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後日譚365.事なかれ主義者は見守った

 日々のルーティンが変わらないからか、それとも歳をとったからかあっという間に時間が過ぎていく。

 大きな問題もなく紫亜と健斗の誕生日を祝う事ができた。

 紫亜は体調を崩しがちなので心配していたけれど、元気な時に祝う事ができたし、その翌日にはセシリアさんが親に孫を見せに行くとの事だったけど、子どもの事については特に何も言われなかったようだ。

 セシリアさんが心配している通り、他の子と比べると言葉が遅いけど、子育てになれている乳母の方々がこの時期なら問題ないと言ってたし大丈夫だろう。まあ、紫亜の体調が良い時は引き続き話しかけるし絵本も読み聞かせるけど。

 そんな感じの事を考えていると、転移陣の準備が整ったようだ。淡い光が魔法陣から漏れ出ている。

 その転移陣に乗っているのはディアーヌさんと健斗だ。ディアーヌさんは誕生日会以来の久しぶりの普通のドレス姿だった。


「それでは行ってきますね。ほらケント、パパに行ってきますって言って?」

「ばいばい!」

「うん、行ってらっしゃい」


 ディアーヌさんに抱っこされた健斗は紫亜と同じ日に生まれたというのに言葉を覚えるのが早かった。成長が早いのは喜ばしい事だけれど、早すぎるとそれはそれで大丈夫か心配になる。まあ、乳母の方々だ大丈夫だというのだから大丈夫なのだろう。たぶん。

 そんな僕の気持ちとは関係なく、健斗は転移陣の周りに集まっていたドライアドたちにも「バイバイ」と言いまくっていた。


「終わるのを待っているといつまでも続きそうなのでもう行きますね。夕方頃には帰ります」

「うん。ご両親にもよろしく伝えておいて」


 本当は一緒に行った方が良いんだろうけど、ガレオールでの影響力が大きい僕が動くと面倒な事になりかねないと言われたら仕方がない。またどこかタイミングを見計らって顔を出す事にしよう。

 転移陣から漏れだす光がひときわ強くなった時、ディアーヌさんとケントの姿が消えた。

 それを見届けた僕は、僕の後ろをついて来るドライアドたちの事をスルーして本館へと戻る。


「人間さん何するの?」

「収穫~?」

「水やり~?」

「日向ぼっこ~?」

「どれでもないよ。いつも通り蘭加と一緒に工作をした後は、千与を連れて魔道具作りの見学をするんだよ。ま、いつも通りだね」


 最近は僕が一緒じゃなくても静流は積み木遊びをするようになったらしい。……静流じゃなくて蘭加に興味を持ってほしかったんだけど…………嫌がらない範囲で頑張るしかない。




 セシリアさんが実家で誕生日パーティーに参加した翌日。空は雲一つなくいい天気だった。


「絶好のパーティー日和だね」

「そうですねぇ」


 僕の隣の席で一緒に空を見上げていたジューンさんがのんびりと相槌を打ってくれた。ジューンさんの両手はしっかりと息子の大樹を抱えている。

 ハーフエルフの大樹だけど、成長は他の子とそこまで変わらない。

 エルフの場合も乳幼児の時期はそこまで長くないとの事だったけど、おそらく人間の血が濃いんだろう。それにしては外見はエルフっぽいけど。


「人間さん、小さいハーフエルフさんに果物あげてもいい?」

「物によるかなぁ」

「そうですねぇ」

「レモ~ン?」

「生のままは無理じゃないかなぁ」

「もん」

「バナナは好んで食べてましたよぉ」

「バナナかぁ」

「ここにはないよね」

「育てる?」

「時間かかるね」

「とりあえず取ってくる~」


 褐色肌のドライアド数人がわらわらと大移動をし始めた。残った子たちはどうするのか見ていたら他の果物は何を食べるのか聞いてきた。


「メロンもこの前食べてましたよぉ」

「メロン!」

「あっちにあった気がする~」

「収穫だ~」


 肌が白い子も黄色い子も全員走って行ってしまった。

 残されたドライアドはレモンちゃんくらいだ。しょんぼりしている気がするので後でフォローするためにレモンのマーマレードづくりでもしよう。

 切り分けられたケーキを食べながらそんな事を考えていると、レヴィさんが「そろそろプレゼントを渡すのですわ?」と聞いてきた。確かにテーブルを見るとだいたい食事を終えてのんびり談笑している人たちの方が多い。

 ドライアドたちもほとんどがどこかに行ってしまったので今すればスムーズに終わりそうだ。


「そうだね。それじゃあそれぞれプレゼントを渡していこうか。まずは僕からだけど、まあ他の子と同じようにベビーリュックだね」


 アイテムバッグではないからたくさんは入らないけど、背負っていれば後ろに倒れた時に頭は守ってくれるだろう。

 大樹を地面に下ろしたジューンさんが早速背負わせた。はい、可愛い。

 僕の後はレヴィさんがプレゼントを渡した。小さなじょうろをあげるのはレヴィさんらしいと言えばらしいのだろうか。

 他のお嫁さんたちも次々にプレゼントを渡していく。いつもの如くパメラは遊び道具だったし、シンシーラはいつか飲むようにとお酒だったけど、それ以外は実用的な物が多かった。主にジューンさんや乳母が使う事になるのは仕方がない事だろう。


「我々、エルフ一同からもささやかですがプレゼントを贈らせていただいてもよろしいでしょうか?」


 一通りみんなプレゼントを渡したところで椅子に戻ろうとしたんだけど、それに待ったをかけたのはいきなり現れたジュリウスだった。その背後には各都市国家を任せているエルフたちが控えている。

 育生の時以来、遠慮してプレゼントは用意していなかった彼らだけど、ジューンさんの息子という事で用意したようだ。

 エルフたちにも受け入れられているようで良かった、なんて事を思いつつジューンさんがプレゼントを代わりに受け取るのを見守るのだった。

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