表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1160/1313

後日譚348.事なかれ主義者は使わせたい

 静流と蘭加の誕生日から数日経った。

 彼女たちの誕生日が過ぎればまた一カ月ほどプレゼント選びに猶予ができる。

 だけど、その後に控えた十一月は誕生日祭りだ。合わせて五人。……選ぶのが大変だけど二歳になるまではこちら側で選ぶと決めたのだからやり遂げなければ……。

 だけど、それはまだ一カ月以上も先の話だ。ちょっと後回しにしても大丈夫だろう。きっと。

 そう自分に言い聞かせ、静流と蘭加の誕生日の後はいつものルーティンをこなす日々に戻っていた。

 誕生日前と違うのは蘭加が加護を使いたくなるように、関わる際にちょっと工夫する事と、別館で暮らしている子たちの恋愛を推進する事に勤しむようになったことくらいだろうか?

 蘭加が『加工』を使いたくなるようにするためにはまずは『ものづくり』に興味を持って貰えばいいのではないか、と思って木工を始めた。職人を呼び寄せるとか、ドフリックさんにお願いするとかすれば手っ取り早いんだけど、蘭加は人見知りで恥ずかしがり屋なので僕たちがするしかない。

 それに、親しい間柄の人がしている事は自分もしてみたくなるんじゃないか、という思惑もあった。

 そういうわけで、今日も今日とて蘭加の近くでせっせとDIYに励む。


「パパ、どーぞ!」

「ありがとね、静流」


 ……静流が積極的にお手伝いするようになったのは誤算だった。

 彼女から木の板を受け取って、慎重に釘を狙って槌を振り下ろす。それを何度か繰り返せば、見栄えが悪い椅子の出来上がりである。


「…………角、危ないな。蘭加、ごしごしするやつ取ってくれる?」

「はーい」


 元気に返事をしたのは静流だ。蘭加じゃない。蘭加はというと、静流と手を繋いで行ったり来たりするだけだ。

 なかなか思うように関心を引く事が出来ないなぁ、なんて事を考えながら静流にジッと見られながらやすりをせっせとかけた。


「『加工』の加護が使えたらこんな事しなくても済むんだけどなぁ」


 そうは言っても還してしまった物はないんだから仕方がない。加護を使えた頃ほどの物を作れるようになるにはどれだけ時間がかかるのかなぁ、なんて事を考えつつも休まずやすりを動かし続けた。




 不格好な椅子の角が大体丸くなったところで今日のDIYは終わりにして、蘭加と静流と別れて別館へと向かった。

 別館では、僕と婚姻関係にない人たちがそこそこの人数暮らしている。その多くが女性なのは何かしらの意図を感じなくもないけれど、男の人も一定数いた。せっかくなのでそちらとくっついてもらって、万が一にも僕と結婚する事にはならないように持って行きたい。

 バーンくんたちの事は余計なちょっかいを掛けなくても問題なさそうだとここ最近気づいたので放置しているけれど、放っておいても進展がなさそうな人たちがここで暮らしているので連日のように別館にやってきて様子を見ていた。


「シズト様、こんにちは。今日もジューロちゃんと一緒に魔道具作りの練習するんですか?」

「そうだよ。お邪魔してもいいかな?」

「シズト様のお家だからお邪魔じゃないですよ」


 フフフッと声を出して笑ったのはピンク色の髪の毛が目立つ人族の少女、アンジェラだ。

 彼女はスカート丈が短めのメイド服を着ていたが、オシャレとかではなくて運動をする時に動き辛いからだそうだ。オシャレに気を使う年頃でもおかしくないんだけど、今は彼女よりもジューロちゃんの所に行かなければ。


「千与はもう来てる?」

「はい。ジュリーニさんが連れてきてくれてますよ」

「そっか。彼にもお礼を言っておかないとね」

「むしろお礼を言うのはジュリーニ君の方な気がしますけどね」


 意味深に笑うアンジェラから見てもジュリーニがジューロちゃんを慕っているのは分かるのだろう。

 ただ、ジューロちゃんの方は魔道具の事で頭がいっぱいだから全く彼の気持ちに気付いていないらしい。

 そういう訳だから、ここ数日は魔道具作りの様子を見学もしくは体験を千与にさせるという名目で、ジュリーニに千与を連れてきてもらっていた。

 部屋に入ると黒い髪の幼い女の子が僕に気が付いて近づいてきた。


「おまたせ、千与。いい子にしてたかな?」

「うん」


 目線を合わせて話すためにしゃがんだ際に引っ付いてきた女の子を抱き上げると、黒い目で僕を見上げてくる。千与は人見知りはするけれど、蘭加ほど恥ずかしがり屋じゃないのでこうして知らない人の部屋でも落ち着いて過ごす事ができる子だった。


「モニカ様もあともう少しでいらっしゃいます」

「あ、そっか。今日はモニカも魔道具作りに挑戦するんだっけ。……よろしくお願いしますね、先生」

「え? あ、はい。が、頑張ります」


 蚊帳の外だった……というよりは魔道具作りに集中していたこの部屋の主が僕の声に反応して椅子から立ち上がった。ノエルだったらこっちを見る事もなく適当に返事をするよな、なんて事を思いつつも口には出さず、新しく用意された机に腰かける。

 魔道具を作る方法は大きく分けて二つあるらしい。直接魔石に魔法を付与するタイプ――『沸騰魔石』や『入浴魔石』など――と、魔法陣を書き込んで魔力を流すと使えるようにするタイプだ。もちろん僕が挑戦するのは後者だ。直接魔石に魔法を付与しようとしてもそもそも魔法が使えないから。

 ただここで問題となるのは、綺麗な直線や円が掛ける事が必須である事だった。

 すぐにでも魔道具を作って千与に興味を持たせる計画だったけど、これがなかなか難しい。専用の魔道具とインクに魔力を込めながらだと難易度はさらにあがった。

 定規とかコンパスが欲しいな、なんて事を思いながらも今日も今日とて真っすぐな線を引く練習をして時間が過ぎていく。

 最初はその様子をジッと見てくれていた千与だったけど、お母さんであるモニカが部屋にやって来たところで興味がなくなってしまったようで、モニカと一緒に独楽のようにゆっくりと回る魔道具を回して遊んでいる様だった。

 ……『付与』を使わせるんだったら常日頃から魔道具に触れさせてればその内勝手に作るんじゃないかな、なんて事を思わなくもないけれど、娘が見ていなくても頑張って直線を書き続けるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ