後日譚366.事なかれ主義者は気軽にあげられない
大樹の誕生日から二日後、僕たちはまた世界樹ファマリーの根元の一画に机といすを並べてお祝いをしていた。今日の主役はドーラさんと龍斗だ。
龍斗はドーラさんによく似ていて金色の髪に青い瞳の男の子だ。眠たそうな印象を与える目つきをしていて、その目で今もボーッと空に浮かぶ雲を見ている。普通の雲に混じって、魔道具『綿雲生成器』によって作られた雲が頭上を漂っており、ドライアドたちが風に流されるまま運ばれているのは放っておいていいんだろうか?
そんな事を考えながら龍斗と一緒に空を見上げていると、つんつんと誰かが僕の体を突いてきた。そちらを見るといつも通りラフな格好をしたドーラさんがこちらを見ていた。
「ケーキ、食べない? 飽きた」
「飽きてないよ。たくさんは食べないけど、ちゃんと自分の分は食べるから」
「そう。それならいい」
「心配してくれてありがとね」
「ん」
端的に返事をしたドーラさんは、その細い体のどこに入るのかと思うほどモリモリ食べる。今も誕生日ケーキの大部分を平らげていた。
ラオさんやルウさんも大食いだけど、すぐ食べ終わるからビックリするのも短時間で終わるけど、ドーラさんの場合は食べる速度が普通でずっと食べ続けるから「いつまで食べるんだろう?」といつも思う。
ただ、食事量はドーラさんから遺伝していないのか、龍斗はそこまでたくさん食べる子じゃなかった。今も自分に用意されたケーキを食べて、その後に綿菓子を少し食べた後は何も食べていない。ドライアドたちから差し出される果物や野菜もガン無視で空ばかり見ている。
……ああ、だからドライアドたちはアピールするために綿雲に乗って頭上を漂ってるのか。
「…………そういえば、結局ドーラさんは龍斗を連れてドランに行く事にしたの?」
「行かない。顔を見せる相手がいない」
「ラグナさんは? 異母兄弟なんでしょ?」
「そう、だから見せる必要性を感じない。親や祖父母ならそれも考えたけど、祖父母はもういないし、父親とは極力関わりたくない」
「…………そっか」
結婚してから家族の事について触れていないお嫁さんはそこそこの人数要るけれど、ドーラさんもそのうちの一人だった。妾の子として生まれたらしいし、色々あったのだろう。たぶん。
お願いされれば関係の再構築のために力を貸す事も厭わないけど、ドーラさんも彼女のお父様も現公爵であるラグナさんも誰も何も言わないので今後も動かずに様子見に徹しよう。
そんな事を考えているとプレゼントを渡す時間になった。
僕は毎年恒例のリュックと共に、とっても大きなぬいぐるみを渡した。とってもふわふわで龍斗も気に入ってくれる事だろう。羊型の魔物らしいけど、見た事がないからか、それとも大分デフォルメされているのか分からないけど可愛い見た目のぬいぐるみだった。『付与』が使えたら、龍斗を乗せて歩き回るようにしたんだけど……とても残念だ。
ぬいぐるみだったら魔道具化してくれる千与にお願いしようと思ったけど、そうすると千与の物になってしまう事が目に見えていたので諦めた。
龍斗の誕生日パーティーをしてから数日経ったけど特に問題もなく過ぎていった。
何も変化はないという事は、蘭加は未だに加工の加護を使っていないという事だ。どうすべきかな、なんて事を思いつつ不格好な家具が量産されてはジュリウスに処分してもらっている。
千与の方は自分のぬいぐるみは魔道具化はできているので、そうなってほしいと思いさえすれば使ってくれるんだろうけど、未だにぬいぐるみ以外は魔道具化してくれていない。
遊びの中で必要に迫られれば使うのではないか、という事で最近は魔道具作りは一旦やめて、いろんな遊びをする事にした。
「ぬいぐるみをあげた方が早いのでは?」
「まあ、それはそうなんだけどね。僕からプレゼントするのはあれだから……」
「私からプレゼントしておきます」
「よろしくお願いします」
母親からであれば他の子の事を気にする必要もないだろう。
これで定期的に『付与』は使ってもらえるだろうから蘭加に専念すべきかな。
そんな事を考えながら何かの魔物の皮で作られたボールを千与の方に転がすのだった。