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後日譚354.事なかれ主義者は聞いても決められない

 僕たちを囲んでいるドライアドたちは勝手気ままに話をしている。

 そんな騒がしい中、僕の話を口を挟む事なく聞き終えたレヴィさんは、一口紅茶を飲んでから口を開いた。


「つまり、このまま婚約をした方が良いのか、しない方が良いのか分からない、という事ですわ?」

「まあ、そうだね。オクタビアさんから好意を寄せられている事は流石に分かるけど……」

「そうですわね。それは間違いようのない事実ですわ」

「レヴィさんから見てもそうなんだね。じゃあ――」

「ただ、シズトの言う通り、そう思い込もうとしている可能性はあるかもしれないのですわ。ただその場合、私にもわからないのですわ。っていうか、普通の王侯貴族であれば、勇者と結ばれる事が幸せだという事を幼い頃から刷り込まれているから、大なり小なりそうなのは私もランチェッタも同じですわ。だからこの際、その点については置いとくのもアリだとは思うのですわ」

「その点が僕にとっては一番ネックなんだけど……置いとくとして、じゃあどうやって婚約するかどうか決めるの?」

「メリットデメリットを比較してどちらが良いか、考えるとかですわね。オクタビアと結婚してもしなくてもどちらにもメリットはあるし、デメリットも生じるのですわ。だったらどちらのデメリットの方が許容できないか、で考えるのが良いと思うのですわ」

「結局はそうなるのか……」

「そうなるのですわ。とりあえずシズトの方から考えるのですわ。婚約をした時のメリットは小国家群に影響力があるパイプを持つ事ができる事、エンジェリア帝国内の布教活動がより活発にできる事、それからランチェッタの時と同様、縁談の申し込みのハードルが上がる事ですわね。他にもメリットはあるのですけれど、大きなメリットはここら辺なのですわ。デメリットは……強いてあげるとしたら夜の相手が増えて大変という事くらいですわ?」

「それも大きな問題だよね……。今でさえ大変だし、子どももその分増える訳だからなぁ」


 今のお嫁さんたちには二人目を授かろうという人もそこそこの人数いる。平民出身の人たちも子どもは二人いるのは普通、という考えみたいで少なくとも子どもは二十人を超えるだろう。

 お嫁さんも子どもも、平等に愛せるのか疑問だ。


「そこはシズトに頑張ってもらうしかないのですわ」


 肩を竦めてレヴィさんにバッサリと正論を言われた。やっぱり頑張るしかないよね。


「婚約をしなかった時のメリットは、今後も新しく結婚をしないというアピールになる事、エンジェリア帝国の事を気にせずに小国家群に干渉する事ができるようになる事などですわね。デメリットは、エンジェリア帝国への布教活動がしづらくなる可能性がある事、縁談の申し込みが子どもの方に集中する事、それから多少シズトの評判が悪くなる事などですわ」

「まあ、自分の都合で婚約を白紙に戻したらそうなるよね。……評判が悪くなったら縁談の申し込みも減るかな?」

「多少は減るかもしれないですけれど、申し込まれ続けるのは変わらないと思うのですわ」


 問題を起こした転移者にわざわざ縁談の申し込みをしたいと思わせるほどの魅力があるのか疑問だけど、レヴィさんがそういうのならそうなんだろう。


「次はオクタビアの方からみてみるのですわ。婚約した場合のメリットはなによりも国内の安定化をさらに盤石な物にできる事ですわね。ドラゴニアやガレオールとの関係も強固になるから何かあった時にお互いに助け合う関係性になるかもしれないのですわ。特にガレオールと。デメリットは…………ランチェッタのようにシズトと過ごす時に国を空ける事になる事ですわね。ただこれは転移陣があるからそこまで致命的な物にはならないと思うのですわ。万が一の時に指揮できる人も育てているはずですし、用意していなかったらそれはオクタビアの落ち度だから気にしなくていいのですわ」


 ……一夫多妻の所に嫁に入るのは統治者としてデメリットじゃないのか気になったけど、ランチェッタさんと同じ立場になれるのなら確かに利点はあるのか。


「婚約をしなかった場合のメリットは……なにかあるのですわ? 実質婚約破棄みたいなものだと受け取られると思うのですわ。そうなると、関係悪化を恐れる人たちが出てくるから他の国から結婚相手を探すのに苦労するかもしれないですわね。ただ、シズトへ配慮しなくてよくなるから今、強行している意識改革政策を急ぐ必要が無くなるというのはメリットかもしれないですわ。それに、妥協すれば彼女の地位を考えると相手を見つけるのはそこまで苦ではないかもしれないのですわ」

「僕がその後も良好な関係を築いている様に見せればそこら辺は防げるかな?」

「なってみない事には分からないですけれど、過去の勇者たちの婚約取りやめの騒動を見ているとそうならないと思うのですわ。よく修道院で余生を過ごす事があるのですけれど、オクタビアの地位を考えるとそうなる可能性は無きにしも非ずですわ。次はデメリットですけれど、これはたくさんあるのですわ。でも何より、シズトからの後ろ盾がなくなった事によって足元が揺らぐ可能性が高いのですわ。他国からも軽んじられるようになって、交渉でも足元を見られるようになると思うのですわ。武力も経済力も落ちているからしょうがないのですわ」


 たくさん喋って喉が渇いたのか、セシリアさんがお代わりを注いでくれた紅茶を一気に飲み干した彼女は「このくらいで満足ですわ?」と首を傾げた。


「他にもあるなら聞いときたい気持ちもあるけど……」

「聞いたところで迷う事には変わりない、ですわね?」

「そうだね」


 メリット、デメリットを聞いたところで僕の気持ちが固まらないだろうと分かっていたのだろう。

 レヴィさんは微笑んで「シズトのしたいようにすればいいのですわ。私はただそれを支持し、協力するのですわ」と言った。

 僕のしたいように、と言われてもその気持ちが曖昧で分からないんだけど…………。

 どうしたものかなぁ、なんて事を考えながらレモンちゃんがさらにレモンの汁を追加投入しようとするのを防ぎつつ、紅茶を飲むのだった。

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