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後日譚349.箱入り女帝は最後の準備を終えた

 シズトたちが暮らすファマリアという町から南へ下った先に神聖エンジェリア帝国という国がある。

 以前までは一神教で、人族至上主義を掲げていたその国は、新しき女帝が統治し始めてから徐々に変わっていった。

 今まで信仰されていた宗教が邪神騒動の余波で弱体化したため、他の境界を建設しても大きな妨害もなかったため、生育の神をはじめとしたいくつかの宗教は首都を中心に徐々に国内に広がっている。

 人族以外の種族に対する扱いも法律上は改められ、転移門が設置されている首都を中心に、徐々に他種族の冒険者がエンジェリアを行き来するようになっていた。

 中抜きによって放置されているも同然だった貧民対策も拡充され、路上で生活する子どもたちは残らず新しく建てられた教会に併設された孤児院に収容され、成人を迎えた者は手に職をつける機会も制度上は設けられた。

 だが、制度をいくら整えようと、一朝一夕に意識改革は進まない。


「やはり、多少強引な手法を取り入れるしかないかもしれません」


 報告書の内容を読み上げていた女帝付きの侍女セレスティナが、お昼休憩を取りながら話を聞いていた女帝オクタビアに自身の考えを述べた。

 それは以前からも話していた事なのだろう。オクタビアは細かい事は聞かずに首を振った。


「敵をわざわざ作る必要はないわ。それこそ洗脳でもしない限りは急には変わらないでしょうし、ゆっくりやっていくしかないでしょ。そんな事より、貴族たちの動きはどうかしら?」

「公爵を筆頭に、オクタビア様から命じられた事を粛々と取り組まれております。各領地にシズト様が信仰している三柱の境界を建ててエルフたちによる布教活動も受け入れてはいるようです。ただ、やはり宣教師がエルフとなると領主ですら足が遠のくようで……」

「それは想定の内よ。併設された孤児院の様子は?」

「報告によれば大きな問題は発生していないそうです。ただ、知識を身につけさせるのに時間がかかっているように感じます。教師役もエルフだからかもしれません」

「ある程度適応する力があるだろうと思った子どもでもそうなのね。…………そういえば、この前の生誕祭で行われた大会でも商品がエリクサーをはじめとした豪華な物だったわね。優秀な成績を修めた物にはそれ相応の報酬を用意するのもいいかもしれないわ。私が留守にしている間、選定をしておいてもらえるかしら?」

「……無難に金一封で良いんじゃないでしょうか」

「それも含めて学習意欲につながりそうな何かを考えておいて頂戴」

「かしこまりました」


 セレスティナが頭を下げたところでオクタビアは食事を終えたので仕事を再開する。

 それを見ていたセレスティナがもう少し休んだ方が良いのでは、と問いかけたが彼女は首を横に振った。


「できるだけ終わらせておきたいわ。週に一回くらいは戻ってくるつもりだし、何かあった場合はすぐに戻れるようにしておくけれど、出来る限りそういう事は減らしておきたいし」


 セレスティナの方に視線を向ける事もなく、書類を見ては可否を判断し、玉璽を押すオクタビア。

 そんな彼女を「明日に支障が出ない程度にしておいてくださいね」と釘を刺すセレスティナだった。




 翌日の朝日が昇る少し前の時間に、オクタビアは目を覚ました。肩から掛けられていた上着に気が付き、それから起きた自分に呆れた視線を向けているセレスティナにも気が付いた。


「ほどほどにしてくださいと申し上げたはずですが」

「緊急の案件が入ってしまったのだから仕方がないでしょ?」

「……仕事を任せられるようになるのも考え物ですね」

「それはそうね」


 以前までのオクタビアはお飾りの女帝だったが、今では立派に政務をこなす事が出来ていた。

 今の彼女であれば後ろ盾がなくなったとしても女帝の地位は揺るがないかもしれない。


「出立の準備は既に終えております。後は御身を清めた後に諸々するべき事をすれば完璧です」

「そう。それじゃ眠気覚ましにお風呂に入ろうかしら。そっちの準備は万全かしら?」

「はい、問題ありません。元々、朝に最後の仕上げをする事にしていましたから、他の者たちも活動を始めております」


 セレスティナの返答に満足したオクタビアは、皇帝のみが使う事を許された浴場へと足を向ける。

 寝癖が付いた髪の毛はそこで直され、変な姿勢で眠っていた事によって感じていた節々の痛みもマッサージされるうちに感じなくなった。

 陶器のように白い肌は他国から取り寄せた秘蔵のオイルによってピカピカに磨き上げられ、紺色の髪からはほのかにいい香りが漂うようになった。

 最近手早く済ませていた風呂での作業は丹念に行われ、入浴を終える頃には身だしなみもしっかりとした女帝がそこにはいた。


「完璧です、皇帝陛下」

「いつも以上にお美しいですよ」

「これならばあの御方も手を出してくださるかもしれません」


 彼女の体を磨き上げた侍女たちが口々にそういうが、オクタビアは「シズト様はそんな事はなさらないわ」と残念そうに呟いた。

 そういう方であればどれほど楽だっただろうか。そんな事を思いつつも、そういう人だったらここまで恋愛について学び、彼に恋する事はなかっただろう、なんて事を思うオクタビアだった。

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