支える同士だからそういうのは不要にしよう、という話になったのですわ!」

「……レヴィさんは他の皆にも敬語だけど、それは良いの?」

「私のはもう癖になってしまっているからしょうがないのですわ! あと、パメラもそうですわね。基本的に話しやすい話し方で、という事になっているのですわ~」

「なるほど」


 その内僕に対しても敬語を使う事を止める事があるんだろうか?

 そんな事を考えながら食事を進めるのだった。




 午前中は仕事をこなし、午後は子どもたちと遊んでいたらあっという間に夕方になった。

 オクタビアさんは夕食の時間ギリギリに帰ってきた。


「仕事が忙しかったのなら延期にする?」

「いえ、大丈夫です! 仕事は早く終わったので何も問題ありません」

「そ、そうなんだ。じゃあ、予定通りという事で……」


 絶対譲ってなるものか、という圧を感じたので提案を引っ込めて食事を再開した。

 ……他の人とはもう流石に慣れたけど、初めて一緒にお風呂に入る人は以前と同じ、いや、それ以上に緊張するな。久しぶりだからかな?

 じゃがバターを食べやすいサイズに切り分けながらチラッとオクタビアさんの様子を窺うと、彼女は開いていた席の近くに座っていたランチェッタさんとディアーヌさんの三人で何やら話をしていた。

 ディアーヌさんの口元が悪戯をする時の感じになっていたので何か良からぬことを吹き込んでいるのかもしれない。……ただオクタビアさんやランチェッタさんを揶揄っているだけな気もするけど。

 ランチェッタさんたちは珍しく奥の方の席だったので声は途中でかき消されるのか何を言っているのか分からないし、読唇術なんて身につけていないので彼女たちが何を話しているのかは分からないから警戒しておいた方が良いかもしれない。

 オクタビアさんよりも食事は当然早く終わったので、食後にのんびりと近くの席の人たちと談笑をしていたらオクタビアさんが食べ終わったようだ。チラチラとこちらの様子を窺っている。


「……シズトから声をかけた方が良いと思うのですわ」

「え、そうなの?」


 いつもはみんな勝手にお風呂へ僕を連れて行くし、それは婚約をする前からそうだったような気もするけど……。

 でも魔道具『加護無しの指輪』をつけていないレヴィさんがそういうんだからきっとそうなんだろう。

 ただ問題なのは、身内とはいえ多くの人の前で女性をお風呂に誘うのは僕的にも心理的ハードルが高いという事だ。

 日和って様子を見ている間に食事を終える人が増えていくけど、皆なかなか食堂からは出て行かない。いつもそうだけど、今日くらいは先に部屋に戻るとかしてもいいんじゃないかな、なんて事を考えていたらレヴィさんからの視線が痛くなってきた気がする。

 でも未だにオクタビアさんはランチェッタさんやディアーヌさんと何やら話をしているし……いつの間にかそこにシンシーラやエミリーも加わっていたから余計に声をかけづらいし。

 そんな事を考えているのを察したのかは分からないけど、のんびりと魔力マシマシ飴を舐めていたラオさんがじろりとこっちを見た。


「おいシズト、お前がはよ風呂に入らねぇとアタシらが入れねぇんだけど?」

「あ、はい。入ってきます」

「あ、私も行きます!」


 僕が勢いよく立ち上がると、オクタビアさんも同様に慌てた様子で立ち上がった。

 そうして二人してそそくさと食堂を後にすると、まっすぐに脱衣所へと向かうのだった。

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