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後日譚353.事なかれ主義者は意見を聞きたい

 蘭加と静流の誕生日から三週間ほどが経った。

 この三週間、蘭加の近くで工作をしたり、千与の近くで魔道具作りをしたりしたけれど結果は芳しくない。

 興味は持っているはずなんだ。静流がお手伝いをしてくれるのを尻目に、蘭加は隣で木材を積み上げて遊ぶようになったし、千与は以前何となく作った魔道具の数々を取り出しては魔力を流している。最近は『光る木刀』が気に入ったようで、よくそれを引っ張って持ち運んでいた。

 だけどそこから加護を使って作ってみよう、という発想にならない。加護について話をしてみたけれど使う様子が全くなかった。

 プロス様達には悪いけど、時間が解決してくれるだろうからしばらく放っておいてもいいかもしれない。

 それよりも、放っておけないのは数日前から本館で寝泊まりし続けているオクタビアさんの方だ。エンジェリア帝国の女帝なのにそんなに国を空けて大丈夫か、と心配になるくらい屋敷に入り浸っている。

 彼女が入り浸っている訳は当然知っている。っていうか、来たその日にランチェッタさんと話をしていた。


「…………もう三年かぁ」


 早いなぁ、なんて事を思いつつもその三年で国を一つまとめ上げたその手腕を褒め称えるべきだろうか? いや、僕が褒め称えたところで喜ぶのはエルフくらいなんだけど。

 ランチェッタさん曰く、他国から見てもエンジェリアの王侯貴族はまとまったとの事だった。民衆に不安要素はあるけれど、後ろ盾がなくとも貴族関係で失脚する事はないそうだ。

 そうなると後ろ盾という証明をするために僕と結んだ婚約(仮)は必要のない物となるわけだけど……流石に三年間もいろいろ一緒に行動していたら情が湧くし、向こうがどう思っているか分からない程鈍感でもない。

 きっかけは政略的な事だったけど、今は異性として好かれているはずだ。たぶん。彼女がそう思い込もうとしていない限りは。

   ただ、それでも婚約を白紙に戻すと少なくない混乱は待ち構えているとの事だった。それはエンジェリア帝国内にとどまらず、小国家群にも及ぶ。小国家群の依頼はその多くがエンジェリア帝国の女帝と一緒に行動していたからなにも起こらなかっただけで、白紙に戻ったら縁談の申し込みが増える可能性は高いらしい。

 その他の国々にも大なり小なり影響は出るとの事で、早くシグニール大陸を安定させて他の大陸との競争に追いつきたいランチェッタさんとしてはできればこのまま婚約するのが良いんじゃないか、という事だった。

 国同士の付き合いを考えたらそうなんだろうけど、他にも考えるべき事はあるはずだ。

 どうしたものかなぁ、なんて事を考えながら世界樹トネリコの根元に設置してあった転移陣を使ってファマリーの根元に戻ると、集まっていたドライアドたちが僕をジッと見上げてくる。


「駄目だよ。ほら、白い服じゃないでしょ?」

「そうだねー」

「たしかに~」

「もう人来ない?」

「来ないみたいだねぇ」


 光が収まった転移陣をジッと見ている彼女たちを置いて、僕は歩き始めた。町の方に見覚えのある金色のツインドリルが見えたからだ。

 一人で考えていてもしょうがない、という事で農作業をしているレヴィさんに相談しようと彼女の元へと向かっていると、騒がしさからかレヴィさんが顔をあげて僕の方を見た。

 小走りで彼女の方に向かうと、当然のように背後からたくさんの足音が聞こえてくる。


「人間さんどこに行くの?」

「町にでも行くのかなぁ」

「どうなんだろうね~」


 当然のように先程まで転移陣を見ていたドライアドたちが僕の後をついて来るけど、いつもの事なので気にしない。


「お仕事お疲れ様なのですわ。私に何か用ですわ?」

「んー……ちょっと相談に乗って欲しいというか、意見を聞かせて欲しいというか……」


 キョロキョロと周囲を見ている僕を見て、それだけで察したのだろう。レヴィアさんは「オクタビアはパメラたちと一緒に町に出ているのですわ」と教えてくれた。彼女にあげた魔道具『加護無しの指輪』は指に嵌めているのに、そんなに分かりやすいだろうか?


「丁度休憩にしたいところだったのですわ」


 レヴィさんはそう言いながら世界樹の方へと向かった。

 世界樹周辺は流石に耕されていないし、ドライアドたちも好きな物を植えていないので名も知らぬ草が伸びていて草原になっている所が多い。

 レヴィさんは程よい広さの場所を確保すると、アイテムバッグから敷物を取り出した。セシリアさんがそれを受け取って地面に広がる。


「紅茶でも飲んで話すのですわ」

「おやつの時間? ちっちゃいトマト食べる?」

「ブドウもあるよー」

「おやつはバナナ!」

「どれも食べないのですわ。お昼ご飯が近いのですわ」

「レモン!」

「レモンは紅茶にでも入れるのですわ?」

「そうだね」

「レモーン!」


 靴を脱いで敷物に足を踏み入れる前にドライアドたちがわちゃわちゃと敷物の上に陣取り始めた。

 踏まないように気を付けながら、真ん中の方へレヴィさんと一緒に移動し、座る前にスペース確保のためドライアドたちを移動させるのだった。

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