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後日譚370.箱入り女帝は忘れないように気を付ける

 神聖エンジェリア帝国の女帝であるオクタビア・デ・エンジェリアは日の出の頃に目を覚ました。魔道具『安眠カバー』を使わなくとも規則正しい生活を心掛けているため寝坊する事はない。

 可愛らしい寝間着姿の彼女は、まだ眠気を感じつつも体を起こすと大きなベッドから抜け出した。

 室内履き用のスリッパを履き、まっすぐに向かったのは閉められたカーテンだ。それを思いっきり開けると目の前に広がる景色をボーッと眺める。

 眼下に広がっている畑の所々で朝の光を浴びて花がもそもそと移動をしている。そんな花々が集まっている場所には大きな麦わら帽子をかぶった人物がいて、朝から農作業に励んでいるようだ。

 左の方に視線を向けると世界樹ファマリーが聳え立っている。よくよく目を凝らすと、幹や枝の部分に小柄な人影が見えた。オクタビアの視線に気づいたのか、手を振っている子も数人いるので彼女たちに向かってオクタビアは手を振り返した。


「…………あ! こんな事してる場合じゃなかった!」


 意識が覚醒した彼女は慌てた様子で広い部屋の隅の方に設けられたウォークインクローゼットの中に入ると着替えを始めた。一人でも着る事ができる簡易的なドレスを身につけた彼女は、忘れかけた冠を頭の上に載せると、スリッパから煌びやかな靴に履き替えると部屋を後にした。

 朝食の席では冠を被っていても気にする者はいない。近くに座っていたパメラは身分差の事は気にした様子もなくちょっかいをかけていたが、オクタビアは煩わらしく思う事もなく、丁寧に相手をしてあげていた。


「ごちそうさまでした。それでは、行ってきますね」


 最近は食後はのんびりと談笑するようにしていたオクタビアだったが、今日はやる事があったため手早く済ませると立ち上がった。先程まで楽しそうにラオとルウの二人と談笑をしていたシズトがそれに気づいて腰を浮かせた。


「あ、うん。行ってらっしゃい。見送りは――」

「大丈夫です」

「わたくしも転移陣までは一緒に行くわ」


 共に食堂を後にするのはガレオールの女王であり、シズトの側室の一人であるランチェッタ・ディ・ガレオールだ。彼女もまた、今日は普段は掃かないハイヒールを履いており、頭の上には煌びやかな王冠を載せている。


「ランチェッタも今日は城へ向かうのね」

「年末は何かと忙しいから。……それに、今回は貴女とシズトの結婚もあるし、今から動いていた方が良い事も多々あるから」

「面倒をかけて申し訳ないわ」

「気にしなくていいですよ、オクタビア様。ランチェッタ様は仕事中毒ですから、面倒な事があった方が嬉しいのです」


 二人の会話に割って入ったのは後ろから静かについて来ていた侍女のディアーヌだ。彼女は普段通りスカート丈が長いメイド服を着ている。


「最近はなかなかうまく進まない仕事でイラついていたので、丁度よかったです」

「それならよかった……のかしら?」


 気安く会話に入ってきたディアーヌに目くじらを立てる事もなく、オクタビアはランチェッタの方を見た。何やらディアーヌに向けて抗議をしている様だったが、怒っている様子はない。


(思った事をそのまま言い合える主従関係も素敵ね)


 そんな事を考えながら二人のやり取りを微笑ましそうにオクタビアが見ていると、ディアーヌが足を速めて先回りすると正面玄関の扉を少しだけ開けた。

 開いた隙間から顔をねじ込ませてきたのは幼児くらいの背丈しかないドライアドたちだった。頭の上に咲いている花がゆらゆら揺れている。


「お、開いたよ~」

「開いたねー」

「入れるかな~」

「どうかなぁ」

「入れませ~ん。ほらほら、外に出るから脇に退いて?」

「「「は~い」」」


 大人しく顔を引っ込めた彼女たちが扉から離れたのを確認したディアーヌは、後ろの二人が通れるように人一人分くらい開けた。ランチェッタとオクタビアは慣れた様子でその間から外に出た。

 最後にディアーヌが出たタイミングで突撃を仕掛けたドライアドたちだったが、すぐさま閉められた扉を見て、それから閉めたディアーヌを避難がましく見た。だがその時には既にディアーヌは背を向けて二人の後をついて行っていたので気づく様子もない。


「オクタビアは今日は仕事早く終わりそうなの?」

「何が何でも夕方までには終わらせるわ」

「フフッ。そうよね、今日は貴女の日だもの。何が何でも終わらせたいわよね」

「政務に気を取られて湯浴み着の用意を忘れないようにしてくださいね。未だにシズト様は一緒にお風呂に入る時は私たちですら湯浴み着を着用するように言いますから」

「そうなの?」

「そうなのよ。お互い、体の隅々まで知り尽くしているって言うのにね」

「そういう趣味なのかもと考えた時もありましたが、単純に恥ずかしいだけのようです」

「用意を忘れたら延期という事もあり得るから気を付けるのよ?」

「絶対忘れないようにするわ」


 オクタビアは真っ先に御用商人の相手をして湯浴み着の選定を終わらせようと心に決めた。

 そこまで話をしても転移陣まではもう少しかかる。

 オクタビアは湯浴み着の参考にしようと他の嫁たちの湯浴み着がどのような物を着用しているのか質問するのだった。

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