後日譚367.事なかれ主義者は悩む時は相談する
千与の方は無事にモニカからぬいぐるみをプレゼントされて付与をするようになった。電気やゼンマイで動くようなぬいぐるみとは違って、こちらの命令を聞いてある程度自由に動けるようだ。
まだ千与の部屋から出てくる事はないけれど時間の問題かもしれない。
そんな事を思いながらも今日も今日とて誕生日パーティーを世界樹の根元でしていた。
フェンリルが念話で『最近多くないか?』と迷惑そうに言ってきたけれど、スルーしておいた。
……ただ、フェンリルの言うように、確かに十一月誕生日の子がとにかく多い。もう少しばらつくようにした方が良かったのかな、なんて思わなくもないけれど、こればっかりは天からの授かりものなのでどうしようもない。
魔法も神様も存在する世界なので確実な避妊方法もあるので、妊娠してほしくない時はそれを使うのもアリかもだけど…………それ以外の時に妊娠が確実にできるという保証がどこにもないのでお嫁さんたちは納得しないだろうな。
そんな事を考えていたらニュッと小さくて可愛らしい手が伸びてきた。
そちらの方を見下ろすと、大きくて丸い灰色の目でこちらを見上げている女の子がおそらくドライアドから貰ったであろうリンゴを手に持っていた。小さな口でちょっと齧った後があるその果実を精一杯手足を伸ばして差し出してきて「パパ、どーぞ!」と言ってくる。
彼女の意図を察した僕は、思考を放棄して口を果実に近づけて齧った。
「リンゴ、おいしーね」
「美味しいね。千恵子、ありがとね」
「どーいたしまして!」
今日で二歳になった千恵子の頭を優しく撫でると、彼女は満足そうに笑い、今度は母親であるランチェッタさんのもとへと向かった。おそらく同じ事をするんだろうなぁ。
最近の千恵子のブームは「どうぞ」だ。手に持っている物を渡すだけの時もあれば、今のように食べる事を求める時もある。
可愛らしい娘から差し出された物であればできる限り食べてあげたいけれど、パーティーが始まってから料理を平らげるくらいには時間が経っているのに加えて何度もやってくるからそろそろお腹の容量的に限界かもしれない。流石にそろそろ供給元を断とうかな。
「今度何を渡そうね~」
「レモン!」
「それはさすがに食べないんじゃないかなぁ」
「レモーン!」
少し離れた所で話をしているドライアドたちは、定位置から離れたレモンちゃんを交えて次に千恵子に渡す物を話し合っていた。千恵子経由で渡った物であればその場で食べるという事を学習したらしい。余計な事を学習しないでほしいな。
「イチゴはどう?」
「ブルーベリーは~?」
「レモーン!」
「メローン!」
「キューリ!」
「唐辛子!」
「はい、ストップストップ。もうお開きね。胃の容量がないから。あと唐辛子はあってもそのままは食べないからね」
「そうなの? 美味しいのに」
「余ってるんだったらセシリアさんにでもあげればいいんじゃない? とにかく、もう千恵子に食べ物を渡しても僕は食べないから! おしまいね」
「「「エ~~~」」」
「残してもいいんだったら別にいいんだけど?」
「かいさーん」
「おしまいかぁ」
「またちょっとたったらわたすものきめる?」
「さんせー」
わらわらと大移動していくドライアドたち。
その流れに巻き込まれて流されていたレモンちゃんが慌てた様子で戻ってきて、僕の体をよじ登り始めた。
「そのまま話し合いに加わっててもいいんだよ」
「レモ!」
「まあ、好きにすればいいんだけどさ」
レモンちゃんが定位置に収まった所で僕はテーブルに戻ると、千恵子が三カ所齧られたリンゴを持ってディアーヌさんの所に突撃する所だった。楽しそうだから止めるのも申し訳ないけど、そろそろお開きにしようかな。
「片づけ面倒デース。シズト様、お祭り見てきてもいいデスか?」
「駄目だよ。ほらほら、文句言ってないで手を動かして。みんなでやればすぐなんだから」
机やいすの片づけをみんなで協力して手早く終わらせると、パメラは我先にと飛び去って行った。
他の皆も散り散りに分かれていく中で、レヴィさんが僕の所にやってきた。
「これで一段落なのですわ」
「そうだね。ファマリアの方はまだまだ続きそうだけど……」
「次はウタハたちの誕生日があるからしょうがないのですわ」
「今後も子どもが増えていくだろうし、ちょっと考えないと祭りが日常になっちゃうかもね」
「それはそれで面白そうなのですわ~」
「非日常だから祭りは楽しいんであって、それが日常になったらなんか違う気がするんだよなぁ」
誕生日の前後の週は勝手に集まってきた人たちが勝手にしているお祭りだし。そろそろコッチデコントロールするべきかもしれない。
祭りに対して肯定的だったレヴィさんは、結局僕の考えに同意するのは分かっているので他の人に相談してみよう。