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後日譚352.元引きこもり王女は馴染めているようで安心した

 オクタビアとランチェッタの三人で密談をしてから数日が経った。だが、彼女が一人屋敷に寝泊まりしていようとレヴィアの日課は変わる事はない。

 朝日が昇る少し前の時間に目を覚ましたレヴィアは、いつも通りオーバーオールに袖を通し、魔道具『アイテムバッグ』を背負うと部屋を後にした。


「おはようございます、レヴィア様」

「セシリア、おはようなのですわ。今日もいい天気なのですわ」

「そうですね。夜の間に降った雨でぬかるんでいる所もあるようです。泥遊びをしているドライアドたちに気を付けてください」

「汚れてもこの服ならすぐに綺麗になるから問題ないのですわ~」

「髪の毛や顔は魔道具化してないでしょう」


 呆れた様な声でいつものようにレヴィアを諫めたのは彼女の侍女であるセシリアだ。

 まだ朝と呼ぶには早すぎる時間だというのに髪には寝癖は一つもなく、メイド服はしっかりと着用している。

 レヴィアが活動を始める前には既に支度を終えている彼女を見慣れているレヴィアは、セシリアがいつ寝ているのか、などと疑問を持つ事もなく廊下を先に進む。

 廊下や階段は誰かが歩いているのを感知すると光る魔道具によって照らされている。三階の窓には何も張り付いていなかったが、階段を降りている途中で真っ黒な肌のドライアドたちが窓からレヴィアたちの様子をじっと眺めていた。


「人間さん、こんばんは!」

「おはようじゃない?」

「まだ太陽出てないよ?」

「もうすぐ出るよー」

「じゃあ、おやすみなさいかも?」

「そうかも~」


 正面玄関から出たら集まってきていた真っ黒な肌のドライアドたち。

 基本的に夜間は世界樹の根元に広がる畑の中の立ち入りは全員禁止されているので見張りをしていても暇なようで、まだ彼女たちの活動時間内に屋敷から出てくるレヴィアとセシリアと行動を共にするためにちょくちょくこうやって集まっていた。

 昼のドライアドたちと違い、扉の隙間から中に入ろうとする子は一人もおらず、レヴィアとセシリアの歩みに合わせて足元をウロチョロしている。

 そんな彼女たちにレヴィアとセシリアはそれぞれ挨拶を返し、祠の方へと向かう。

 まだ薄暗いため、レヴィアが背負っていたアイテムバッグの中から魔道具『浮遊ランプ』をセシリアが取り出して明かりをつけるとその光に誘われて暇を持て余していたドライアドたちが集まってきた。

 それだけドライアドが集まると騒がしくなるのだが、それを気にする者は世界樹の根元で丸まっているフェンリルくらいだった。




 祠で祈りを捧げた後、レヴィアはいつも通り農作業を始めた。朝早くから収穫すればエミリーたちが新鮮なサラダを作ってくれる。彼女は自分の食べたい野菜を中心に収穫していくが、それに待ったをかけるのはドライアドたちだ。


「こっちの美味しそうだよ」

「それは昨日食べたのですわ」

「こっちのは~?」

「それは数が少なすぎるのですわ」

「あっちのはたくさん生ってたよ~」

「あっちは個人の菜園だから勝手に取るのはまずいのですわ」


 レヴィアの周りをウロチョロするドライアドたちは口を出すけれど手は出さなかった。畑の見張りは頼まれていたが、収穫作業まで頼まれていなかったからだ。精々雑草が生えているのを見つけたら抜いて、たい肥を作る魔道具に入れるくらいしかやる事がない。

 だからレヴィアにあれこれ話しかけるのだが、そうこうしている内に太陽が顔を覗かせ始めた。

 大きく欠伸をしたドライアドたちが「そろそろ帰る~?」と口々に話し始める。そこから決定まで早かった。


「おやすみなさいなのですわ」

「おやすみ~」

「ばいばーい」

「またね~」


 レヴィアが作業の手を止めて挨拶をすると、ドライアドたちも口々に挨拶を返して帰っていく。それと入れ替わるように現れ始めたのはまだ眠たそうなドライアドたちだ。ただ、こちらのドライアドたちは肌の色は真っ黒ではなく様々だった。


「にんげんさんおはよぉ」

「はやいねぇ」

「ねむいねぇ」

「まだねてるぅ?」

「んー…………」


 立ったまま眠りそうなドライアドたちは、レヴィアが野菜をもいで収穫する音でパチッと目が覚めた。

 一度静かになったというのに、また賑やかになった畑を、迷惑そうにフェンリルが見ていた。

 ドライアドたちが元気に収穫作業をすると一気に必要分以上集まってきてしまう。いつの間にか屋敷から出てきて、それらの状態をじっくりと見定めてどの食材を使うのか見ているのは狐人族のエミリーとオクタビアだった。


「これはどう?」

「大きければいいという物でもないのよ?」

「そうなの?」

「そんな事ないよ! 大きいとたくさん食べれるよ!」

「でも味がギュッとしてるのはこっちだよ」


 二人とその周りにわらわら集まって会話に混ざろうとしているドライアドたちを、レヴィアは優しい眼差しで見守りつつ、アイテムバッグの中にこそっと自分の推し野菜を入れようとするドライアドの頭をかるくはたくのだった。

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