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後日譚369.事なかれ主義者は身近な人を真似た

「他の町のギルドだと昼間は閑散としてるらしいんだけど、まあ、ファマリアだもんね」


 冒険者ギルドに併設された食事処で机を囲んでいたアンジェラが依頼書が張られた掲示板の方を見ながら呟いた。

 僕たちは今、内壁の外側にある冒険者ギルドにいた。お昼ご飯の時間は過ぎたはずなのに、冒険者ギルドは賑わっていた。依頼の達成報告をする人もいれば、新しい依頼を物色している人もいる。僕たちと同じように併設されている食事処……というよりも待ち合わせ場所な気がするけど、そこでは軽食をつまみながら話をしている者たちもいた。

 彼らの中には大きな声で話をしている人もいたけれど、口元を隠して何やら真剣な表情で話し合っている人たちもいる。その中には見知った人物もいたので、そっと顔を背けた。


「ファマリアはやっぱり特殊なの?」

「なのか」

「特殊なのか?」

「うん、特殊だよ。周りの魔物はフェンリルが片付けちゃうから魔物討伐の依頼はないし。あ、常設依頼でアンデッドは一応あるんだけどね? 護衛依頼のついでの小遣い稼ぎ程度みたいだよ」

「なるほどねぇ。じゃああの人たちは――」

「あいつら」

「あいつらはその依頼を物色してるのかな?」

「してるのか」

「してるのか? って、毎回言葉遣い直すの?」

「直すのか」

「直すのか?」

「そうしないと話し方なんて意識できないでしょ? それで、質問の答えだけど、その通りだよ。こっちにやってくる時に受けていた依頼主とタイミングが合えば帰りも一緒に、っていう事もあるんだろうけど、大体が観光がてら数日滞在する人がほとんどだからね。だから帰るタイミングが合う人を探しているんだよ。ギルドにいる冒険者の多くが中堅なのはその影響だろうね。駆け出しは護衛依頼なんて受ける事が出来ないし、高ランク冒険者はただアンデッドが出るだけの不毛の大地を渡る護衛依頼なんて受けないから」

「なるほどなぁ」


 僕たち……というよりはアンジェラが注目を集めているのはそのせいもあるのかな。成長期とはいえ、まだまだ少女という見た目だし。


「以前までは町の子たちが依頼を受けに来ていたんだけど、この前の大規模な区画整理の後は内壁区のギルドでしか受け付けないようになったからこういう状況に拍車がかかってるみたいだね」

「まあ、用途に合わせて使い分けるのは悪い事ばかりじゃないんじゃない?」

「悪い事ばっかじゃねぇだろ」

「悪い事ばっかじゃねぇだろ?」

「まあ、他所から来た人が町の子たちとギルド内でトラブルを起こす事は多少減ったみたいだよ。犠牲となる冒険者が少なくなって、冒険者ギルドの職員もそこはホッとしてるんじゃないかなぁ」

「だろうね。…………犠牲になるのは冒険者だったの?」

「そりゃそうでしょ。中級くらいの冒険者がジュリウスさんたちに勝てるわけないんだから」

「…………なるほど」




 冒険者ギルドを後にした僕たちは引き続き内壁の外側を歩いている。

 普段だったら向こうが勝手に道を開けてくれるけど、今は周りに気を取られ過ぎると人とぶつかってしまうので気を付けないといけない。変な難癖付けられたくないし。

 町の通りは車道と歩道で分けられていた。車道では馬車で荷物を運んでいる商人もいたけれど、浮遊台車を爆走させている町の子たちの方が圧倒的に多い。

 きっと前世の知識を流用しているのだろう。浮遊台車を押している子たちは皆左側通行していた。交差点では交通整理をしているらしき子もいるからか事故は起きていないようだ。

 時折、見慣れない浮遊台車に驚いたのか馬が動かなくなる様子もあったけれどそれも日常茶飯事なのか町の子たちは動じる事もなく避けて通行している。


「ねぇ、次はどこにいこっか?」

「ん? ああ、そうだな。甘い物でも食べに行こうか」

「甘い物かぁ……外壁区にはそういうお店、少ないから結構並ぶ事になるよ?」

「まあいいんじゃねぇか? 別に予定があるわけじゃねぇし」

「……そうだね。それじゃあ近場の所から見ていこっか」


 そういうとアンジェラが僕の手を引いて歩きだした。

 冒険者の真似はすぐには難しいけど、普段一緒に過ごしているラオさんの喋り方の真似ならまあ意識すればできる事に気付いてからはアンジェラから指導が入る事も少なくなったしこれで良いようだ。

 そんな事を考えながら町の様子を見ていたけれど、なかなか目的地に着かない。近場の所から、と言っていたけれどだいぶ歩くようだ。

 まあ、町の様子を見るのが目的の一つだったので丁度いいか。

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